愛媛県松野町ではこれまで、自然豊かな『森の国まつの』として移住促進に力を入れてきましたが、移住を検討する多くの方たちが抱える悩み、特に「移住先での働き方」に関する悩みを聴き取る中で「単に収入源としての仕事ではなく、もっと移住後の暮らしに深く関わる働き方を提案したい」と考えるようになりました。そして2022年より「仕事×住まい」「仕事×コミュニティ」「仕事×自己実現」という発展性を持った雇用創出事業をスタートさせました。「森の国まつの事業協同組合」は、その推進に取り組む団体です。
この記事の目次
マルチワーカー移住で叶える豊かな里山暮らし
この数年間で「多業」や「複業」など一つのキャリアに縛られないマルチな働き方や、地域に根差した生業作りを志向する声を度々耳にするようになりました。国土交通省が発表したデータでは「2030年には多業人口が2,440万人に達する」と推測されており、今後移住の領域でも「複数の仕事で一つの場所に根付く」スタイルはますます広がっていくと考えられています。
森の国まつの事業協同組合では、「季節ごとの繁忙期現場を複数つなぎ合わせ、一年分の仕事にする」というやり方で、移住前の一大ハードルである「安定的な仕事」をまず作ることにしました。そして県の認可を受けた人材派遣業者として、その各派遣先と移住者とを繋いでいます。派遣先として登録されている現場は観光業(リバースポーツガイド)、農業(梅の一次加工、桃の栽培)、林業(薪製造)、飲食料品製造・販売業で、いずれも地域に根差した事業です。
昨年の第一期募集では2名の移住者を「森のマルチワーカー」として迎え、実際に5つの現場の中からシーズン毎の先を決める形で1年間働いて頂きました。今回、二期生の募集が決定しましたので、森のマルチワーカーとして働く魅力や地域の暮らしぶりについて詳しくご紹介します。

自然豊かな愛媛県松野町で「森のマルチワーカー募集」(左から1期生の中山さん、湯川さん)
2022 年度「森のマルチワーカー」1 期生について
昨年度は2名の職員が森のマルチワーカーとして仕事に取り組んでいます。単一ではなく複数の仕事を経験できる働き方に魅力を感じて転職された湯川さん。自分の世界を広げる良いきっかけになると思い就職を決めた中山さん。お二人について、組合HPのインタビューを抜粋する形でここでは紹介します。
湯川彗太さん
兵庫県出身。大学卒業後、会社員として4年間石川県にて勤務。退職後に夫婦二人で移住先を探す為に日本一周旅をスタート。2022年に7月に松野町に移住。

多くの仕事を経験できるマルチワーカーとして働く湯川さん
大学卒業後、金沢市のメーカーで営業マンをしていた湯川さん。当時の仕事をずっと続けていくイメージが持てず転職を考えていた時に、思いきって仕事を辞めて出会ったのが松野町でした。マルチワークについては初めて知ったそうですが、地域の産業を支えながら複数のキャリアを並行して積むことが出来るこの働き方に魅力を感じ、1期生として応募に至りました。
マルチワーカー後の展望もゆっくり見据えており、元々パティシエをしていた奥様と自分のお店を開きたいという夢の実現に向けて色々と考えているとお話しされています。
中山彩風さん
埼玉県出身。自然の中にいるのが大好き。大きな環境の変化を求める中で、松野町のエネルギー溢れる美しい大自然と、町の人の優しさに触れ、移住を決意。

松野町の大自然や人に惹かれ、移住を決断した中山さん
中山さんと松野町の出会いは5年前の「ふるさとワーキングホリデー」制度の利用がきっかけ。その後、毎年夏は松野町で過ごされる中、途中マルチワーカーとして働く誘いがあり、自分の世界を広げる良いきっかけになると思って応募されたといいます。
現在はマルチワーカーとして複数の仕事に携わる中で、自分の知らなかった仕事の魅力や好きなことが前よりわかるようになってきたと語っています。マルチワークを通じて、特に地域のお客さんや生産者さんと密接に関わることができる道の駅のお仕事にも興味を持っているそうです。
お二人へのより詳細なインタビューはこちら
森のマルチワーカーとして働く魅力①「仕事×自己実現」
お店の開業を目指す湯川さんや、理想の就職先をイメージしながら働く中山さんのように、森の国まつの事業協同組合では職員の「起業・地域企業への就職」を支援しています。マルチワーカーとして来てくれた移住者が起業や就職という道へ進むことで、地域産業全体が持続的に活性化していく未来を目指しているからです。
とはいえ、移住先でいきなり独立したり相性の合う企業と出逢うことはとても難しいです。そこで組合では、ここでのマルチワークを単なる季節労働としてではなく、「地域の産業・市場を内側から知る機会」「関係性作りの機会」として捉え、それを安定した経済基盤の上で行えるよう考えています。
本人の希望・目標を元にしたキャリアアップ研修をはじめ、興味を持った企業へのインターンや起業へ向けたトライアルをサポートする為に「副業可」としているほか、派遣先の業務に関連する資格であれば、その取得に係る費用のサポートも行っています。
森のマルチワーカーとして働く魅力②「仕事×住まい」
移住相談を受ける中で、仕事と同じくらい挙がる悩みが「住まい」でした。小さな町にも地区ごとに異なった色が存在します。開けた盆地に静かな谷あい、小高い丘に風の通る川辺など。そこに暮らす人柄や地域柄も細かく、多様です。また、古民家に惹かれる人もいれば、最新設備の家に暮らしたいと考える人もいます。本来であれば試しにその地域に住んでみて、ゆっくり時間をかけて決めていきたいくらい重要なことですが、実際にそれをやるには難しいです。
この悩みへは松野町役場がサポートに入ります。より本人の希望に合った地区や住環境を「暮らしながら見定める」ことが出来るよう、組合職員へは町営の「移住者専用住宅」が優先的に斡旋されます。この住宅は町の中心地にあり、町の各エリアや周辺地域へ移動に最適な立地です。

スタンダードな設備の移住者専用住宅。家賃は月2万5千円。
移住者専用住宅の詳しい情報はこちら
森のマルチワーカーとして働く魅力③「仕事×コミュニティ」
「仕事」「住まい」とくると、あとは「人」です。「地域にうまく馴染めるか心配」という声も多く聞きます。組合のは派遣先はどれも地域に根付いた現場であり、同時に地域コミュニティの入り口でもあります。出入りする現場が多いという事は、それだけアクセス出来るコミュニティの数も多くなります。また役割がハッキリとした移住者の「地域側の受け入れやすさ」というものもあります。一期生である二人の職員も、「地域の繁忙期を支えるピンチヒッター」として各現場で活躍し、「あの組合の子ね」と広がる地域の認識の中で、それぞれのホームとなる繋がりを作り上げています。またインタビューの中にもあるように、同じ移住者専用住宅で「ご近所さん」となった組合職員同士の交流も、自然に生まれているようです。
このような移住者目線に立った組合の取り組みは、同時に地域の課題解決にも繋がっています。年間通じた雇用が難しい一方で人手が必要な繁忙期を抱える多くの現場にとって、ピンポイントな働き手確保は事業の存続に大きく関わります。地域と移住者、互いに「支え/支えられる」仕組みの中で森の国を未来へ繋げていきたいと考えています。
玄関を開けたらアウトドア。
ここからは、移住後の生活イメージについて紹介します。四国の左下、高知県との境に位置する山間部に松野町はあります。町内には清流・四万十川に注ぐ2本の支流が蛇行しながら走ります。町の中心地から、車で20分程走ると国立公園の森の中。別の道を25分行くと、潮の香る港町。山も川も森も海も、全身で味わえる環境です。

国立公園内に位置する滑床渓谷。巨大な一枚岩は天然のスライダー。
組合の派遣先の一つにもなっている「滑床渓谷」は森の国を象徴する場所です。キャニオニングをはじめとするアウトドアレジャーの穴場スポットとして、毎年ひと夏で町の人口を軽々超える数の人たちがここを訪れます。地元の人には身近な存在で、毎年の紅葉狩りや週末のソロキャンプ、ツーリングに渓流釣りと、日常の延長線にある大自然です。

ロードバイクもマウンテンバイクも、多彩なコースが楽しめる

滑床キャンプ場は町営の為、利用料が格安(大人 300 円/1 人)
ミカンのイメージの強い愛媛県ですが、山あいで昼夜の寒暖差が大きい松野町は「桃」に適した環境になっています。毎年梅雨明け頃には「桃まつり」が開催され、町内外の人たちで賑わいます。

特産品の桃の栽培は、地域おこし協力隊のミッションにもなっている
「海と言えば魚」ですが、「山と言えばジビエ」と言えるのが松野町です。道にたむろして畑を荒らすばかりだった鹿を資源にすべく、2013年に「鹿肉専用加工所」を町内に設置。地元の腕利き猟師と加工職人、そして森の国の豊かな水の三つが揃った「まつのジビエ」は昨年度の「農林水産省大臣賞」を受賞しました。

加工所の玄関に設置された直売所では、新鮮な鹿肉をいち早くゲットできる
豊かな水は、川の幸も育んでいます。道の駅で売っているうなぎ専用罠を使って未だに天然ウナギを捕ることが出来ます。また上海蟹の仲間である「津蟹」も多く捕れ、毎年旬になると捕りたての津蟹と芋を一緒に炊いたものを河原へ運び、席を設けてみんなで食べる「いもたき」という文化が秋の風物詩になっています。

濃厚な味噌が味わえる津蟹

秋の風物詩「いもたき」
暖かいと思われがちな四国西南部ですが、松野町では雪が積もることもあります。春になれば軒下に燕が帰り、水の戻った田んぼからは蛙の合唱。蛍のあとには入道雲と蝉・蝉・蝉。鈴虫。紅葉に染まる山。四季を詰め合わせたようなところです。
森の国まつの事業協同組合(森のマルチワーカー)募集要項
正規職員(組合雇用派遣労働者)として組合に所属し、約3か月スパンで町内の現場を渡り歩く「森のマルチワーカー」を募集します。年間の派遣先現場とその期間については、採用後のヒアリングを元にコーディネートします。
【派遣先事業者例】
・株式会社フォレストキャニオン(観光業)
・グッドリバー株式会社(観光業)
・株式会社まちづくり松野(飲食料品販売業)
・株式会社松野町農林公社(農業)
・キョクヨーフーズ株式会社(食料品製造業)
・森の国まきステーション(林業)
・菓子工房Kazu(飲食料品製造・販売業)

マルチワーカー業務の一例(3ヶ月スパンを目安に様々な業務を経験できる)
■募集人数
2名
■応募条件
・18歳以上60歳未満(高校生不可)
・現在の生活拠点が松野町外にあり、事業協同組合の職員として採用後、松野町に住民票を移動することができる方
・普通自動車運転免許証を取得している方
・パソコンの基本操作(ワード、エクセル、メールのやり取り程度)ができる方
・当組合を足がかりとし、将来的に町内の企業に就業又は自ら起業して定住することを目指す方
・キャニオニングツアーガイドや農作業などを行うため基礎的な体力がある方
■雇用形態
組合雇用派遣労働者(正規雇用)
■雇用期間
無期限(試用期間6ヶ月)
※試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがあります。
※原則60歳を定年とします。
■就業場所
主に松野町内の派遣先の事業所
■賃金及び賞与等
・月額:178,000円(昇給有り)
・賞与:年間で基本給1カ月分を支給(6月、12月)
・手当:通勤手当(通勤距離により車両燃料代を支給)
■労働時間
労働・休憩時間:始業8時30分~終業17時30分(昼休憩60分)
※ただし、派遣先により労働時間を繰り上げ、繰り下げすることがあります。
※派遣先によっては時間外労働があります。(時間外手当あり)
■休日
土・日曜日、国民の祝日、年末年始(12月29日~1月3日)
※ただし、派遣先により、休日を振替えることがあります。
■待遇及び福利厚生
・社会保険等(厚生年金保険、健康保険、雇用保険、労災保険)加入
・退職金有り
・年次有給休暇等有り
・業務に支障が無い範囲で副業可
・オンライン/オフライン併用の各種ビジネススキル研修制度有り
★役場から「町営賃貸住宅」の斡旋もさせていただきます。
※入居期間は「3年間」の期限付きとなります。
■募集期間
随時
■選考方法
・一次選考
応募時の提出書類をもとに選考の上、合否の結果を応募者に通知します。
・二次選考
一次選考合格者を対象に、松野町において面接試験を実施します。
・最終選考結果の通知
二次選考終了後、二次選考受験者に通知します。
※選考の経過及び結果についての問い合わせには応じられませんので、予めご了承ください。
★こんな方大歓迎★
・この場所ならではの「地域に根付いた仕事」に関心が高い方
(そこにやりがいを感じてほしい!)
・新しい経験、初めての障害を楽しめる方
(戸惑ったりつまづくこともあるかもだけど、楽しみながら乗り越えてほしい!)
・これまでの自身の経験・スキルを別の畑に応用することが好きな方
(今まで身に着けた事は全て役に立つ!)
・様々なことを自身のやりたい事や目標に関連付けて取り組める方
(ここでの経験は全て役に立つ!)
・自身のやりたい事や目標の為に他人に相談できる方
(一人でなんとかしようとしないで!)
・現状維持より前進が止められない方
(無期限雇用に甘えないで!)

森の国まつの事業協同組合スタッフ一同お待ちしております
■問い合わせ先
森の国まつの事業協同組合 事務局長 稲田
TEL:0895-49-4319
E-mail:yi-morinokunimbc@ma.pikara.ne.jp
HP:https://matsunotown.wixsite.com/morinokuni-coop
※事前に仕事内容等を視察したい方は問い合わせ先までご連絡ください。
※事務局が不在の場合があるため、できるだけ下記フォームかメールでお問い合わせください。