21大都市中、開業率が3年連続1位、起業者総数における若者の割合も1位を獲得し“スタートアップ都市”としての勢いが加速する福岡市。ベンチャー対象の法人市民税免除や外国人の創業活動を促進するスタートアップビザ、官民協働型スタートアップ支援施設の設立など、創業支援を政策に掲げた市による手厚いサポートが開業率を大きく引き上げている。

こうして盛り上がるスタートアップを陰で支えるのは、起業した若い経営者を支える公認会計士の存在だ。福岡市の中心部に事務所を構える、株式会社Faroの森藤大帆さん、磯谷武明さんにお話を伺った。

森藤 大帆(もりふじ まさほ)さん

株式会社Faro 代表取締役
福岡県北九州市出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、家業を手伝う傍ら、公認会計士試験の勉強を開始。2010年に公認会計士試験合格、監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入社。2016年5月独立開業。2016年5月より現職。森藤大帆税理士事務所代表。

磯谷 武明(いそたに たけあき)さん

株式会社Faro 代表取締役
福岡県京都郡苅田町出身。神戸大学卒業後、地元の北九州に戻り2011年公認会計士試験合格。その後福岡の税理士法人へ入社。2016年5月独立開業。磯谷公認会計士事務所代表。

記事のポイント

  • スタートアップ都市の福岡で、会社が軌道にのるまでのインフラ的役割として起業家を支える
  • 自分たちも顧客も共に成長できないと成り立たない共存共栄の仕事
  • 地方創生は足元から。身近な人の夢を叶えることで人が輝き、地域が輝く

スペシャリストと連携し、専門知識を活かした経営支援を

「経営者が経営に専念できる環境作りが一番大切です」と語る森藤大帆氏

ーお二人が会計士を目指されたきっかけは何でしょう。

森藤さん:専門的な技術を持ち、あちこち飛び回る仕事がしたいと思ったことがきっかけでしょうか。父親が会社をやっていたことも大きかったですね。

磯谷さん:僕は経済学部出身で、手に職となるような一生ものの資格を取りたいと思い取得を決意したんです。当初公認会計士の就職は簡単と言われていて、就職難とは縁がない業界でした。ところがいざ自分達の就職活動のタイミングになったとき、リーマンショックや就職氷河期の影響で急に就職が難しくなって。就職活動をする人の4割ほどしか大手に行けず、25歳以上は書類で落とされてしまうなど非常に厳しい時代でした。今だから笑って話せますが、こんなはずじゃなかった、と思いましたね。20代後半で迎えた初めての就職活動は簡単ではなく、周りの人の若さに焦ったり、自身の経験の少なさに自信を喪失したりする場面もありました。

ーその後、磯谷さんは地元の税理士法人へ。森藤さんは大手の監査法人へ就職されたそうですが、お二人が独立されたきっかけは何だったのでしょうか。

磯谷さん:僕らは北九州にある公認会計士の専門学校で出会ったのですが、その頃からいつか独立したいねという話は出ていました。それぞれの場所で数年キャリアを積み、自分たちの生き方・働き方を見直すタイミングが重なって事務所立ち上げに至りました。

ー具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょうか。

磯谷さん:スタートアップ向けの中期経営計画・資本政策作成支援や学校法人の経営コンサルティング、財務会計全般に関する相談業務や財務顧問サービスなど、個人事業主や中小企業向けの業務が多いです。ビジネスアイディアとリソースはあるけれど、それを具体的にどう進めていくか。それを企業にしっかりと入り込んで支援しています。会計士というとファイナンス面でのサポートという印象があると思うのですが、それ以外にも人、モノ、組織運営など幅広く支援しています。会社で高額なモノを購入するときの運用・管理の提案や、業務フローの見える化、人を雇うときの相談なども受けますね。士業ネットワークを活かしてその人に必要な専門家を紹介するのも重要な仕事です。

森藤さん: 簿記や会計学、経営学、管理会計、会社法や税法……こういった専門知識はもちろんですが、知識をうまく活用するコミュニケーションも欠かせない技術です。その人にとって何が足りないのかを見極め、スペシャリストと連携する、人と人のマッチングセンスが求められると思います。

公認会計士は、企業を軌道に乗せるインフラ的存在

「経営者が実力を十分に発揮できる土台作りがしたい」と笑う磯谷武明氏

ーお二人が活動する福岡の特徴をどのように捉えていらっしゃいますか。

磯谷さん:コンパクトシティで住みやすい。どこへ行くにもアクセスがいいですし、空港が中心街から15分というのも大きな利点だと思っています。そういった土地柄もあり、地域コミュニティは発達していますね。人との結びつきが強い場所なので仕事も友人つながりで始まることが多い印象です。人の傾向としては熱しやすく冷めやすいところがあるのではと思います。新しいものが好きで、若者が多い。だからこそスタートアップ文化は相性がいいのかもしれません。


ー福岡市はグローバル創業・雇用創出特区として創業支援・雇用創出に積極的に取り組んでいます。公認会計士として、この場所で担おうとされている役割はどのようなものでしょうか。

磯谷さん:福岡は起業しやすい環境が整っていることもあり、僕らが仕事で関わる企業や人は創業3年以内で30代という同世代が多いんです。ですから、起業後に作った会社が沈んでしまわないように経営戦略を練ったり、将来の見えない不安を取り除くことができればと思います。また、初めて公認会計士とやり取りをする方も多いので「敷居が高い、相談しづらい」というイメージを払拭し気軽に相談できるパートナーのような関係性を築きたいと思っています。

ーお二人ともとても気さくな方で、公認会計士の印象が変わりました。

森藤さん:僕ら公認会計士は、事業を回すための“インフラ”だと考えています。そうすると重要なのは使い勝手。専門機関はあるけれど、活用しにくいのでは問題外です。気軽に相談してもらえるようオープンでいたいですね。コミュニケーションコストを減らすため、相談の受付はslackやチャットワークなども導入しています。こういったツールは顧客であるベンチャー企業に倣っているのですが、彼らが普段使っているものを積極的に利用し、リアルタイムで対応することで相手に安心してもらえる環境作りを意識しています。

僕は起業してからビジネスを軌道に乗せるためには、ある一定の“セオリー”があると思っていて、それをどれだけ再現できるかが大事だと思っているんです。世の中に注目されるような天才経営者はほとんどが突然変異のようなもので、あまり再現性がないと感じています。そういったスタイルを目指すのではなく、起業した人がある程度のところまでビジネスを回せるように支援するインフラ的役割が求められているのかなと。起業はゴールではなくスタートですからね。

ー想いのある人が安心して挑戦できる環境作りを進めていきたいと。

森藤さん:はい。世界中のスタートアップが切磋琢磨するシリコンバレーでは、企業が生まれ、育ち、育った起業家たちが若い世代を育てる循環システムが確立されています。イノベーターたちが集積してきた知識と経験が次世代に受け継がれていく。僕らはその育成システムを福岡で作り、分厚くしていきたいんです。起業しやすい環境があり、さらにバックアップしてくれる専門家が身近にいれば、アジアのハブとして福岡が活躍する場ももっと増えるのではと思います。起業の事例が多くない地域こそ、こういったシステマティックな仕組みが必要だと思います。

ー今、実際に手がけられているお仕事を教えていただけますか。

森藤さん:最近だと、高校の後輩に脱サラ指南をしましたね。勤め人だった彼が事務所に遊びに来て、おしゃべりをしている間に起業することを決めてしまったんです。やりたいことがある、という気軽な相談だったのですが「それをどうやって実現させるか」という話を進めているうちに本当にやることになって。

ーそれはどういったビジネスなのでしょうか。

森藤さん:株式会社フィランドという会社なのですが、長崎県平戸市の大自然と最先端テクノロジーを掛け合わせた教育事業をメインとしています。代表は大手学習塾出身で、平戸が持つ食文化や豊かな自然、独特の歴史などを活かし、街の活性化と教育事業を並行して行っています。2017年12月に起業、スタートしてたった2週間で十分なクライアントを集め、順調すぎるくらいの走り出しだと思います。

磯谷さん:不安要素を取り除いていって、それがゼロになった瞬間に踏み切れる人が多いんです。そのきっかけになれたら嬉しいですね。

ーどんなところにやりがいを感じますか。

磯谷さん:シンプルに「相談してよかった」と喜んでもらえるのが一番嬉しいですね。あとは、協力した企業のサービスを街中で見かけたときでしょうか。共に苦労した分だけ、達成感を感じます。自分たちの仕事を通じて、クライアントが成長してくれたら嬉しいです。

森藤さん:この仕事は共存共栄。自分たちも顧客も共に成長できないと仕事として成り立ちません。いい仕事だな、と思っています。

磯谷さん:先生と生徒という関係性よりは、入学したばかりの1年生と卒業後のOBのようなものでしょうか。これまでの仕事で得た経験や学びを次の世代へ還元していくような気持ちです。

地方創生は、地域に住む人が輝くこと

ーお二人が考える「地方創生」とはどのようなことでしょうか。

磯谷さん:正直、地方創生という言葉があまり好きじゃないんです。東京が主役で地方が脇役というネガティブなイメージがあって。東京の後追いをするリトルトーキョーを作るのではなく、福岡独自のカルチャーが発展するよう、仕事を通じて貢献できたらなと感じています。「地方創生」をテーマに突き進むよりも、もっと小さな範囲で確実に歩んできたいという気持ちが強いですね。身近な人の夢を叶える手伝いをしていった結果、地域が盛り上がるきっかけになれたらいいなと。

森藤さん:今や自分を表現することが仕事になり、それで食っていける時代になっていると思います。友人たちが自分のやりたいことで起業し、仕事を通じて繋がる。その輪を広げることがその土地の文化や多様性を発展させ、最終的に地域の人たちによる“地方創生”が生まれるのではないでしょうか。地方創生という言葉が先に来るのではなく、その土地に住む人や文化ありき。まず人がいて、その人が輝くことで地域が輝く。そういう順番じゃないでしょうか。

福岡は九州の玄関口で、アジアにも近い。福岡市はブランディングが得意で、熱量のある空気感を作るのが上手ですよね。そういった意味でビジネスを生み出すスピードは福岡市がトップだと思うのですが、僕の地元の北九州市をはじめとした他の都市もそれぞれの強みや個性を持っていますよね。自分たちの仕事を通じて、オール福岡・オール九州で発展していけたら嬉しいですね。そういった形で、故郷に恩返しできれば嬉しいです。

●株式会社Faro 概要

  • 代表取締役 : 森藤 大帆、磯谷 武明
  • 所 在 地 : 〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神1丁目15番2号 5階
  • 電  話 :092-406-2980
  • 設  立 :2016年5月
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  • コーポレートサイト

取材・文:畠山千春