近年、人口減少に苦しむ地方自治体が増えている。そんな中、地元の中心産業を活かしてその問題に取り組んでいるのが、北海道美瑛町だ。観光業に最先端の顧客マネジメント手法を取り入れ、活性に取り組んでいるのが、ヤフー株式会社佐竹正範さん(以下、佐竹さん)である。今回、美瑛町での取り組みやその現状に関して話を伺った。そこで見えたのは企み率いるキーマンの、意外なとってもアナログな日々。

記事のポイント

  • 観光政策の課題解決へ。デジタルマーケティングが可能にすること。
  • 問題解決だけでなく、次のビジネスの土壌と環境づくりを見据えた戦略。
  • アナログな動きがより多くの機会をつくる、よそ者の価値提案。

今日、人口減少が叫ばれている中、地方活性化や地方創生によってそれを食い止めようとする取り組みが各地で行われている。北海道美瑛町もその一つだ。年間約160万人もの観光客が美瑛町を訪れている一方、人口は減少している。

「地域が存続してくためにはある程度の人口規模と、子どもから高齢者までの幅広い年代の人口がバランス良く必要。」

biei_population

そう語るのは、2016年10月より3年の期間で、ヤフー株式会社より北海道美瑛町政策調整課に課長補佐として、総務省の地域おこし企業人制度も活用して派遣されている佐竹さんである。

現在の美瑛町の年代別人口分布を見ているとやはり最終的には移住者や定住者を増やしていくしか無い。そのためには、まず美瑛町を繰り返し訪れるリピーターや大ファンである人たちが増えるようなコンテンツを開発することが大切だという。美瑛町を訪れる観光客の数は年間約160万人いる。
しかし、今まではこの160万人がどのような人たちなのかを知る術が美瑛町にはなかったため、どのようなコンテンツが適切かを判断するための基準がなく、その開発が難しかった。その状況を変えたのが佐竹さんである。佐竹さんはCRM(顧客関係管理)*を導入することで、より観光客に美瑛町の良さを知ってもらえるコンテンツ開発が可能になると考えている。

*CRM(顧客関係管理):顧客との関係を構築、管理するマネジメント手法の一つ

CRMが観光業を最適化する。

その取り組みの一つに、今年の6月1日より行われている美瑛町時間Wプレゼントキャンペーン(美瑛町時間Wプレゼントキャンペーン公式サイト)がある。これは、美瑛町内の約200箇所に設置されているQRコードを読み取り、アンケートに回答すると抽選でプレゼントが当たるというものだ。景品には、美瑛町内宿泊施設利用券(1万円分)や「美瑛選果」野菜セット(5,000円分相当)など美瑛町の魅力を更に知ることができるようなものばかりである。
これにより、観光客の美瑛町での行動に関するデータがビックデータとして蓄積されていく。これを元に美瑛町内の事業者向けの説明会を開き、このデータをマーケティングデータとして活用してもらおうというのが佐竹さんのもくろみである。

「私はあくまで行政側の人間であるので、ビジネスをすることができません。しかし、CRMを通して観光客に関するビックデータを集めることはできるので、それをしっかりと活かせるような関係性を町内の事業者と構築して、データを活用した新商品開発や新サービス開発などして、若者にとって魅力的な新しいビジネスと新しい雇用を創り出していくことがいくことが大切だと考えています。」

CRMをうまく活用できる要因として、美瑛町という街の特徴も大きく関わっている。美瑛町は旭川空港から12㎞、交通の便も良くふらのバスで20分ほど。青い池や四季彩の丘など観光資源にも恵まれていることもあり、非常に多くの観光客が訪れる。また、中国人を中心とするインバウンド向けのツアーのルートにもなっていることもあり、外国人観光客の数も多い。

「基本的に美瑛町はドライブコースということもあり、景色だけをみて、近隣の旭川や富良野に宿泊する観光客も多いです。そういった方にもアンケートに回答してもらえれば、より最適化された情報やコンテンツを提供できるようになり、更には新たなビジネスのチャンスがあるのでは?思います。そのためには観光客に関するデータが必要不可欠です。」

しかし、CRMの凄みは観光客の特性の分析が可能になるだけではない。蓄積された回答者のメールアドレスデータ。これこそが資産であり、観光客とのコミュニケーションチャネルになる。その膨大なデータから美瑛のリピーターを抽出して、その人たち向けに美瑛の空き家情報や求職情報を配信することができる。これによって移住や定住につなげることができると佐竹さんは考えている。

「今までにも、美瑛町は移住・定住に関する施策に取り組んできました。東京でも行いましたが、砂漠に水を撒くようなものでなかなか結果が出しづらい。この施策は、次の段階に進めるためのトリガーになると考えています。」