63の自治体・地域が加盟する地域づくりNPO、「日本で最も美しい村」連合。フランスの「フランスで最も美しい村」連合を手本に、2005年に設立された。しかし、その活動はあまりにも地道。企業からの寄付金に頼るだけでは、活動がしりすぼみになっていくのも時間の問題だった。そのような状況下で行われたそごう・西武百貨店の「日本で最も美しい村展」。結果は大成功と呼べるものだった。

今回はその立役者、「東京にいる美瑛(びえい)町職員」こと観音(かんのん)太郎さんに話をうかがった。

「日本で最も美しい村」連合

「フランスの最も美しい村」協会1982 年をモデルに2005年10月に7つの自治体で発足。
日本各地の村の多様な美しさ、景観、文化を守り、地方の自立を目指す運動を行う。同様の「最も美しい村運動」はベルギー、カナダ、イタリア、スペインと世界的にも広がりを見せている。世界の中でも日本の加盟村はバリエーションが豊かであるのが特徴。
人口が概ね1万人以下、連合が評価する地域資源が2つ以上ある、地域資源を活かす地域住民の活動がある、という条件を満たす63の自治体または地域が加盟している。
「日本で最も美しい村」連合ホームページ

観音 太郎

1989年札幌大学経営学部卒業。卒業後、風景が好きで居心地がいい場所であった美瑛で働きたいと思い、美瑛町役場に入庁。2011年に、長期出張の命を受け東京を拠点に情報収集人脈形成に精を出す。2013年に、北海道の町村としては3つ目となる東京事務所を設立し、初代所長になる。以降美瑛町が首都圏に求めるあらゆる業務を担当する。

いきなりの百貨店での催事共催はいきなり旗艦店で

ー東京で精力的に活動されていますが、観音さんは美瑛町の職員ですよね?

そうです。新卒で北海道の美瑛町職員になってから、20年以上ずっと美瑛一筋ですよ。それが気がついたら、そごう・西武百貨店で大きな催事を共催して、盛況すぎてシフトが回らなくなって朝から晩まで1日中レジに立ったりするわけです(笑)。

ーどのようなきっかけで催事の共催に至ったのですか?

もともと、美瑛町の町長が、地域づくりNPO「日本で最も美しい村」連合の代表だったんです。でも、設立から10年間、その活動はものすごく地道で、正直あまり認知度は高くなかった。そこで「せっかく良い理念があるなら盛り上げたい」って思ったのがきっかけです。そのタイミングでたまたま、そごう・西武百貨店さんと出会いました。

ー百貨店業界は近年やや低調ですが、どうしてコラボレーションしようと思ったんですか?

実は、通常の物産展のお誘いは断っています。高額な出店料を取られる上に、私たちは地方から来るから旅費や交通費、商品の輸送費も結構かかる。終わってみると、如何にPRがメインとはいえ参加した地方自治体はトータルで見ると大赤字、みたいなことも。今までは良くてもこれからは良くないと思いました。でも、百貨店は百貨店で経営が厳しいことも知っている。そういう厳しい状況の中で、そごう・西武さんは他と違って百貨店としての品位は守りつつ、身銭を切っても前例のないことをやろうっていう気風があった。そこで一緒に「日本で最も美しい村」のブランディングに挑戦しようと盛り上がったのです。

ー共に新しい挑戦をしようという姿勢が、企画展共催につながったのですね。

そうですね。しかも、最初から横浜店とか池袋店といった旗艦店の催事に放り込まれたんですよね。自治体職員の素人集団が急に大舞台に立たされ(笑)。でも、そんな状況で、1週間で5,000万円の売り上げを出せたんですよ。

ー挑戦が報われたのですね!

お客様からは本当に好評でした。美瑛町でも2万円以上する高価な工芸品を当初、30個用意していたんですが、最初の横浜店ですべて売り切れたり、1日200個限定のあんぱんにものすごい行列ができて、販売開始前に整理券で全部売り切れたり。それが毎日続いて、横浜・池袋・千葉・神戸・広島と全国の店舗に広まったんです。

日本で最も美しい村展のブース

地域とうまくいく東京のパートナーとは

ー「日本で最も美しい村」連合のブランディングにも好影響がありましたか?

はい。実は、そごう・西武さんは「加盟地域は田舎すぎるところも多く、そもそも商品を大量生産出来ない、商品数が少なすぎて流通に乗せられない」といった問題があることもしっかりと理解してくれました。その上で、西武さんが発行している、「SEIBU PRESS」に「日本で最も美しい村」のことを大きく掲載してくれたり、無料で駅のコンコースに広告掲載してくれて、「日本で最も美しい村」連合の知名度も大きく上がったと思います。さらに、ギフトカタログで加盟村の商品を扱う場合も必ず「日本で最も美しい村」連合のロゴマークを表示する等の協力していただきました。企画展のために地方から出てきた業者さん、連合に加盟する地域の住民もその手厚いサポートに感謝していました。

ーパートナーの課題解決は自社のメリットにもなる。それを体現した協力体制がだったのですね。

本当にその通りです。だからこそ、これからはパートナーさんのイメージ向上にも繋がるように、NPOのブランディングにもさらに力を入れなければと、改めて実感しました。

ー反対に、「付き合いたくないパートナー」というのはありますか?

一時期、形や色が悪くてそのままでは商品にならない「ハネモノ」の野菜を東京で売ってやるから、農家を紹介してくれって話はめちゃくちゃ多かった。でもこれ、こちらからすると「完全に勉強不足だな」としか思えない。たとえば、まず美瑛が北海道のどこにあるか知らない責任感の無さ。安く買えたらおそらくどこでも良いのでしょう。農家さんの事を考えるととても同意できません。北海道の農業は土地が広いからアメリカみたいなやり方をしているので、ハネ物を丁寧に収穫すると、結果として通常並みのコストがかかります。現場を見に行ったことがないから、そういう話が出てくる。だから、「いいよ、安く売ってもらうから、農家さんに迷惑が掛からないよう代わりに自分で収穫してきてくださいね」って伝えました。今思うと、ちょっといじわるだったかもしれません(笑)。逆に、一方的な商売ではなく、本気で新しい価値を生み出したい人なら、断らずに真剣に話を聞くのが私のスタンスですね。

ー老舗の地域づくりNPOが、再び活力を取り戻せたポイントを教えてください。

私たちは「日本で最も美しい村」連合だから、地域のPRやブランディングはもちろんやります。でも、話を誇張したり、行政的な視点から一方的なアピールはしない。寄付してくださるパートナーが求めていることを想像しながら、互いにアイデアを出し合うことが大事だと思っています。これからは、地域づくりという本来の活動を大切にしつつ、NPOのブランドをどんどん高めて、企業のイメージの向上という役目を担っていきたい。双方向の関係性が作れるパートナーとは、今後も長くおつきあいしたいですね

地域にとって、東京はお金と人を呼ぶうえで最重要のマーケットだ。一方で地域は東京には無い、ユニークな価値を持っている。双方がその価値を正しく認識し、より多くの人に提供するのが地域と東京のWin-Winビジネスの一つの形だといえるだろう。
フランスではミシュランがロードマップを作成し、村を巡るツアーが開催されるなど今や一つのムーブメントとなりつつある「最も美しい村」運動。足場を固める10年を経て、「日本で最も美しい村」連合躍進の時が迫っている。

取材・文:編集部
写真提供:美瑛町