ついに平成が終わり、令和時代に突入しました。異例の10連休もあいまって、世の中はまるで年末年始のような雰囲気すらします。
30年前の改元のときは、まさに”戒厳”的な様相でした。平成天皇のご英断の素晴らしさを改めて感じます。同時に時代の変化をこれほどまでに強く感じ、それを社会全体で等しく共有するのも、もしかしたら我々日本人にとって、初めての経験かもしれません。良し悪しはともかく、それぞれの時代に横たわる「価値観」に、我々は多かれ少なかれ影響をうけて生きています。
だとすれば、この新しい「令和」時代にも、我々が常識と考えてきた価値観自体に、大きな変化が起こるはずです。
その兆候は、平成時代のあちこちに出現していました。良い悪いということではなく、”変化している”ということです。
そこで完全に独断ですが、この令和時代に大きく変わりそうな価値観の中から、特に「地域」に関わるようなものを、一度整理してみます。

1:「全てが集まる東京が一番いい」という価値観


これについては、すでに意義を唱える人は少ないでしょう。
平成に始まったインターネットによる情報革命で、居場所による情報格差がほとんど無くなりました。
今や、一番品揃えの多い店がオンラインにあることは当たり前。
リアルの大きなメリットだった、イベントなどで人と出会う機会までも、オンライン上に移ってきています。
エンターテイメントや学びの場所も、急速にオンライン化しています。
もちろん、東京という一つの地域の魅力は、生き続けるでしょう。
しかし、日本人が抱いていた東京への「手放しの憧れ」や「全てに優れている」という価値観は、令和時代の中でほとんど無くなるでしょう。

2:一つの会社で勤め上げるのがいいという価値観

1と同様にこの価値観も、もはや「風前の灯」です。
1991年のバブル最後の年に就職した私と同世代が、この価値観を抱く最後の世代になるのではないでしょうか。
この世代ですら、おそらく半分近くは、転職を経験しているかもしれません。
逆にいえば、半分くらいは新卒で入社した会社で勤続30年前後を迎えているわけです。
そうした中でそろそろ「役職定年」や「退職後」の問題、さらには「早期退職制度」が身近になっている人も少なくありません。
「このまま無事に問題なく行けそうだ!」という人は、すでに少数派かもしれないのです。
いわゆる「人生100年時代」というキーワードが一般化し、トヨタの社長や経団連の会長ですら「終身雇用は難しい」と断言した平成末期。副業やパラレルワーカーという言葉も一般化しつつあります。
「同時に一つの仕事しかしない」という常識が崩れつつあります。
この傾向は、景気の波が下降曲線を描くであろうこの5年以内にさらに加速するでしょう。
感覚的には、あと10年を待たずに終身雇用に関する価値観は、完全に過去のものになるでしょう。

以上は、すでに多くの人が「もう変わるだろうな」と思っている昭和の遺産的な価値観です。
それに対して次の2つは、ここ数年で急激に変化しつつあるものです。

3:一箇所に住み続けるのが普通という価値観

この価値観は、特にここ1~2年で大きな変化を見せています。
それは、ADDress や、Hostel Lifeなどの「定額で住み放題」という新しいサービスが具現化したことの影響が否めません。
その前段には「シェアハウス」や「シェア・オフィス」「コ・ワーキング」などの、住む場所は働く場所を共有するという「シェアリング・エコノミー」による場所を共有する動きがありました。
実は「自動運転」の技術革新も、これに大きく影響すると言われています。
長距離バスや、キャンピングカーなどが自動運転になったときをイメージしてみてください。
寝て起きたら全く違う場所にいる。しかもそれが日常という生活。人生観が変わるでしょうね。
もちろん、全員がそれを望むわけではないでしょう。しかしそれ自体が選択肢に入ってくるレベルになるのはすごいことです。
まさに「住む」という概念自体が、大きく変化しつつあります。
令和時代が仮に30年続くとしたら、その中頃か終わり頃には、現在の「居住」の価値観とは全く違う感覚が支配する世界になっているかもしれません。

4:結婚と血縁が当たり前という家族観


平成の時代は、性的マイノリティ問題やセクハラ・パワハラなど、社会的に虐げられてきた立場の人々の声が、社会に大きく影響した時代でもありました。世の中にいた多くの「嫌な思い」をしている人達が、ようやく可視化されたともいえるでしょう。
もう一つ、日本には「少子化」という大きな問題があります。
これについて、つい「どうしたら結婚する人を増やせるか」という解決策に盲目的に行きがちです。

実は最近、この課題について論じられた、非常に興味深い動画を見ました。
それがこちらです。あの大前研一さんが、5年も前に「日本の少子高齢化の課題」に言及しているものです。
約60分の動画ですが、もし時間があったら是非ご覧になってみてください。12分目くらいからがその核心に触れています。

大前氏いわく、フランスなど出生率を上げている西欧諸国のほとんどは、いわゆる”婚外子”が半分以上なんだそうです。
”婚外子”とは、法的な夫婦としての「両親」が揃っていない状況で生まれてくる子供のことです。
自分はこのことを全く知らなかったので、正直大変驚きました。
つまり「結婚してから子供を生む」という常識を大きく変えた社会制度に転換したからこそ、出生率が上昇したんだと。
第三子まで生むと約1,000万円ほどの育児補助があるということくらいは聞いてましたが、もしこれが事実なら(そうだと思いますが)それ以上のインパクトですね。
日本はまだ「婚外子」の受け入れは言うまでもなく、シングルマザーの子育て支援もままなりません。
それどころか、未だに「夫婦別姓」を認めるかくらいででつまづいている始末です。
日本の少子化の原因は、もしかしたら「堕胎率」かもしれないという大前氏の言葉は、本当に衝撃でした。

しかし、もちろんすぐにではないでしょうが、こうした価値観も大きく変わってくる可能性があるのではないでしょうか。

というのも、子供の側からのアプローチだと話が複雑ですが、高齢者側からだと一気に問題が現実味を増すからです。
核家族化が進み、実の子供がいるかどうかにかかわらず、現代社会は年を取れば取るほど「孤独」になります。
いわゆる「孤独死」の問題がその行き着くところ。
公共の介護施設や住居は、「待機老人」で溢れかえるはず。
この課題を自分たちの力で改善するために、血縁のない者同士の同居や共同生活は、ますます増えていくでしょう。
それは、血縁のないコミュニティと、家族の中間的な関係です。つまり「血縁関係」に依存しない「家族」を作らざるを得ない社会が眼の前に迫っているのです。そんな中で、「婚外子」の問題も受け入れる糸口が見つかる可能性があるのではと思いました。
なにぜ、ついこの前まで、日本では里子や養子が社会の中で仕組みとなって十分機能していたわけですから。
家族そのものの形が変わる。いや変えざるを得ない状況になっていくような気がします。

5:経済的成功が、人生を満たす最善の方法だいう価値観


最後のこれが、ある意味最も大きい変化かもしれません。
このことを「お金が人生の全てではない」と解釈するのが一般的でしょう。
もちろん、その意味もあります。
でも実は、もう一つ別の重要な意味も含まれています。

それは、経済的価値だけではなく、人間関係などからくる社会的価値などが、より直接的な「生きる糧」になるということです。
これは一つには、田舎で今でも息づくコミュニティ同士の助け合いのような関係でもあり、
もう一方では、ブロックチェーンなどの新しい技術により、新たに多様な経済圏が生まれるという、
古くて新しい変化とも言えるでしょう。
企業がCSVや、SDGsを意識するなどの動きも、ある意味こうした変化に呼応しやものかもしれません。
いい意味で、人がより社会を直接的に意識して仕事をするようになる。
こう言い切ると非常に楽観的にも思えますが、大きな方向としてはそちらを向いているのではないでしょうか。

令和は、平成よりいい時代になるのか?


以上のような大きな価値観の変化は、すでに起きはじめていることで、しかもますます加速するはずです。
ただし、何度も言うようですが、「全ての人がこういう選択をする」いうことではありません。
こういう選択肢が“特殊ではない”世の中になるだろうということです。
価値観がますます多様化するということですね。この流れは止まりようがないでしょう。
なぜなら、誰もが「我慢する人生」は嫌だからです。
同時に今以上に「主体性」が求められる社会になるということでもあります。
昭和の高度経済成長の時代からでしょうか、日本人は、ある意味この「主体性」を軽んじすぎたような気がします。
欧米諸国にも、当然のことながら企業に属して働く人はいくらでもいますが、日本語の「サラリーマン」という言葉に潜むある種の”隷属姓”や”非主体性”を表す言葉はありません。
世界の人々は、自分に正直で、いい意味で”わがまま”なんです。
ある意味、自立的で、成熟し、自らの幸せの追求に率直なんだと思います。

現代の日本も、紆余曲折がありましたが、やはりそちらに向かっている気がします。

人はもっと自由に移動して、自らが役立てる場所を探すようになる。
多様な価値観で、もっと率直に自分の幸せを追い求めるようになる。
だからこそ、他人や社会を意識し、そのなかで貢献しながら生きていこうとするようになる。

こういう方向感であるからこそ、これからは”地域の価値”はますます高まります。ということは、ベースとしては、各地域にとって、令和という時代は、平成よりも「良くなる」はずなのです。
そのためにも、この新しい令和の時代にこそ、地域の価値をよりはっきりと可視化するための情報を集めて、どんどん発信していこうと思っています。

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。