「地方創生」という言葉が使われ始めて、今年でもう5年目になります。書店などでも関連コーナーが作られているところもあるくらい、それに関する書籍も増えていますね。しかし一方で、活動分野としても、私達が言う「業界」としてもまだまだ黎明期だともいえます。私自身も、仕事柄そうした書籍も色々読みましたが、レベルも内容もかなりまちまちなのは確か。そこで、これから地方創生分野に参入しようとしている方や、もう一度情報を整理し直して見たいという方にオススメの書籍を、自分なりに集めてみました。既にかなり売れている本ばかりなので、「それならもう読んだよ」という方も多いかと思いますが、入門編/基礎編としてまとめておこうかと思います。

1:「新観光立国論」+2:「世界一訪れたい日本の作り方」 
デービッド・アトキンソン

今や日本の観光業界のバイブルとも言える、あの『新・観光立国論』と、その続編(実践編)である「世界一訪れたい日本の作り方」です。著書のデービッド・アトキンソンさんはこちらのコラムでもご紹介したとおり、名実ともに日本の観光業界のヘッドコーチ的存在。これこそすでに読まれてる方もかなり多いと思います。ただ二冊目の方は意外に読んでいない方もいらっしゃるようですが、相変わらずのアトキンソン節は鋭く痛快で、日本人としては耳が痛い事ばかり。でもこれだけケチョンケチョンに言われても、読後になぜか「よーし!やったろうやないか!」とジワジワとやる気が出てくるのが不思議です。明治維新や第二次大戦後など、日本人は、歴史上何度か「自分たちは圧倒的に後進国なんだ」と気づいた節目がありますが、今まさにそういう時期なのかもしれません。そう気づいた時は必ず先人たちはものすごい勢いで変わってこの国を立て直してきました。今はもしかしたらそういう時代の節目なのかもしれない…。そんなことまで感じさせてくれる名著だと思います。

3: 「地方創生大全」 木下斉

地方創生の現場の状況を赤裸々につづった本。18年以上もこの分野にとりくむ木下さんは、業界での知名度は非常に高い方です。この本にも、自治体や地域の成功例や失敗例、問題点が歯に衣着せぬ論調で書かれていて、いずれも事実と経験に基づいた内容です。受け止め方によっては無力感にさいなまれてしまう可能性は無くはないですが、地方創生の現場の様子を感じるには必須の本かなと思います。まさにこの本に書かれている現状からどうしていくかということが「地方創生」の真実かなと。やはり、まずはこうした実践者の声に耳を傾けるべきかと思います。

※この著書の原点となっているような、こちらの著書も同様におすすめです。
稼ぐまちが地方を変える 誰も言わなかった10の鉄則 (NHK出版新書)

4:「日本の工芸を元気にする!」 中川正七

中川政七商店は、既に都内の大手百貨店や商業施設ではおなじみのブランド。日本の伝統工芸という最も難しいテーマで、ここまでの規模のビジネスとブランド認知を築き上げた中川さんのここまでの歩みと、その思想や覚悟が記されています。ある意味「地域商社のお手本」とも言うべき中川正七商店の現場を垣間見ることができる、素晴らしい本です。

5:「ヤンキーの虎」 藤野英人

藤野さんは、あの超好成績を誇るファンド「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークス会社を率いる社長でありファンドマネージャーです。実際にセミナーでお話を伺ったことがあるのですが、ひふみ投信は地方の優良企業のみに投資して、あの高い利益成長率を実現しているとのこと。その地域の事業者の本質を見る目による、いわゆる「地方豪族やその卵」への洞察が記されています。地方の事業者はひ弱で弱体化しているという一般的な印象を一変させる、様々な事例が具体的に紹介されていて、非常に興味深いです。自分もこうした事業者の方にあちこちで出会った経験があり、心の底から納得しました。地域事業者の一面を非常にわかりやすく切り出されています。

6: 「観光立国の正体」  藻谷浩介/山田桂一郎

観光業界、地方創生業界では知らない人がいないこの二人のカリスマが、現在の日本の課題をその経験をもとに歯に衣着せぬ論調で語っている著書です。こちらの著書も、木下さんのもの同様に、まともに受け止めると「もうどうしようもないよね」と思ってしまうリスクが・・(笑) そのくらい痛快?ではあるのですが、大切なのは、お二人とも「超現場主義」だということ。決して評論家が世の中の動きを「紐解く」ような論調の、ふわっとした「預言書」「では無いというところです。課題山積なのは現実で、そことどう向き合うかの姿勢を試されるというか、それでもなんとかしなければと言う気概を問われるというか…。地方創生に興味を持つ人の中には、その言葉の耳あたりの良さや、美しい社会貢献意欲だけでその入口に立つものの、その混沌さにあっという間に離れていく人が一定程度います。そうしたことを回避するためにも、すべての現場を直接経験することはなかなか難しいですが、こうした本を読んでおいて損はないと思います。地域の現実を知るためには欠かせない著書だと思います。

7:「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」 
河合雅司

人口減少と高齢化がもたらす今後の影響を、年表形式で分かりやすく開設しています。これもまたある意味、もう気持ちいいくらい「絶望的」(笑)。日本は本当にどうなっていくのかということが、ちゃんとデータに基づいて描かれているので、それなりに納得せざるを得ません。しかし一方で、後半で筆者が提言する10の処方箋というのは、実は河合さんだけが言ってるというものでもなく、すでに国のレベルで検討されているものもあり、他国で実績を上げている政策も散見されます。現実から目をそらしてはダメだけど、悲観的になりすぎるのではなく、やっぱりやるべきことをやるしかない!…と思わせてくれるのが救いです。同時に、我々は今までの価値観そのものを変えていかないといけないなと思います。考えてみれば、日本人だけでなく、人間はその時代時代で大きく価値観を変えて、生き方を模索して来ているのです。今より絶望的な時代もいくらでもあったでしょうし。そういう面でも、地域に関わる方には必読書かなと思います。

以上が、私がこれまで読んだ地方創生に関係の深い本で、それに関わろうとする全ての方に、まずは読んでいただきたいと思ったものです。いずれも「地方創生」の現場に精通する著者によるもので、場を知るにはもってこいの本ばかりです。これはと思われるものは、是非お手にとってみて下さい。。

文:ネイティブ倉重

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【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。