副業人材が地方企業の救世主になるーー。「働き方改革」を背景に副業を解禁する企業が増える中、地方の中小企業の副業を紹介し、都市部の有能な人材をマッチングする地域貢献副業求人サイト「Skill Shift(スキル シフト)」(運営会社=グルーヴス)が注目されている。
連載第一回(リンク)に引き続き、本記事でも副業人材を活用してこれまでにない活路を拓いている地方企業を紹介したい。富山県南砺市の日の出屋製菓産業株式会社は、海外販路の開拓に最適な人材の獲得に成功した。記事後半では、南砺市田中幹夫市長に副業人材が地域全体にもたらす影響について伺った。

記事のポイント

  • 老舗米菓メーカーが募集2〜3日で最適な人材に出会い採用を即決
  • 南砺市全体でスキルシフトの仕組みを活用した「副業応援市民プロジェクト」が好調
  • 副業人材は地域全体にとって、交流人口を増やす優れた接点になる

海外への販路開拓に副業人材を活用

日の出屋製菓産業は、今年で創業95年の米菓メーカーだ。「富山湾の宝石」と呼ばれるしろえびと富山県産うるち米を使った「しろえびせんべい」を筆頭に、300種類以上の米菓を製造。直営店「ささら屋」を、お膝元の南砺市福光に2箇所、他、富山県内に4箇所、金沢、東京、大阪と全国に10店以上展開している。

「ご多分にもれず、人口減少によるマーケットの縮小・寡占化という大きなトレンドには抗えません。現状維持は衰退を意味。新販路が必要です。」そう話すのは、創業者を曽祖父に持つ専務、川合洋平さんだ。

日の出屋製菓産業株式会社専務取締役 川合洋平さん

川合さんは現在、創業以来、経営の指針となり続けている「類ありて比なし」の社是に則り、海外展開の陣頭指揮をとっている。2018年2月に専門チームをつくり越境ECをスタート。JRが主催する現地商談会に出展したり、国内商社に営業するなどした結果、4月からは実際にモノが流れ始めている。

バンコク在住の地元出身者とマッチング

販路開拓が順調に進む中、南砺市
南砺で暮らしません課が音頭をとる「『副業』応援市民プロジェクト」の一環でスキルシフトの存在を知った。説明を聞き、すぐに募集を決めた。

日の出屋製菓産業の代表的な商品「しろえびせんべい」

「うちは中途採用を積極的に行なっているので、常に関連サービスへのアンテナを立てています。これまでにも、転職情報サイトはもちろん、実働支援型コンサルティング派遣サービスなど、さまざまな人材マッチングサービスを利用したり検討したりしてきました。でも、始めたばかりの新規事業ですから、思い切ったコストはかけづらいというのが本音です。その点、本業でしっかり稼いでいるプロフェッショナル人材に月額4万円の謝礼をお支払いし、副業として参画してもらうというスキルシフトのコンセプトは魅力的でした。」

海外といっても、どこの国に勝機があるのか。どう優先順位をつけて営業活動をするべきか。手探りで進めていた海外販路開拓をブーストさせるためにまず欲しいのは情報だった。川合さんはスキルシフトで、その「情報」を持つ最適な人材に出会うことができた。それも、募集を開始して2〜3日で、だ。

「ささら屋立山本店からすぐ近くの舟橋村出身の女性が応募してきてくれました。バンコクでご主人と会社を経営し、日本のものをタイで売る営業活動をしているので情報も販路も持っている。しかも、心の底から『故郷に貢献したい』という気持ちを熱く語ってくださり、もう即決でした。」

ささら屋福光本店では、しろえびせんべい手焼き体験も可能。インバウンド客にも人気

大手旅行代理店でタイのホテルに日本観光客を誘致する仕事などでキャリアを積み、現在は化粧品のOEMや日本酒のプロデュースを手がけるプロフェッショナル人材Kさん。9月から契約をスタートし、現在は越境ECの運用をまかせている。週1回のミーティングでは、現地からの新鮮な情報を得られるのが何よりのメリットだという。

「できれば社員になってほしい」というほど満足度は高く、「国内ECを見直すときには、またスキルシフトで募集をしたい」と意欲を見せる川合さんだ。

副業人材が地域全体にもたらすメリットとは?

スキルシフトを活用し、日の出屋製菓産業とKさんの出会いをお膳立てした南砺市は、どのような考えで副業人材の積極的な受け入れにいたったのだろうか。
南砺市では、日の出屋製菓産業株式会社以外にも、9社が募集して最低2名以上は応募がきた。すでに6社が採用し、計8人の副業人材を活用している。

ここからは、南砺市田中幹夫市長が考える、地域づくりにおける副業人材の価値に注目していく。

南砺市 田中幹夫市長と南砺で暮らしません課のみなさん

南砺市では、2年ほど前から関係人口に注目し、2040年に5000人というKPIを設定。この方針に基づき、さまざまな施策を打ってきた。応援市民制度を用意し、登録者に「市民名刺」を発行してつながりを可視化したり、50人規模の市外在住ボランティアに協力を仰いでお祭りの運営を行うなど、積極的に人的交流を促している。

これに加えて、「今後はますます、都市と地方でビジネス上の交流が生まれていくことが重要」と田中市長は話す。

「ビジネスというのは、お互いに強みを提供しあう営みです。そのためには、地方が強みを自覚しないといけません。7年ほど前、地方のものづくりを見つめ直して事業をつくる活動をされている俳優の伊勢谷友介さんとお話する機会があった。地方には本物のものづくり技術や、人の手が加わる前の生の素材がある。それが強みなのだと再認識しました。」

地方にはすでに強みがある。その強みを維持し発展させていくために、外部から視点や専門性、デザイン性を積極的に取り入れる必要がある。そう考えた市長は、クリエイター向けにスタジオやオフィス、コワーキングスペースを備えたクリエイタープラザを設立した。また、市内企業に対してクラウドソーシングの活用を促すなど、リモート人材の力を取り込むことに積極的だ。

こうした流れの中でスキルシフトの副業人材マッチングサービスを知り、すぐに導入を決めた理由は次のようなものだ。

「スキルシフトは、経営戦略ができる人材を対象にしていると聞き、それならすでに南砺市で仕事をしてくれているデザイナーと相乗効果が期待できる。また、南砺市は昔ながらのものづくりをずっとやっている企業がいくつもあるので、そうした企業で仕事をすることは副業人材にとってもスキルアップになると思いました。参加してくれる副業人材も、受け入れ企業も、市全体も、誰も損しない。とてもいい仕組みだと思いました。」

北陸新幹線が開通したことで東京との体感距離は縮まっており、月1度の往復ならさほどハードルにならないだろう、と自信を持ってスタートできたという。こうした予測は、募集を開始してすぐに現実のものとなった。市街地から遠く、それまではハローワークなどに人材募集を出してもまったく問い合わせがこなかった企業にも1週間で6人の応募が来るなどし、参加企業からは驚嘆の声が上がっている。

副業人材が経営者の「何かしたい」に応える

「老舗企業で『何か今までと違うことをしたいけれども何から手をつけていいかわからない』『新商品をつくりたいけれど何をつくればいいかわからない』と悩んでいる経営者は多いんです。そこから一緒に考えてくれる経営戦略人材はとてもありがたい。話をすることで、われわれの固まった考えの”肩こり”がとれていいものができあがっていく。また、こうした新しい取り組みがあることで、代替わりした次の若い世代がモチベーション高く仕事に取り組めるというメリットもあると思います。」

また、南砺市の魅力を知る人を増やすことで、間接的にも市内企業にさまざまなチャンスが舞い込むという期待も。

南砺市 田中幹夫市長

「都会で活躍する人が何かしたい、と思ったときに、場所や素材として地方、中でも南砺市を思い出してもらえることが重要です。きっかけさえあれば、好きになってもらえる自信はある。だから、接点を増やしたい。接点を増やす上で、一緒に仕事をするというのは愛着や帰属意識が醸成される最強の方法だと思っています」

さまざまな接点で南砺市と関わりを持つ人が増えれば増えるほど、そうした人同士が東京などで知り合い、そのつながりの先にいる人びとに、さらに南砺市の魅力が波及していく。田中市長はそのようなイメージを持ち、スキルシフトをひとつの優れた接点として捉えている。

南砺市は、スキルシフトの活用を前提に立ち上げた「副業応援市民プロジェクト」を今後も継続し、さらに多くの企業と人材のマッチング、接点の増幅を目指す。

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  • 取材・文:浅倉彩