最初に誤解のないように言うと、「転職」が無意味だというわけでは決してない。
むしろ、意欲的に「転職」できる人は、仕事面では、ある程度自分の進むべき方向が見えているとも言える。
一方で、転職だけで「ライフシフト」したと言えるほど大きな変化を描けるかというと、必ずしもそうでは無い。
やはり「ライフシフト」とは何かを、もっと具体的に、その本質を整理しておく必要がある。

ライフシフトは、個人の「ビジネスモデル・チェンジ」だ。

では、何がどこまで変わるのが、ライフシフトだといえるのか。
端的に言えば、それは個人のレベルで、ビジネスモデル(収益構造)を変化させることなのではないか。
つまり、収入を得る方法やスキーム自体を変えるのが「ライフシフト」なのだ。

ここでいう「収益」とは、「いつ、どこで、誰から、どんな方法で」収入を得るかということだ。
なので、自ずと金銭的な関係のみならず、人的関係性や、時間や空間などの環境も包含している。

昔、大前研一さんが、こんなことをおっしゃっていた。

人間が変わる方法は三つしかない。
一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える。
この三つの要素でしか人間は変らない。もっとも無意味なのは「決意を新たにする」ことだ。
引用:大前研一(著)『時間とムダの科学』プレジデント社(2005)

ライフシフトというのは、ある意味このことを言い換えているのかもしれない。
例えば、同じ場所で、同じ業界に「転職」しても、この3つはほとんど変わらない。
良い悪いではなく、この点が「ライフシフト」とは大きく違う点だというのは容易に説明できる。
起承転結でいうと「転職」は一つの「承」であり、「ライフシフト」は、本当の意味での「転」にあたるのではないだろうか。

なぜ「ビジネスモデル」を変えなければならないのか

では、なぜ個人レベルでのビジネスモデルまでを変えなければならないのか。
これについては、まさにリンダ・グラットン氏のベストセラー「LIFE SHIFT」が雄弁且つ詳細に言及している。

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つまり、人生100年時代では「一社にだけ雇われ、退職金と年金で余生を過ごす」ことが困難だからだ。
誰しもが複数のモデルを並行して試し、可能性を試行錯誤して、少しでも多く長く、社会での役割を担う必要がある。
このことに、もう疑いの余地はない。

そう考えると、「副業」「兼業」も、その手段の一部であるのが明確になる。
「転職」というプロセスは、むしろその成果を「試す」段階に至った人が行うステップにも見えてくる。
そうすると、「移住」すれば「人生が変わる」などという甘い考えも湧いてこない。
むしろそれは、ある程度の強い確信と主体性を持って、ググっと踏み出す大きなステップだ。
また昨今の「働き方改革」という言葉も、大いに利用すべきありがたいチャンスに見えてくる。

ライフシフトを生み出す「ツール」が溢れる時代

ライフシフトのきっかけを見出し、自分の可能性を探る方法は、今の時代、本当に身の回りに溢れている。

趣味や特技を活かした副業で新たな収益を生み出すプラットフォームも、多種多様になってきた。
クラウドソーシングや、個人でモノを売り買いできるCtoCマーケットプレイスなども数限りなくある。
ある程度練り上げたビジネスプランの具現化を、金銭的にサポートするクラウドファンディングもそうだ。

SNSを筆頭に、同志や仲間を集めるプラットフォームも様々。
知識やノウハウなどの情報は、すでにネット上で共有され、満たされている。
またAIなどを活用した資産運用手法の多様化も、同じく個人の「ビジネスモデル」の変化を促しているとも言える。

時間と空間を超えるツールも枚挙にいとまがない。
他拠点居住を簡単にするサービスなどは、住む場所すら自由にしてしまう。
もっと言えば、自動運転技術もまた、それを加速させるに違いない。

ライフシフトは、ある意味「すぐ手の届くところ」にある。
もちろん簡単ではないが、「いい時代」ではと思えてくる。

今、転職するべき「いい会社」とは?

ライフシフト前提の人生観から見ると、明らかに「個人」と「会社」の関係は大きく変わる。
こういう時代に、「転職」するべき会社とは一体どんな会社なのか?

これからの「いい会社」は、やはり”自分のライフシフトを促してくれる”会社ということになるだろう。
企業も個人も、今の「雇用関係」が最終地点であるという認識は完全に無くなる。
最終地点は、「自分の幸せ」そのものだ。
そのための”きっかけ”や”武器”を提供できる組織が、「転職するのに”いい会社”」ということになる。

そうしたライフシフトへの”きっかけ”や”武器”を得る機会は、当然都会にだけあるわけではない。
いやむしろ地方のほうが多い気がしてならない。

地方は、ライフシフトの「見本市」

なぜなら、私が出会った地方で活躍する人たちは、本当に天才的な「ライフシフター」ばかりだからだ。
例えば…
・デジタルマーケティングの経験を活かした仕事をフリーランスでやりながら、素敵な民泊やカフェを営む人
・地方公務員から観光のスペシャリストになって、全国どころか世界を飛び回っていいる人
・道の駅の経営者から、全国引っ張りだこの「食の仕掛け人」になった人
・全国あちこちに3~4箇所も「すみか」を持って、編集やライターで地域を可視化しまくる人
・エリートサラリーマンから、起業して日本各地の物産を掘り起こしまくる人
・地域おこし協力隊をきっかけに地元に根付き、その場所で無くてはならない人材になっている人
…などなど、本当にみんなすごい。

でも特別な能力を持っているというわけではなく、ものすごく戦略的にというわけでもなく、
もちろん全部が上手く行っているというのじゃないかもしれないが、ちゃんと上手く「ビジネスモデル」を変えている。
そして、とにかく目の輝きがすごい。

ライフシフトは、やはり個人の「ビジネスモデル・チェンジ」がその本質だ。
そして、それを成し遂げるには確固たる「主体性」が欠かせない。
それを身に着けたこういう人たちが、更に各地に増殖していけば、日本自体が「ビジネスモデル・チェンジ」する。
それができれば、新しい未来が描けるはずだ。

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【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。