最近でこそ、地方公務員が大手メディアに取り上げられる機会が増えた。しかし、それでも彼らが注目を浴びる機会は決して多いとは言えない。率直に言って、個としての公務員は、その価値に比して正当な評価や期待がなされていない。個の活躍が組織に大きな成果をもたらすという認識が、役所内外から欠けているように思う。

寄稿:加藤年紀(かとうとしき)

株式会社ホルグ 代表取締役社長

株式会社ネクスト(※現「株式会社LIFULL[東証一部:2120])に2007年4月に新卒入社し、2012年5月に同社インドネシア子会社「PT.LIFULL MEDIA INDONESIA」の最高執行責任者(COO)/取締役として日本から一人で出向。子会社の立ち上げを行い、以降4年半の間ジャカルタに駐在。
同社在籍中の2016年7月に、地方自治体を応援するメディア『Heroes of Local Government(holg.jp)』を個人としてリリース。
2016年9月に同社退社後、2016年11月に株式会社ホルグを設立。『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード』などを主宰し、地方自治体がより力を発揮できる環境を構築することで、世の中を良くしようと活動している。

個の力が組織の圧倒的な成果を生む時代

現代は社員や職員個人の力によって、圧倒的な仕事の成果を発揮できるかつてない時代だ。GAFAに代表されるように、優れた個が存在する企業が、世界の時価総額ランキングで急激に上位を占めることとなった。

 「民間企業と地方自治体は違う!」と言いたくなるかもしれないが、むしろ、変化率でいうと、個の力を生かせる環境変化の度合いは地方自治体のほうが大きい。2000年以降に機関委任事務が廃止され、失敗をしないことが重要ではなくなったからだ。これ以降、公務員は個の力を高め、クリエイティビティを求められるようになってきた。特に、右肩上がりの社会ではなくなった今、その打開策を個の力に頼らざるを得なくなってきている。

公務員の個の力を高める動きが今まで存在しなかったわけではない。時代の変遷の中で、公務員はネットワーク活動の中で自主的に勉強を重ねていた。1980年代、公務員のネットワーク活動は対面によるものが中心だった。2000年に入ると、メールやメーリングリストが登場し、それによって情報共有のハードルが格段に下がる。近年ではSNSが誕生したことで、さらに情報共有がしやすくなった。

お金をかけずに個の力を伸ばせる時代がきた

筆者は地方公務員オンラインサロン(https://camp-fire.jp/projects/view/111482)という、地方公務員限定の有料コミュニティを今年1月から運営している。参加費は月額1500円。現在、全国から約200名が参加している。ありがたいことに、現在、CAMPFIRE社のホームページに掲載されているファンクラブという仕組みの中で、全1089のうち19番目に人数が多い。

最近では、オンラインサロンが少しずつ世の中に広まってきた。ただし、その中身は主宰者によって大きく異なる。地方公務員オンラインサロンで最も人気があるのは、ウェブ上でセミナーを開催していることだ。活躍する首長や公務員が登壇し、全国どこにいても彼らと直接話をしたり、質問することができる。また、ICTや人事など、特定にテーマに沿った交流会も開催され、今後はサロン会員の発案でリアルのオフ会も開催される。

[写真:四條畷市 東修平市長、生駒市 小紫雅史市長らが登壇]

地方公務員オンラインサロンの特徴は、地方公務員同士のつながりだけでなく、様々なプレイヤーとの接点があることだ。例えば、先日、内閣府の官民連携に関するプレイベントに、オンラインサロンから地方公務員を紹介してほしいと打診があった。10人のサロン会員が参加したが、イベントを通じて、ベンチャー企業と地方公務員が意見を交わした。もちろん、主催した内閣府を加えた3者が個人単位でつながるきっかけとなった。

筆者が民間出身ということもあり、オンラインサロンでは民間との接点も多い。官民連携を進める前横須賀市長の吉田雄人さんや、クラウドファンディングの運営会社にも相談ができる。さらに、4月には医者、弁護士、ファイナンシャルプランナーなどと連携が始まり、地方公務員の公私にわたる相談体制が構築される。公私というのは、医者や弁護士は仕事の話をすることもできるが、個人の悩みも相談可能となるからだ。

筆者が特にダイナミズムを感じているのは、オンラインサロンにおける副業の推進だ。昨今、神戸市や生駒市が前例を作ったように、副業の流れが地方公務員の中でも広がっている。公務員が持つノウハウには今まで光が当たることが少なかった。しかし、地方公務員の声を聞きたいという企業ニーズは日々高まっている。

実は、オンラインサロンを通じて、既に複数の副業事例が生まれている。企業からHOLGに集まる依頼を、サロン参加者とマッチングしているからだ。国も公務員の副業を解禁する方向で動いているが、この流れにはさらに拍車がかかるだろう。

地方公務員とオンラインサロンの意外な親和性

オンラインサロンの特徴は参加者の自主性と自発性にある。個人がそれぞれで参加費を捻出し、辞めたいときに辞めることができるからだ。正直に言うと、それは主宰者としては厳しい側面も大きい。しかし、その結果として、自発的なコミュニティが維持されるのは大きなメリットである。

一方、参加者の楽しみ方は人それぞれだ。他の参加者とコミュニケーションは取らないが、好きな時間に過去のイベント動画を観ている会員も存在する。そういう使い方もあるんだなぁ・・・と感じたが、もちろん、それも大歓迎だ。地方公務員オンラインサロンでは無理のない、ゆるい参加を推奨している。人間、無理をしていても続かないからだ。

ちなみに、オンラインサロンと地方公務員には、2つの大きな親和性がある。1つは、地方公務員が日本全国津々浦々に存在すること。そして、もう1つは、地方公務員は組織を超えて、ノウハウを共有できることにある。一見、相容れないような地方公務員とオンラインサロンではあるが、オンラインサロンの正体は単なるコミュニティでしかない。そのコミュニティが地方公務員『個』にノウハウやモチベーションを与えられるモノであることが望まれている。

過去と他人は変えられない 未来と自分は変えられる

現代は相対的に個の力が強くなった時代だ。全体としてこの流れはさらに進むと予想されるが、中には個の力を生かそうとしない組織もあるだろう。そんな時に注目したいのは、カナダの精神科医エリック・バーンの残した名言だ。

「過去と他人は変えられない。しかし、いまここから始まる未来と自分は変えられる」

テクノロジーの進化によって、世の中には個の能力を高める様々な機会が溢れている。機会は英語にすると「チャンス」だ。周囲に転がる機会をチャンスととらえることで、未来は少しずつ変えられる。それは公務員でも例外ではないと筆者は信じている。

文:株式会社ホルグ 代表取締役社長 加藤年紀

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