タオルメーカーのイケウチオーガニック株式会社は、日本有数のタオル産地である愛媛県今治市の企業の中でも、“持続可能な社会”を目指す思想と、真摯なもの作りで異色の存在です。同時に、同社は地方のいち中小メーカーであるにも関わらず、発信力の高さやファンとのコミュニティー作りで他業種企業からも注目されています。同社の牟田口さんに、自身のキャリアやファン作りのノウハウについて聞きました。地方でもの作りをしている人や企業の担当者は必見です。

概要/プロフィール

IKEUCHI ORGANIC 株式会社
全ての人を感じ、考えながら、安全と環境負荷に配慮し、オーガニックテキスタイルの企画・製造・販売を行う。(タオル、マフラー、ベッドリネン、インテリアファブリック、アパレル素材など)「今治タオル」のブランド力を持たずしても売れる商品作りに成功している今治のタオル製造者。

公式サイト

牟田口 武志(むたぐち たけし)さん

77年長崎県生まれ、埼玉県育ち。02年大学卒業後、映画製作会社に新卒入社。その後CCC、アマゾンジャパンを経て15年7月にイケウチオーガニック入社。好きなイケウチのタオルは「オーガニック120」。同社が19年前に初めて作ったオーガニックコットンのタオルで、「経年劣化しづらくて、最初に買いにきた方にはこれをお勧めしています」とのこと。

記事のポイント

  • 大手グローバルEC企業から今治のタオルメーカーに転職した理由
  • 人脈を生かした異業種コラボが、新しいアイデアや需要を生み出す
  • ファンとのコミュニティー作りのために行っている施策

同僚も取引先も、信頼できる人しかいないという自負

―前職は誰もが知っている大企業とのことですが、そこからイケウチオーガニックに入社した経緯は?

15年7月に入社する前は、アマゾンジャパンでウェブプロデューサーをしていました。書籍のプロモーションプランを練るのが主な仕事でしたが、社歴が3年を過ぎた頃から、漠然と「今のままでいいのかな」と感じるようになったんです。長く外資系企業で働くことが全く想像できなかったのと、アマゾンでの経験を生かして、別の形で社会に貢献できるんじゃないかと思うようになりました。それが転職活動を始めた理由です。
同業他社も受けていましたが、それだとキャリアのスライドにしかならない。何年後かに、きっとまた転職を繰り返すことになる。それが本意だろうかと考えていた時に思い出したのが、イケウチオーガニックでした。イケウチのことは、以前偶然参加した鎌倉投信(※)の説明会で名前は聞いていました。その時は、「もの作りにこだわっていて、民事再生した時にファンから応援メールがたくさん届いた会社」というイケウチのエピソードに、とても驚いた記憶があります。それでイケウチが気になり始めました。会社を調べていくと、「やっぱり面白そう」と思うと同時に、細かな改善ポイントをたくさん見付けました。これは自分が入ることで何か変わるんじゃないか。そんな風に感じて、入社することにしたんです。

※もの作りや人材育成などの独自の基準で選定した日本の「いい会社」に投資する投資信託委託会社

―グローバルEC企業から地方の中小メーカーへというのは、大きな決断です。転職の際に基準にしていたことは何ですか?

もの作りの会社に憧れていました。アマゾンやその前に勤めていたCCCでは、マーケティング、バイヤーなどの立場から、色んな商品を見ていたのもありますし、商品をデザインや、素材から、作る人に至るまで多角的にモノを見ていた中で、イケウチのタオルは商品として完成されていると感じました。
3,4年前から質の高い日本製品を海外に向けてネット販売する越境ECがどんどん広がっていくのも見ていました。これからは安くて均質なものを大量に売るのではなく、本当にいいものをお客さんにきちんと届けることが重要になる。イケウチはそうした流れにも合致すると思ったんです。

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―入社から2年半が経ちましたが、前職や想像とのギャップは?

全く無いと言ったら嘘になりますが、カルチャーショックはそれほどありません。新卒で勤めたのが小規模な映画製作会社だったので、大体想像はついていました。アマゾンのときは机が今の3倍くらいの広さがあったから、狭いな、とは思いましたけどね(笑)
イケウチで働くようになってから、自分がいかに楽しめるか、好きなことができる環境にあるかを重視するようになりました。同僚も取引先も、僕は信頼できる人としか仕事をしていないという自負があります。その部分でストレスは全く無い。これはお金に替えられない価値です。

―今治は日本有数のタオル産地で、イケウチ以外にも多くのタオルメーカーがあります。他社にはないイケウチの特徴は何ですか?

うちはもの作りに本当にこだわっています。オーガニックコットン製のタオルと言っても、実は表面のパイル部分だけオーガニックコットンでできている商品も世の中にはあります。
でも、うちの商品はパイルの部分はもちろんですが、タオルについている、Iのタグまでオーガニックです。こだわり具合のエピソードとして、イケウチでは2073年の創業120周年までに、「食べられるタオルを作る」という指針を掲げています。創業から60年かけて、「赤ちゃんが口に入れても安全」という安全基準を取得して、次の60年でどうするかとなった時に、代表の池内が「口に入れても安全なタオルを超えて、赤ちゃんが食べられるタオルを作る」と言い出しました。最初は冗談だと思っていたんですが、通常は食品工場が取る厳しい安全規格を15年に取得した時から、徐々に「本気なんだ」と思い始めました。普通に考えたら反対ですよね。だって、安全規格を取るのにはすごく費用がかかるのに、売り上げに直結はしないですから。

―利益追求が第一ではなく、独自の哲学がある会社ですね。

池内は、物事を考える際の時間軸が長いんです。そこが一番すごいと思います。自分達だけが良ければいいではなく、次の世代のためにどうするべきか考えて実行に移している。前職を含め、外資企業は3ヶ月スパンで仕事に追われるのが当たり前で、長くても1年単位ですから、池内のブレない思考に惹かれました。