兵庫県の淡路島にある「道の駅うずしお」。鳴門海峡のうずしおを間近でみられる絶景が魅力で、最近は道の駅内のレストランで提供される地域の食材の良さを最大限に活かした料理が注目を集めています。
運営元は「株式会社うずのくに南あわじ」。他の第三セクター*と同様、一時は赤字におちいり給与はあがらずボーナスも出なかった会社が、年商約14億5,000万円にまで再生しました。
今回は、ランチ営業のみにもかかわらず年間の売上が約2億9,000万円にものぼる「道の駅うずしおレストラン」の徹底した顧客志向から、「顧客志向の正しい実践方法」を学び取ります。

*国または地方公共団体(第一セクター)が民間企業(第二セクター)と共同出資により設立した法人。

株式会社うずのくに南あわじ

南あわじ市が出資する第三セクター。
うずの丘大鳴門橋記念館及び館内レストランや物販店、道の駅うずしお、道の駅うずしおレストラン、そして「あわじ島バーガー 淡路島オニオンキッチン」等を運営。
近年売り上げを順調に伸ばしている。(下図参照)

売上遷移

*2016年度は12月1日~12月31日 うずの丘 大鳴門橋記念館 休館。


産地の情報も一緒に食べる「白い海鮮丼」

株式会社うずのくに南あわじの売上向上に貢献する施策を次々と打ち出してきたのが飲食事業を現場で率いる金山宏樹氏。(※2017年4月21日取材時)
金山氏が入社後最初に着手したのは看板商品の開発です。お客さんにしっかり覚えてもらえるような、淡路島の顔となる商品が必要との考えからでした。新商品には顔となるに相応しいインパクトが、見た目と味ともに求められました。そして、そこで生まれたメニューこそ「白い海鮮丼」。現在では目論見通り、一般客向けの看板メニューとして君臨しています。この「白い海鮮丼」、一体どのように誕生したのでしょうか。

もともと金山氏が入社するまでレストランで提供していたのは、淡路島で取れた魚に加え、マグロやサーモンなど、淡路島でとれない魚も使っていたごく普通の海鮮丼でした。金山氏が他店も含めて淡路島の海鮮丼の食べログやブログでの評価を調べてみたところ、評価は決して悪くなく、「淡路島の魚介がおいしい」といった書き込みもみられたそうです。

しかしこのように見ていくと多くの人が違和感をもつのではないでしょうか。金山氏もそうでした。お客さんが正しく淡路島の良さを理解できておらず、道の駅としてその使命を十分に果たせていないのです。これはお客さんにとっても、道の駅にとっても損失です。ではなぜそのような事態が起きているのか。なぜ海鮮丼に淡路島でとれない魚の使っているのか、金山氏はすぐさま料理長に聞きに行きました。そしてそこで明らかになったのは、淡路島では白身魚しか漁獲できないということでした。白ご飯に白身魚では見栄え良くないとの考えで、仕方なくマグロやサーモンが使われていたのです。

お客さんに淡路島の魚の本当の良さを知ってもらいたい一方で、見栄えが悪いとお客さんに注目してもらえない。そのジレンマから救ったのが一種の開き直りの発想でした。白身魚しか取れないなら、逆にそれをアピールすればいいという逆転の発想で淡路島産の白いネタだけを取りそろえたのです。ある意味、正直に淡路島をさらけ出したともいえるかもしれません。

さらに、せっかくのお魚もお客さんからすると見た目からでは何という名前の魚なのか、どんな魚なのか分からないことに着目。焼き肉店でも食べている肉がどの部位なのか分からなくなる経験が一度はあるのではないでしょうか。

そんな日常に潜むもったいなさを解決したのがこの白い海鮮丼の提供方法です。盛り付け前の状態で提供し、地元で取れた魚の名前をしっかり伝え、お客さん自身に盛り付けてもらうスタイルを発明したのです。今日の魚が何なのかを知る楽しみ、自分で盛り付ける楽しみを提供し、まさに「産地の情報も食べる」海鮮丼となったのです。これがダントツの名物となり、道の駅うずしおレストランの顔となる人気メニューとして現在も愛されています。

白い海鮮丼

盛り付け後の白い海鮮丼