世の中には、一見ビジネスチャンスがなさそうなところにそれが眠っていることがある。プレジャーボート(海上レジャー用の船舶の総称)、とてもラグジュアリーな響きであるが、シェアリングというモデルとかけ合わせ、それを使った海遊びを広めようとしているのが、株式会社アルファフェニックス代表取締役藤井肇氏(以下、藤井氏)である。プレジャーボート×シェアリングの可能性について、藤井氏に伺った。

藤井 肇(ふじい はじめ)

大手旅行会社出身。広島エリアで法人営業に従事。
その後中小旅行会社経営しながら、富裕層のインバウンドや地域活性化の事業にも取り組み、2015年7月株式会社アルファフェニックスを創業。

記事のポイント

  • シェアリングエコノミーを活用した事業開発
  • 瀬戸内海のプレジャーボートの稼働率向上から地域活性へ

自動車の配車サービスのUBER、空き部屋を貸し借りするAirbnbを始めとする「シェアリングエコノミー(消費者と消費者がプラットフォーム上でやり取りするビジネスモデル)」というモデルが世界的に流行している。このビジネスモデルを採用している日本の代表的なサービスはmercari(メルカリ)である。他にも、スキルを売り買いするcoconala(ココナラ)、チケットの売り買いができるTicketcamp(チケットキャンプ)などのサービスもリリースされており、シェアリングエコノミーは日本でも定着しつつある。その趨勢(すうせい)の中で、広島の瀬戸内海のマリーナに停泊するプレジャーボートの貸し借りができるankaa(アンカー)というサービスがリリースされた。

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サイト上で簡単に船の貸し借りができるサービス、ankaa(アンカー)

「瀬戸内海に停泊しているプレジャーボートが、うまく稼働する仕組みが成立していないことが課題です。」ankaaを運営する株式会社アルファフェニックス代表取締役である藤井氏は語る。

一見ビジネスチャンスがなさそうな分野にこそ眠るチャンス

藤井氏が目を付けたのは、瀬戸内海に停泊しているクルーズ船である。もともと、藤井氏は富裕層の外国人観光客をターゲットとした瀬戸内海におけるクルージングのサポート事業を10年ほど前から行っていた。その経験とノウハウを生かすことで、瀬戸内海に停泊している船舶を稼働させ、さらには地域活性化につなげられるのではないかと考えたのである。欧米では、船舶をチャーターして海で遊ぶ”マリンレジャー”が主流である。そのため、何兆円規模のチャーター市場が成立している。しかし、そのような文化が根付いていない日本でチャーター市場を成立させるためには船舶のオーナーやそれを利用する利用者の意識を変えていく必要があるという。

「今まで日本は漁業権を保護する政策を多く行ってきました。海に囲まれている面積が多い分、漁業で生活している人が多かったというのが理由です。そのため、だれもが海でレジャーを楽しめるような環境や文化が根付いていませんでした。」

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瀬戸内海でリゾートさながらのレジャーを楽しめる

シェアというビジネスモデルが停滞した産業を生まれ変わらせる

時代が変わり、魚の漁獲量が減少傾向にあるなかで、漁業権を持っていても漁業を行っていない船舶のオーナーが多くなったという。漁協の収入の減少やマリンレジャーの広がりも受け、新しい取り組みも見られるようになってきている。福山の横田漁港では、プレジャーボートが泊められるようにマリーナを整備したという。このように今まで魚を取って売ってというビジネスモデルだった漁業組合も、それだけに頼るのではなく、プレジャーボートを受け入れることでお金を稼ぐといった新たなビジネスモデルを模索する必要性が出てきている。瀬戸内海のマリーナも同じような状況にある。

「瀬戸内海には日本の約38%のプレジャーボートが停泊しているので、その船をしっかりと稼働させることが大事です。」

藤井氏は、それらの船舶をしっかりと稼働させるために「シェア」という手段を採用した。
「船を買ってチャーター事業を展開していく事も検討しました。しかし、一艇だけで世界を変えることはできません。全体を一挙に変えることができるモデルを作っていくために、シェアというモデルを選びました。シェアは、今ある既存のオーナーさんも巻き込んで、全部を巻き込んでいくことが可能なのです。」

ankaaは船舶のオーナーとそれを利用したいユーザーをマッチングさせる。稼働していなかった船舶を稼働させることで、ユーザーからオーナーへと使用料という形でお金の流れができる。そして、それがさらに増えてくると、地域は活性化し、人が集まってきて、ホテルや旅館の建設が活発化する。そんな青写真を藤井氏は描いている。