みなさんは、「経洗塾」という起業家塾をご存知でしょうか。実は、この塾は起業家をサポートする塾ではなく、起業家や経営者を生み出す塾です。さらに、そのプログラムや提携期間なども特殊なものとなっており、日本でも稀有な存在になっています。今回は、その経洗塾を運営されている井上智央さんにお話しを伺ってきました。

経洗塾 

株式会社キャンバスプロジェクトが運営する、新規ビジネスを0からスタートする人向けの起業家塾。シードベンチャー創出に特化した独自のプログラムを展開。卒塾生は軒並み資金調達に成功しており、そのプログラムに注目が集まっている。

記事のポイント

  • ビジネスを学ぶのではなく、経営者になる
  • 分析精査を徹底した事業計画
  • 金融機関等と連動したシードベンチャー創出プログラム

経営者になる塾、「経洗塾」

ー現在、「経洗塾」という起業家塾をやられていると思いますが、こちらのプログラムはどのようなものでしょうか。

経洗塾のプログラムは基本3ヶ月で、各自でベンチャービジネスの事業計画をつくるものになっています。通常のアクセラレータープログラムや事業計画セミナーとは違い、最初にビジネスプランを作らせず、市場分析と競合他社の現状や成長戦略の分析精査を徹底させた上で事業計画を練らせています。塾生はビジネスのリリースがゴールです、というよりリリースができないと卒塾できないようになっています。

経洗塾での活動の様子

ーいままで、どのくらいの方が卒業されていきましたか?

現在までに100人弱が経洗塾に入塾し、その内の14、5人だけが卒塾できています。あくまでビジネスを学ぶ場ではなく、経営者になる場ですので、リリースし、経営者になることが出来なければ卒業できません。そのため、卒塾できずに終わってしまう方も多いですが、一方で卒業された方の約9割は初期の資金調達に成功しており、次のフェーズに進もうとされています。入塾の際の試験や基準は特にありませんので、ベンチャービジネスを起こしたい人なら誰でも入塾することができます。

ー他にも、経洗塾のプログラムの特殊な点はありますか?

一つは、基本そのビジネスを是が非でもリリースするという確固たる思いがなければ先に進むことができない点です。当初、一泊二日のプログラムを作ろうとしました。しかし、たいてい短期間ではやる気や事業に対する熱意が、瞬間的に発生して、瞬間的になくなってしまいます。そのため、ある程度の期間考え続ける場を与え、塾生に熱意を固定させ、覚悟を決めさせた上でやらせています。もう一つは、経洗塾で確立したベンチャー創出プログラムは、金融機関等と連動している点です。ベンチャー企業は、直接金融*1であるベンチャーキャピタル(VC)からの投資によって、事業を拡大させていくことが多いですが、経洗塾発のベンチャーは間接金融*1を絡めた事業拡大を同時に考えていき、その中で直接金融を活用できそうな時に活用していくのが特色です。直接金融と間接金融の両面から評価されるビジネスを作らせています。

*1 直接金融と間接金融を比較した図と表

種類元本返済提供物関係性
直接金融投資義務ではない株式長期
間接金融融資義務担保や個人補償短中期

ー金融機関もまきこんでいるのですね!となると、広島での経洗塾の存在感が大きくなってきているのでは?

そうですね。最初の3年くらいは提携にこぎつけるのに苦労しましたが、徐々に協力してくださる方も多くなってきています。現在では、中国経済産業局、広島県庁、各金融機関、日本政策金融公庫と横断的に連携しています。広島でベンチャービジネスを本気で起こしたい人が相談しに行くと、経洗塾を提案して頂くという枠組みが広島内で着実に形成されています。

ー金融機関との連動やプログラムの内容など、とても珍しいように思えるのですが、そもそもなぜ経洗塾を始められたのですか?

海外での生活も長かったこともあり、海外のベンチャーと比べて、日本のベンチャーはスケールや成長スピードが劣っているというのを肌で感じてきました。しかし、日本においてシードベンチャー創出プログラムを持っているのは都内のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)か経洗塾くらいで、日本全国でみても経洗塾は稀有な存在なのです。シード以降のベンチャーをサポートするエコシステムは東京や東北、九州にも乱立してますが、ゼロベースからシードベンチャー創出に取り組んでいるところはほぼありません。だからこそ、シードベンチャー創出に取り組むことに価値があると思っています。

ー今後、経洗塾をどのように展開していきたいと考えていますか?

経洗塾のプログラムは、事業計画を金融機関と連動させながらブラッシュアップしていくものとなっています。そのため、東京都内を中心に展開しているVCや直接金融へのアクセスが弱い地方では、経洗塾のプログラムを活用できると考えています。また、トレンドに乗らなければ成長できないベンチャーではなく、瀬戸内海独自のリソースを用いたベンチャーを創出するエコシステムを確立するためのアクセラレートプログラムになってます。なので、中国全5県や四国への展開を検討しています。他には、経洗塾独自のアクセラレーターを育成し、展開していきたいです。

取材・文:編集部
写真提供:経洗塾

●井上 智央

ミネソタ州立大学政治学部を卒業。国内数社のベンチャー企業の取締役、CFO、海外事業・新規事業統括責任者を歴任。2011年よりスイスに本店を置く世界最古の金融機関の一つ、ピクテ銀行の外部後見人として世界各国の事業立ち上げも行う。広島・岡山を中心に中国地方で若手経営者向けの経営塾「経洗塾」を主宰。
担当事業:経洗塾本部、経洗塾アルムナイクラブ

●経洗塾(運営会社:株式会社キャンバスプロジェクト)概要

  • 代表取締役 : 井上智央
  • 所 在 地 : 広島県広島市中区東白島町17-4 カーサエミネンス 502
  • 設  立 : 2012年
  • 事業内容 : ベンチャー育成・サポート事業、人材育成事業
  • 経洗塾 コーポレートサイト