前編では同社設立までの経緯と現在の事業の全容、そして同社の核とされる“地域づくり”の「移住定住促進事業」について紹介してきた。続く後編では、地域の経済成長をターゲットにした取り組みにフォーカスしていく。

沖縄本島中部の町、うるま市で「市民の健康づくり」と「食と農のプロデュース」を掲げた施設の企画運営。その企てと実践にはどのような知恵が絞られ、どのような苦労がなされたのか。人的ネットワークの活用や他者とのアライアンス構築といった点でも巧みな動きを見せる”市民主体のまちづくり会社”の奮闘を追う。

一般社団法人プロモーションうるま

2015年設立。“100年後のうるまをつくる”を理念に掲げ、うるま市に軸足を置く民間のまちづくり会社として、移住定住の促進・地域資源活用商品の開発・イベントの企画開催といった”地域づくり”を核に、食と農のプロデュース拠点・市民の健康増進拠点・産業振興拠点という3つの公共施設の企画・管理運営も担っている。

プロモーションうるま(以下「プロモうるま」)が現在、指定管理を担っているうるま市の施設は3つある。産業振興拠点の「いちゅい具志川じんぶん館」、うるま市健康福祉センター「うるみん」、そして2018年秋頃オープン予定のうるま市農水産業振興戦略拠点施設「うるマルシェ」だ。今回はこのうちの2つ、「うるみん」と「うるマルシェ」への取り組みについて詳報していく。

就労支援を通じて得た実感。
「健康がなければ産業も経済もない」

2017年4月から市の健康福祉センター「うるみん」の指定管理を受託した経緯について、プロモうるま代表理事の中村薫さんはこう語る。

「きっかけは、以前携わっていた市の就労支援事業での経験でした。仕事探しに困難を抱える人の中には、健康面に不安を抱え、ネガティブにならざるを得ない人が多い。そしてうるま市は当時、40代の働き盛り男性の生活習慣病罹患率が県内でワースト1という実態もありました。地域づくりの一環として健康にもアプローチしなければ、という危機感からも、まちづくり会社として『うるみん』の指定管理にチャレンジすることには何のためらいもありませんでした」

うるみん トレーニングルーム

うるみんは供用開始から10年間、市の直営施設として運営されていた。その指定管理が民間に委託された背景には「施設の有する機能をより有効活用したい」という行政の意図があったわけだが、スポーツ施設運営の経験は一切なかった同社が指定管理を受託して、まもなく1年になる。

その成果のほどを聞くと「今年度の利用者数は年間のべ約6万人を超え、過去最高の利用者数となりました。」と事業統括責任者の宮城淳一さん。

プロモーションうるまの事業統括責任者 宮城淳一さん

「しかも、有料企画やイベントに参加してくれる人が増えている。『無料なら行く』ではなく『お金を払ってでも来たい』と思わせるコンテンツづくりがうまく奏功した結果だと思います」

そして、こうしたコンテンツづくりに大きく寄与したのが、滋賀県に本拠地を置く連携先との関わりだった。

「健康を通じたまちづくり」を支える
プロトレーナー集団との連携

株式会社Perfect Trainers(パーフェクト・トレーナーズ、以下PT社)は、25年前に医療法人にトレーナーを常駐させるメディカルコンサルタントとして創業。その後は大学のトレーニング施設や大型スポーツ用品店へのトレーナー出向・常駐などへと業容を拡大してきた会社だ。

「うるみんの指定管理の受託に向けて動いていた時、知人を介してPT社の存在を知りました。同社が札幌ドームのトレーニング施設の指定管理を受託し、利用者数を大きく伸ばしたという話も聞いていたので、うるみんの施設価値を高める上で同社のノウハウを取り入れられないか、とすぐに相談させてもらったんです」

するとトントン拍子に連携が決まり、「うるみん受託開始と同時にPT社から常駐スタッフとして1名、すごい人材を送り込んでいただいています」と中村さん。その人材とは、全米公認アスレティックトレーナーの資格も有する高橋烈央(れお)さんだ。

株式会社Perfect Trainersから出向中の全米公認アスレティックトレーナー 高橋烈央さん

「私たちPT社は健康とスポーツのトータルコンサルティングを行う会社ですが、この先の人口減に歯止めがかからなければ、スポーツ人口も当然減っていくと予測しています。そんな中でより多くの方にスポーツを楽しんでいただくにはどうすればよいか、と考えながらさまざまな事業に取り組んでいます」と高橋さん。

「当社の使命は、スポーツ促進の根底にある“健康”を維持向上させることです。『地域づくりの土台として健康増進に取り組みたい』というプロモうるまさんの考えと、当社の理念は大いに重なるものがありました」

「市民全員測定」でQOLの基盤となる健康を守りたい

より緊密なアライアンスを通してうるみんの改革を実現するべく、自らうるま市に移り住み、地域密着で仕事に取り組んでいる高橋さん。この1年間でどのような仕掛けを行い、どのような変化を感じているかを聞いてみた。

「市が健康増進を働きかけたい“40代の働き盛りの男性”の利用率を上げていくことを当面の目標として、まずは施設の存在を知らしめることに取り組んでいます。若い男性や家族連れが訪れやすいよう、器具を充実させたり、教室やイベントなどの中身も見直しました。たとえばバレーボール日本代表チームの元監督による少年向けのバレーボールクリニックを開催し、親御さんにも一緒に来てもらって『こんな施設が地元にあったのか』と認知してもらう、といった感じですね」

前段でも触れたが、この1年で利用者数1万人増、という成果は、こうした高橋さんらの地道な努力が実を結んだからに他ならない。ただ、高橋さんの視線はもっとずっと遠くの未来を見ている。

「発信力をさらに強化したい。そして、来てもらって満足してもらえるだけの“武器”、たとえばトレーニング施設の器具の充実も図りたいですね。また、沖縄県は65歳未満死亡率が全国ワースト1位で、うるま市も例に漏れず高いというデータがあります。うるま市においては、2015年の65歳未満死亡率が19.1%で、全国平均の10.4%を大きく上回っており、特に男性は4人に1人が65歳未満で亡くなっています。が、これは逆に言えば改善の成果が全国一現れやすい、ということでもある。そのため今後は、いわゆる健康診断とは違う運動機能の測定を、うるま市でやっていきたいと考えています。『市民全員測定』を目標に、市内のいろいろなところで出張測定を行い、うるみんの存在も知らしめていけたらいいなと思います」

全米公認資格を得るため4年間を過ごしたアメリカは、スポーツビジネスの先進地であり、「病気や怪我をしないための予防の大切さが理解されていた」という高橋さん。「うるま市にもそうした“予防”の意識を根づかせ、健康を取り戻そうとする機運づくりを、トレーナーの目線からサポートしたい」と意欲を語ってくれた。

地域の人の流れを変えうる大型施設「うるマルシェ」への挑戦

2018年秋頃にグランドオープンを迎えるうるま市農水産業振興戦略拠点施設「うるマルシェ」は、プロモうるまにとって史上最大規模となるプロジェクトだ。うるま市南部、県道33号線に面した総敷地面積1万3206㎡に、農水産物直売所・農水産加工施設・産直加工品販売ブース・産直レストラン・キッチンスタジオ・多目的ホール・イベント広場を有する大規模な施設が出現する。

うるま市農水産業振興戦略拠点施設「うるマルシェ」完成イメージ

所有はうるま市で、その企画・運営を任されたのがプロモうるまとアライアンス先である株式会社ファーマーズ・フォレスト(以下「FF社」)によるコンソーシアム、「うるま未来プロジェクトグループ(以下「うるま未来PG」)」である。

プロモうるま代表理事の中村さんは、この施設の構想段階で市が2年間にわたり開催していた市民ワークショップに、いち市民として2013年に参加していた。

「最初は『すごい施設になるんだろうな、せっかくできる施設がより良くなってほしい気持ちもあるし、何か注文つけてやろう』くらいの軽い気持ちで参加していました(笑)。でも関わっていくうちにどんどん興味が湧いて、気づけば県外の先進地視察の選抜メンバーにも選ばれるほどのめり込んでいました」

全体像が見えてくるにつれて「誰がやるんだろう」が「自分も携わりたい」に変わっていったという中村さん。

「何より、ワークショップの講師として来ていたFF社の松本謙(ゆずる)さんとの出会いがあったからこそ、こうして指定管理を受託することができ、大きな一歩を踏み出せたと感じています」