日本政府がいわゆる「地方創生政策」の第二フェーズで、来年度令和2~6年度の5カ年で実施する「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」の基本方針に、「関係人口創出」が盛り込まれたことを受け、今各自治体では、専門チームを組成するなどしてその動きを活発化させているという話を耳にします。

こうした動きを受けて、「関係人口とは何か」については以前こちらのコラムで意見を含めて述べさせていただきました。
参考:【コラム】誤解しがちな「関係人口」の意味とは?〜マーケティングの観点から見たその本質〜

それはそれとして、一口に「関係人口を創出せよ」と言われても、各自治体では相当悩んでいるのは想像に難くありません。
むしろ「移住者を増やせ」と言われたほうが、何をやるべきかは具体的に思い浮かぶというもの。
しかし、それがなかなか結果として現れにくいし、移住するプロセスを詳細に分解して戦略的に取り組もうという中から生まれたのが正にこの「関係人口」という言葉だけに、厄介この上ありません。

では、その難しさはどこから来るのでしょうか? そこには大きく3つの理由があると考えます。少し冷静に紐解いて行きましょう。

理由① そもそも何をしたらいいのか分からない。

関係人口と一口に言っても、その関わり方は人それぞれ。地域によって、どんな関わり方をしてもらえばいいのか、そのパターンも無限と言えます。
移住促進が、「地域:対象者=1:n  」の課題だったとしたら、関係人口創出は、まさに「地域:対象者=n:n  」です。
考えれば考えるほど、その複雑さは想像以上に増してくるはずです。
考える幅や内容自体は「自由度」が増し、地域特性も出しやすいとも言えますが、それだけに「戦略」や「企画」の質が問われるとも言えるでしょう。
民間企業でいえば、既存事業の売上を増やすために考える「新規営業開拓」と、全く新しい事業を起こす「新規事業開発」との違いに匹敵する差が、そこにあると言えます。

理由② 誰の力を借りたらいいのか悩ましい。

「関係人口創出」事業は、一見いわゆる「シティープロモーション」的な企画ではと考える人も少なくないかもしれません。
その地域の魅力を発信して、そこに興味関心を持ってくれる人を集めてくるのが一つの方法ではないかと。
とすれば、かつての「シティープロモーション」企画を依頼した、広告代理店や、プロモーション企業を巻き込めばいいのでは…。
そう考えてもおかしくはないと思います。

ただ、これには大変大きなリスクが伴います。

というもの、「いい場所だから、一度はおいで」レベルの発信では、関係人口と言えるような”熱”のある人は、到底集まらないからです。
「じゃあ、誰が手伝ってくれるんだろうか?」
自治体の担当者の中には、そう悩んでいる人も少なくないかもしれません。
しかし残念ながら、実はその悩み方自体が、悩みの根本原因だとも言えます。

理由①でも触れたとおり、関係人口創出は、「新規事業開発」に近いです。要するに「どんな人に来てもらいたいか」、すなわち「誰を新しい顧客ターゲットとするか」は第三者では決められないからです。ここだけは、やはり「当事者」がしっかり議論して決めるしかありません。
ターゲットを決め、それを集めるための地域の強みや資源を見定めた上で、それを「どう実現していくか?」かを考えるパートナーは、もちろん広告代理店でも、あるいはマーケティング専門会社でなども、十分助っ人になってくれると思います。
すなわち、「関係人口創出事業」には、その地域の主体性がより強く求められるのです。
共創が当たり前になる中で、もちろん自分たちだけでやらねばと気負いすぎる必要はないと思います。しかし、パートナーを選ぶ前提となる、核となる考えは、やはり地域でしっかりと固めなければ意味がありません。
ある意味どんな事業もそうだとも言えますが、関係人口創出にはその傾向がより顕著だと思います。

理由③ 情報発信が極端に難しい。

一方で、関係人口創出事業として、実はあちこちで既にユニークな取り組みが始まっていることも事実です。(その事例なども、おいおいご紹介していきます)
同時に、その多くが、実は随分前から取り組んでいる移住促進や地域活性化の取り組みの一貫だったりもします。
そういう地域の人たちにとっては、「何をいまさら。うちは何年も前からやってるよ」と思うことも少なくないでしょう。
これまで「地方創生先進地域」として有名になった取り組みは、ある意味その殆どが「関係人口創出事業」とも言えます。

しかし、仮にそうであっても、多くの地域が悩んでいるポイントがあります。
それは、「情報発信」です。
関係人口創出事業の難しさの一つが、仮にその取組そのものが面白く、意義深いものであっても、それを更に発展させるために、ターゲットとなる人に広く認知してもらうのが、本当に難しいのです。
もちろん、話題になって、テレビで取り上げられて、、などという事例もありますが、そこまで行けるのはほんの一部です。またそういう一時的な効果は、概して長続きしません。地域の仕組みとして、細く長く取り組んでいければと考えるものが多い一方で、継続的に関わる人にリーチするのが、本当に難しいのが、この事業の特徴でもあります。ホームページを作っても、アクセスを伸ばすのは容易ではありません。なぜなら、検索してアクセスしてもらうにしても、なかなかそのキーワードを定めづらいからです。

もちろん、手段がないわけではありません。考え方や思考が近い人を集めるには、SNSはうってつけですので、その活用は必須でしょう。
しかし、そう入っても簡単ではないので、様々な試行錯誤が求められます。

冒頭にご紹介した、以前のコラムでもお話したように、関係人口は、いわゆる「熱烈なファン」と言い換えることができます。
地域のファンを創るには、熱いファンを引きつける熱量を持った、核となるものがなくてはなりません。

この、特集「関係人口を考える」では、そうした核を作るためのアプローチをどうしていったらいいかについても、考えていこうと思います。

文:ネイティブ倉重

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