宮崎、群馬、高知などと並ぶ全国有数のきゅうりの産地・徳島県。四国の右下エリアは冬場の日照時間が長く、安定した収穫が見込めることから、農業用ハウスを使ったきゅうりの促成栽培が盛んに行われていました。しかし、近年の少子高齢化により、きゅうり農家はピーク時の4分の1(29戸)にまで減少。そのため美波町、牟岐町、海部町の3町とJAかいふ、徳島県などの関係機関が共同で「きゅうりタウン構想」を立ち上げ、新規就農者を育成する『海部きゅうり塾』を開講。ベテラン農家の知恵や技術を結集させ、最新技術を駆使したきゅうりの養液栽培にチャレンジしています。

農業の「キツい」「儲からない」といったマイナスイメージを払拭し、“30 a(アール)で所得1000万円”を目標に掲げ、新時代の農業で地域創生に挑む「きゅうりタウン構想」について、JAかいふと徳島県南部総合県民局(美波農業支援センター)の皆さんにお話を伺いました。

◎参考サイト
海部きゅうり塾Fecebookページ https://www.facebook.com/kaifukyuuri/

※この内容は「四国の右下移住ナビ」より転載しています。
https://go-migishita.com/

 

10年後の未来のために きゅうりの養液栽培にチャレンジ!

海部エリアを拠点とした「きゅうりタウン構想」が動き出したのは、2015年春。高齢化の影響もあり、農業が衰退する中で、就農を希望する若者や移住希望者に活路を見出し、産地の再生を図ろうと、美波町、牟岐町、海陽町の3町とJAかいふと徳島県南部総合県民局が共同で「きゅうりタウン構想」を打ち立て、「海部次世代園芸産地創生推進協議会」を設立し、新規就農者を育てる「海部きゅうり塾」、きゅうりの養液栽培を確立するための「次世代園芸実験ハウスの整備」、「SNS等を利用した情報発信」の3本柱で、10年後の未来に向けた一大プロジェクトが始まりました。

10年後の目標は、

・産地面積 5.6ha→10 ha

・収量 20t/10a→30t/10a

・所得(30a) 690万円→1000万円以上

若手就農者を確保し、産地を活性化することを目指しています。

徳島県南部では、オンシジウムや春にんじんなどの生産も盛んに行われていましたが、冬場の日照時間が長いという海部エリアならではの特色をいかし、きゅうりの促成栽培に注目。「開講当初、きゅうりの空きハウスがたくさんあったので、それらを活用して新規就農のハードルとなっている初期投資の軽減につなげようという話もありましたが、土耕栽培よりも負担が少なく、就農者にとってより魅力的な農業を目指そうと養液栽培にシフトし、次世代園芸実験ハウスを使って研修を行っています」。

促成きゅうりは育てるのが難しく、経験と勘がものをいう作物。ある程度の収量を確保するには10年かかるといわれる新規就農者にとってハードルが高い野菜なんだとか。そのうえ他の野菜に比べて作業が多く、単調であること、ハウス内の湿度や温度が高く、土耕の場合は足元も悪い。そうした過酷な労働状況を改善し、女性も就農しやすい環境を作ろうと誕生したのが、次世代園芸実験ハウスです。このハウスは、温度管理や水やりも複合環境制御技術により自動で行われ、栽培状況のデータが取得できるようになっています。

「養液栽培は全国でも事例が少なく、私達の取り組みも始まったばかり。篤農家(ベテラン農家)さんの意見も伺いながら、JAかいふの営農指導員などと共にデータ分析を重ね、新規就農者の早期自立につながるよう、協議会のメンバーが協力して新しい農業の確立を目指し、日々努力を重ねています」。

 

経営感覚をもった農業人の育成を目指す 海部きゅうり塾

農業はとにかく体力勝負!若ければなんとかなる・・・という思い込みと勢いで、移住就農を志す人も少なからずいる中で、「海部きゅうり塾」では栽培方法だけでなく、営農計画やGAP(Good Agricultural Practiceの略。農業生産工程管理のこと)などの座学も重視。実践研修と半々でしっかり研修し、1年をかけて新時代の農業に対応できる農業人を育成します。

農業を始めるにあたり、軽トラや消耗品の購入、当面の生活費など、初期投資は1000万円くらい必要。5~10年かけて原価償却していくとしても、500万円くらいの貯金はあった方がいいですね。塾生の中には先々の経営計画もシミュレーションして、『僕はムリです』って判断し、就農しなかった人もいます。ただただ農作業だけしていればいいというのではなく、どうすれば収量が増やせるか、生産コストの削減など経営感覚のある人が向いていると思います」とJAかいふ担当者。


「海部きゅうり塾」ではこれまで22名を受け入れ、うち16名がきゅうり農家として就農。養液栽培のレンタルハウス(17a)で営農を始めた修了生の中には1210万円(うち経費750万円、所得460万円)を売り上げた人もいて、「田舎でも1000万円稼げるというのは魅力的。自分の手腕で所得を増やすこともできるというのは夢がある。地域をあげて私たちもサポートしています」と話す。

 

消費者との交流や体験ツアーも実施
きゅうり農家の魅力発信にも注力

2017年、JAバンクのCM『農業 LOVES YOU』に取り上げられたことをきっかけに、きゅうりタウンが注目を集めるようになると、消費者にも関心をもってもらおうと、道の駅日和佐に交流拠点を整備。きゅうりの収穫体験やきゅうりスイーツ開発などを通じて、農業への関心を持ってもらうような活動も始めました。


2018年から美波町のレンタルハウスで養液栽培を行っている勝又さんは、きゅうり塾の2期生。きゅうりの収穫体験の協力をされているとのことなので、ハウスを見学させてもらうことに。

17aのハウスは広々としてキレイ!地面はシートで覆われ、土足禁止。「ちょうどこの前1500株を定植したところです」という勝又さん。約1カ月後から収穫が始まり、7月まで毎日収穫するのだとか。大変ですね…と声をかけると、「毎日収穫できるということは、毎日収入があるということ。きゅうりは傷みやすいので海外から輸入できないんですよ。だから新鮮で安全で、美味しいものを消費者も選んで買っている。品質だけでなく、栽培の段階を見てもらっても養液栽培は自信をもって安心・安全と言える商品。プライドをもって作ったものがちゃんと消費者へ届いているという実感があります」という。

きゅうりの培地もココナッツピートを使っていて、使用後は土と混ぜれば堆肥として活用もできるし、排水を貯めておく池には鯉が泳いでいるし、ハウスの周囲にもシートが敷かれ、見た目や衛生面も◎。

Uターンし、アパレルや飲食などのサービス業からきゅうり農家へ転身した勝又さん。「接客は楽しかったですが、残業も多く、セール前や年末年始などは本当に忙しくて、家族で過ごす時間もなかった。今はハウスの中で好きな曲を聴きながら作業できるし、日が暮れれば家に帰れる。勤めていた頃より身体は楽です(笑)」と話します。

勝又さんのように若い就農者が増えたことで、きゅうり農家の数の変動はないけれど、構成する世代は、かなり若返ったそう。

海部きゅうり塾の取り組みを知り、現地を見学できる「就農・移住体験ツアー」が開催されます。農業で生計を考えている移住希望者の方のご参加をおまちしています。

徳島県かいふ&海部きゅうり塾 就農・移住体験ツアー【2日間】参加者募集中

開催日
2019年10月23日(水)、24日(木)
11月12日(火)、13日(水)
12月10日(火)、11日(水)

代金:12,000円(大人お一人様・2名様1室利用)

食事:朝食1回、昼食2回、夕食0回

募集人数:8名様(最少催行人員4名様)

申込締切:出発日の20日前

申込金   :2,000円(旅行代金に充当します)

問い合わせ・お申し込み 株式会社 農協観光徳島支店 TEL 088-633-0003