どこの地域や自治体でも必ずと言っていいほど課題として挙げられるのが「情報発信」です。「うちは情報発信がなかなかできてなくて・・・」という言葉を聞かないことがないくらです。特に人口1万人前後、大きくても数万人規模の地域や自治体にとって、この課題解決はなかなか困難です。

では、これをどうやって克服していけば良いのか?

もちろんすべてを解決できるというわけではありませんが、私達がこれまでの経験で得た一つの「解」について、まとめておきたいと思います。私達が自治体の方に提案するときには、ほぼこうしたお話になることが多いからです。少し長くなりますが、ご興味のある方は是非ご一読ください。

どこの地域も、ちゃんとしたホームページは既にある。でも…

今、情報発信について、ウェブサイトやSNSをうまく使わなければと思っていない地域は、おそらく皆無です。皆さん、「デジタル・マーケティング」という言葉を頻繁に使います。ネットの潮流や技術の変遷なども非常によく勉強されています。しかも、どの地域も、今どきのデザインの、ちゃんとしたウェブサイトを持っています。しかも、同じ地域にいくつものサイトが乱立していることも少なくありません。よく見ると、自治体だったり観光協会だったり、その持ち主が違うことはよくあります。しかし、一見「全く情報発信されていない」という認識からは程遠い感じです。SNSも同様に既にやっていたりします。いろいろ伺うと、そうした小さなエリアや自治体でも、結構な予算を使われていたりします。数百万円どころか、中にはもっと思い切った予算をかけていたりもします。

では、なぜ「全然できていない」なんて言うんでしょうか?

その一つは、やはりそれらのサイトやSNSのアクセス数や反応に、手応えが少ないのが大きいでしょう。月間数千PVとか、「いいね!」は数百止まりとか…。やはりその程度だとそれほど経験のない地域の担当者でも「うまくいっている」実感は無いのも当然です。数万PVくらいになっても、問い合わせや、来客などにつながる反応はほとんど期待できないでしょう。

つまり、そうした地域には「ほとんど見られていないホームページ」が、あちこちにかなりの数存在しているというのが、現実です。

ホームページも「箱物」になっている現実

「どこでも誰でも見られるのがインターネットの良さじゃないのか?」 中にはそういう理解にとどまっている方もいるかも知れません。でもそういう知識レベルの方はむしろ少数派です。無論、ホームページを立ち上げただけではほとんど誰も見てくれません。一方で、アクセス数を伸ばすための広告費がかけられるかというと、それもやはり厳しい。仮に広告を打ったとしても、一時的に露出は増えるかもしれませんが、その後はやはり戻ってしまうことがほとんど。しかも年間で数百万円くらいの広告では、焼け石に水なのも、皆さんご存知です。そもそも、小さな自治体でそれほどの広告費を予算化できるは稀でしょう。検索順位をあげるためのSEO対策についても皆さんよくご存知です。どこの地域の公示仕様書にも、SEO対策をちゃんとやれと書かれています。そかしそれをある程度やったくらいでは、現実にはほとんど効果はありません。どのサイトも同じように対策してあるからです。

しかも、最新のデジタル技術を応用すればできるであろう、様々な機能を盛り込んでいる仕様書(自治体からの開発要求)も少なくありません。「デジタルなら何でもできる」「デジタルを駆使しなければならない」という思い込みからか、会員登録機能をつけたり、アンケート調査機能をつけたりなどなど、非常に”豪華”な機能が備えられていることがままあります。しかし悲しいかな、そういうものはほとんど利用されてないことが多いのです。なぜなら、そもそもアクセス数が少なすぎるからです。

デザインも高度なものや、今どきの感じのものが少なくありません。でもそれらは大概、PC用サイト。一方で、一般ユーザーの閲覧は、観光や物産分野では既にスマホからが主流です。つまり、PCサイトの高度なデザインを見て満足しているのは、ほとんどが「関係者」ということが、実態として少なくありません。これも予算の使い方としては本当にもったいないことです。 複数の地域をカバーするDMOや、県レベルの観光サイトであれば、発信する情報も多岐にわたりますし、場合によってはBtoBの役割を担ったりもしますので、一定以上の機能開発は必要でしょう。デザインも凝りたくなるのも理解できます。しかし、予算の限られた小さな地域でそれをするのは、無駄な事が多いのです。

せっかく立ち上げたのに、誰も見てくれないホームページ。かつてリアルの建築物中心の政策が大きな社会問題となったのと同じように、バーチャルの世界のホームページもまた、ある意味「箱物」行政になってしまっている現実があります。

どこの地域でも、そこで悩まれています。十中八九、同じところで立ち止まっているのです。
この状況を変える施策は無いのでしょうか?

「箱」から「中身」への発想の転換

その状況を打開する方法が、一つあります。それは決して「魔法の杖」ではないのですが、私としては非常に本質的なことだと思って、これまであちこちでそういう主旨でお手伝いしてきました。

それは、一言で言えば、「地域に情報発信チームを作る」ということです。
何だ〜と思われるかもしれませんが、実はこれしか方法は無いのです。

「なかなか、地域にそういう事ができる人がいなくて・・・」と思った方も少なくないと思います。

でも、よくよく聞くと、実際にそういう人を集めてチームを作ろうとしたことすら無いことがほとんど。なぜなら、「ITやライターなんていうスキルを持っている人は地方にはいない」という思い込みもあります。また、募集して依頼するということ自体が、具体的にどう依頼したらいいかもわかりませんし、実際にやるとなると非常に面倒なことだからかもしれません。

サイトを作る事業者(制作会社)や、広告代理店などは、そういうことはなかなかやりません。これは決して批判しているわけでは全くなく、そもそもビジネスモデルとして「自分たち側が全部やることで利益が出る」商売だから当然です。そもそも、公示仕様書にも「ホームページを作れ」と書いてあるだけなので、当然それだけをやるのです。

一方で、そうしたサイトの中身はというと、立ち上げたときのまま、ずっと同じということが驚くほど多い。たまにプレスリリース的な記事を、担当者がたまにアップするくらい。情報更新らしいことが殆どなされていません。この状況こそ、立ち上げても見られない原因そのものなのです。

もちろん、そもそも忙しい自治体の担当者の方が、日々地域を巡って取材するというのも非現実的でしょう。だからこそ、やはり地元でそういうことができる人を探し、数人でもいいので「チーム」を作るしかないのです。しかもそれは当然、ちゃんとお仕事として依頼するべきです。

取材して撮影して記事にして掲載する。これはやったことがある人はおわかりですが、かなり大変な仕事です。でも同時に非常に楽しくてやりがいのあるものでもあります。地域にそういう仕事の経験がある人が一人でもいたら、幸運です。そうでなくても、個人が情報発信をする時代です。得意な人、隠れた才能をもっている探せるはずです。

仮に本当にいなくても、仕事として依頼する仕組みを作れば、周辺の市町からでもやりたい人はいるはずです。地域おこし協力隊として、そういう経験のある人を探してくるのもいいかもしれません。雑用ではなく専門性のある人材をというのは、今の地域おこし協力隊の潮流です。

それでもいないということであれば、育てることから始めればいいのです。地域の情報発信というと、専門家じゃないとだめだという固定観念をまずは払拭すべきです。もちろん向き不向きはあるので、誰でもいいとは言いません。しかし、ある程度の資質とやる気さえあれば、一定以上のことはできるようになります。無論、プロのような写真や、雑誌の文章のレベルには到底簡単には達しません。しかしそうでなければ、地域の魅力が発信できないということは無いのです。一番大切なのは、その地域を本当に「いい」と思う気持ちや愛情です。想いが溢れた記事や写真は、人を惹きつけるものなのです。
強いてコツがあるとすれば、記事を細かく検閲したりせず、自由に取材して公開してもらうことです。もちろん一定のルールや、方針は必要です。地域外の人に、その地域のどんな魅力を、どういうコンセプトで、主にどんな人に伝えるかという戦略も議論したほうがいいでしょう。でも、上の人にいちいち管理され、毎回真っ赤に添削されるような仕事では、すぐにやりがいを失いさせかねません。自治体や地域の仕事だからといって固く縛るのではなく、思い切って任せることが非常に重要です。

地域情報発信チームの”費用対効果”

ホームページの「箱作り」に数百万、場合によって1千万円に近いくらい予算をかけるなら、当然そこはもっと予算を抑えて、情報発信のチーム運営にそれを向けるべきなのは、費用対効果からも明らかです。
ちなみに、デザインや機能などを一定レベルで抑える選択をすれば、今は、非常に簡便でしかも機能性の高いツール(CMS)がたくさんありますので、箱(ホームページ)そのものを制作・開発する費用はぐっと抑えることは、実はそんなに難しくありません。そこで抑えた予算を、記事作成チームの運営費に回すべきなのです。

仮に1記事1万円として、毎日1記事あげても、年間365万円。教育や編集、入稿作業の予算などを考えてもう少しかかるとしたら、記事数をその半分に押さえても十分でしょう。しかもサイトへのアクセスはそのほうが格段にアップすることは確実です。Googleは、情報更新頻度や、SNSからの流入などの多い、「生きているサイト」を高く評価します。実はこのことが一番のSEO対策なのです。同時にその仕事を依頼することそのものが地元に非常にやりがいのある“雇用”を生み出します。さらに大きいのは、そうした写真や記事が「地域の資産」になることです。著作権はもちろん地域や自治体のものですので、観光などのパンフレットやチラシなど様々な二次利用が自由にできますし、なんなら取材先の地元の事業者に無償で提供すれば、喜ばれること請け合いです。

記事や写真のクオリティが上がってくれば、その地域の見え方は格段に変わります。もちろん、外部のメディアへの素材提供も可能になります。更にこういう活動が、今後は「動画」でもできるようになると、益々地域の情報発信は効果的になります。地域の動画といっても、少し前に流行った、めちゃくちゃ高額な予算をかけた、プロモーションビデオのようなものではありません。昨年、『地方公務員アワード2018』を受賞された福井県庁の岩田早希代さんのような、地元愛に溢れた手作り感のあるPR動画を、とにかく数多くアップすることが、情報発信という観点では益々効果をあげるようになってくるでしょう。

以上、長くなりましたが、小さな地域が情報発信力を高めるために絶対に必要で、かつ非常に効果的な施策だと考えていることです。
いわば、地域の編集部を備えたところから、その情報発信力は確かなものになっていきます。しかも、地域内の波及効果が非常に大きいので、あらゆる施策にいい影響を与えるはず。

箱より中身。しかもそれを継続的にできる情報発信チーム作りは、これからの地域には必須の施策です。この事自体は、地域のサイズに関わらず重要です。現に、私達は沖縄や瀬戸内で地域メディアを企画・運用していますが、地元に10~20人のライター組織を作ることが、メディアの価値の源泉になっています。
これを、どうやったら効果的にできるのかについては、また別のコラムで書きたいと思います。 更には、そうしたチームが、できればずっと自治体予算に頼ることなく、ビジネスとしてお金も生んで、「自走化」することができないか。これも、今、各地の自治体や、DMOなどの観光関連組織の課題になってきています。
こうしたことについても、私達が今取り組もうとしていることについて、こちらの記事を是非お読みください。

文:ネイティブ倉重

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【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。