忖度ゼロの提言に、我々はどう向き合えるのか?

デービット・アトキンソンさんの著書は、これまでも、多くのインパクトを日本全体に与えてきました。

「新・観光立国論」は、日本のインバウンド観光戦略の基礎となり、「世界一訪れたい日本のつくりかた」では、その戦術がまさに全国の観光事業者のベースとなりました。
さらに、その思索は観光分野にとどまらず、 「新・所得倍増論」や、「日本人の勝算」では、日本の産業のあるべき方向性を明快かつ厳しい語り口で指摘し、鼓舞されてきたと思います。

しかし、今回の強烈さは、それらを大きく超えるインパクトです。

「中国の属国になるか」 …サブタイトルに記されたその一文だけでも、それはあまりに強すぎて、手にとるのを躊躇する人もいるのではと思いくらいです。

ある意味自分もその一人でしたが、今回はまさに”恐る恐る”…読んでみました。

やはり、、というか、思った以上に強烈でした。(笑)

すべての原因は「下町ロケット」神話にある。

結論から言うと、デービットさんは
「この30年の日本低迷の主要因は、”中小企業の生産性の低さ”にある」
と言及されています。

中小企業といえば、「日本の宝」。 「下町ロケット」に代表される、ある意味日本人の誇りです。
そこに躊躇なく踏み込み、課題を深刻さをいつものごとく理路整然と、テータを元に論じています。

アトキンソンさんは、何十年も日本に住み、茶道に精通し、今や国宝や文化財の修復会社の社長という立場にまでなっています。
単なる「日本通」というレベルではない。しかし、同時にイギリス生まれの外国人で、敏腕アナリストです。
日本への深い愛情をベースにしつつも、忖度の「そ」の字もない言及が、そのインパクトの源になっています。

しかし少し冷静に読んでいくと、決して「非効率な中小企業は全部つぶしてしまえ!!」と叫んでいるわけではありません。
“長いものには巻かれろ”的な発想で、「みんな大企業に就職しよう!」と言っているわけでも、もちろんありません。
世の中の変化や流れについていけていない経営者を厳しく批判し、統合や新陳代謝を怠りながらも、ナアナアな支援ばかりを繰り返す国の政策に対して、厳しい指摘をしているのです。
そして何より、それをあたかも当たり前のように見過ごしている日本人全体に対して、「目を覚ませ!」とこれ以上なく強く訴えています。

別の視点、すなわち、より事業環境が厳しい「地方」の観点から見ると、
実は”否が応にも”中小企業の淘汰が進んでいます。
しかも最近は、地方の優良企業のM&Aを進めるビジネスが加速し、個人ですらそうした会社を買収する機会すら増えているのです。
それは、地方でどんどん事業者の破綻が加速する面もありつつ、
一方で新陳代謝や、統合による「生まれ変わり」の最前線でもあります。
同時にそれは、人生100年を幸せに生きるために必須の「ライフシフト」を描く機会にもなりつつあるのです。

「生まれ変わる」ことの厳しさと希望

この本を読みながら、思い出した言葉がありました。
それは、2011年の秋ころ、初めて石巻にボランティアで行ったときに、ある地元の方から聞いた言葉です。
その方は、数百年も続いた家業の跡取りで、それが津波で跡形もなくなくなった、自分と同じくらいの世代の方です。
作業の休憩時間だったか、自分の横にいたその方が、ふとおっしゃいました。

「実は、自分には今、”希望”しか感じられないんですよ。
もともと石巻は、衰退する一方の町でした。なのに年配者が牛耳ってて、若い人は全然動けなかった。
今、ご覧の通り、津波で何もなくなった。しかも年配者がみんな意気消沈してる。これはチャンスです(笑)
あとは、若い自分たちが、自由にできます。もう、やるしか無いんですよ。」

こんな主旨の言葉でした。これには、本当に頭を殴られたような衝撃をうけました。
人間ってなんて強いんだろう。また同時に、自分はこういう境遇で、こういう言葉を吐ける人間になれるだろうか。とも思いました。
あのときの気持は、いまもまざまざと思い出されます。

この著書からは、ある意味この時と同じ種類の感触の衝撃を感じました。
なので自分にとっては、少し懐かしかったかもしれません(笑)

日本は、今まさに、「生まれ変わる」時期に来ている。本著はそれを改めて痛烈に感じさせてくれました。
これは本当に厳しいことだと思います。
デービットさんがおっしゃるように、グズグズしていたら、次に起こる可能性のある大災害に間に合わなくなるかもしれません。
しかし一方で、考えたくはないのですが、万万が一そういう事になったとしても、
個人的な感覚では、なぜか「中国の属国にはならない」気がします。
それは、全く根拠もないので、言い張るつもりも全然ないのですが、もしかしたら、あの石巻での経験がそう思わせてくれるのかもしれません。
そう思いたいだけなのかもしれませんが。

一方で、課題は山積みで、急いで根本的な部分を変えなくてはならないのは明らかです。
“神風”を頼るつもりは毛頭ないし、ありえません。
本書への賛否は問題ではありません。すべての人が、本書を真正面から読むべきだと感じました。
特に政府や自治体の方は必須で。経営者もマストで。

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【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。