地方公務員の支援というありそうでなかった分野で、ユニークな事業を展開している、株式会社ホルグという会社がある。2016年から地方公務員向けの事業を行い、「『人の根源的な幸せに繋がるが、儲からない事業』を、維持可能なビジネスへと育てる」と経営理念を掲げる。同社を率いる代表取締役の加藤年紀さんは、民間企業の立場でありながら、利益の最大化を目指しているわけではないと言い切る。どのような思いで、何をどう進めようとしているのか。インタビューという形でそのお考えを聞いた。
●加藤年紀(かとうとしき)
株式会社ホルグ 代表取締役社長
株式会社ネクスト(※現「株式会社LIFULL[東証一部:2120])に2007年4月に新卒入社し、2012年5月に同社インドネシア子会社「PT.LIFULL MEDIA INDONESIA」の最高執行責任者(COO)/取締役として日本から一人で出向。子会社の立ち上げを行い、以降4年半の間ジャカルタに駐在。
同社在籍中の2016年7月に、地方自治体を応援するメディア『Heroes of Local Government(holg.jp)』を個人としてリリース。
2016年9月に同社退社後、2016年11月に株式会社ホルグを設立。『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード』などを主宰し、地方自治体がより力を発揮できる環境を構築することで、世の中を良くしようと活動している。

●倉重宜弘(くらしげ よしひろ) 
ネイティブ株式会社 代表取締役 / 本記事のインタビュアー

倉重 加藤さん本日はよろしくおねがいします。早速ですが、株式会社ホルグの事業の概要をを教えて下さい。

加藤 公務員向けに3つの事業を進めています。1つは2016年に運営を開始した、活躍する首長や地方公務員に取材をするメディア「Heroes of Local Government」です。名前の通り、地方自治体で活躍する方にインタビューを行い、その方の功績やノウハウを広めています。

 2つ目は「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード」という表彰イベントを、2017年から始めました。先日丁度、告知をしましたが、6月からから8月にかけて第3回目を開催します。協賛企業には電通やNECソリューションイノベータ、PRTIMES、LIFULL、ホープなど、地方公務員を本気で応援しようとする企業が名を連ねています。このイベントの目的も、メディア同様に活躍している公務員の存在を世に広めることです。

 3つ目の事業は月額1500円で参加ができる地方公務員オンラインサロンという、地方公務員限定の有料コミュニティです。
 「学びと人脈が自宅で手に入る」とうたっていますが、オンラインサロンの参加者は月に2回のオンラインセミナーに参加できます。登壇するのは活躍する首長や公務員、経営者、著名人です。セミナー後に登壇者も含めて、ネット上で交流会が開催されています。

倉重 ちなみに、まだ聞き慣れない人もいると思いますが、オンラインサロンとは、どのようなものなのかもご説明いただけますか?

加藤 はい。一般的には著名人が有料コミュニティを構築し、参加者へ何かを教えたり、何かを一緒に行うというパターンのファンクラブ的なものが多いですね。ただし、地方公務員オンラインサロンの場合はやや異なり、無名な私が力のある人に支援をしてもらいながら、コミュニティを運営しています。
 たとえば、参加者は誰でも元首長や医師、弁護士に相談ができます。また、民間の人事担当者や、プロのライター、ブランディングやマーケティングの専門家にも相談が可能です。大手メディアの編集者との接点もできるので、メディアへの寄稿につなげることもできるようになっています。他にも、大手企業から相談依頼を受けて、参加者に紹介する副業案件を紹介することもありますし、学生や民間へ転職した公務員と交流も可能としています。

倉重 なるほど。加藤さんご自身が公務員専用のオンラインサロンを運営する中で、そのコミュニティにはどのような変化がありましたか?

加藤 変化ばかりですが、3つだけ着目すると、「参加者数」と「提供コンテンツ」、それから「場の雰囲気」に変化がありました。

 参加者は初期に一定数が集まった後に、少しずつ増え続けています。また、コンテンツは、オープンした1月に比べて、大幅に増やしました。たとえば、当初は専門家に相談できる仕組みはなかったんです。6月には書籍の編集者とも連携し、地方公務員が出版しやすくなるスキームも作りたいと思っています。

 3つ目の大きな変化である「場の雰囲気」については大きな反省があります。最初はみんながワイワイやるような雰囲気を想定しておらず、比較的落ち着いた場を作るつもりでした。というのも、単に「イエーイ!」みたいな軽いノリで盛り上がりたいのではなく、落ち着いた中で交流を進めたいと思っていたからです。しかしながら、結果的には参加者がコミュニティの中で発言するハードルがあがってしまい、悩みや聞きたいことがあっても相談しづらい環境となってしまいました。

 それを、打開するために参加者同士に寛容な場作りをしたいことを説明したり、マウンティング禁止など、心理的安全に配慮して、気軽に発言ができる設計にしました。落ち着いた雰囲気は残りつつも、発言しやすい雰囲気が生まれてきつつあると思います。
 その流れをさらに後押ししているのが、参加者の自発的な行動です。「オフ会をしませんか?」と企画をしてくださったり、女性参加者が中心となって女性の働き方などを語りたいなどと、オフラインへの動きや参加者同士の顔が見えるようになってきました。誰しも、知らない人が多いコミュニティでは発言がしづらいですが、顔見知りが増えれば、気がねなく話せるようになりますよね。少しずつ発言者が増えるにつれて全体に波及し、全ての参加者が気軽に交流を楽しめるようになってきたと感じています。

倉重 今後、地方公務員オンラインサロンはどのようなことを目指していくのでしょうか?

加藤 役所は「出る杭は打たれる」文化と言われます。どんな業務領域においても、頑張っている人ほど大変な思いをしていることも多いです。そういった方々にとって、力を発揮できるきっかけ作りや、一歩を踏み出す勇気につながるサービスにしたいです。全国で同じ悩みを抱える多くの仲間がいれば、ノウハウの共有だけではなく、心理的な安心感も得られると思っています。

 努力する公務員は、たとえ結果を出したとしても、大きな報酬を得られるわけではありません。また、ときに組織のなかで浮いてしまうようなこともあります。その一方で、住民の視点から考えると、頑張る公務員を応援したいというのは当然の気持ちではないでしょうか。弊社としても、そういう人たちを少しでも支援できるようになりたいです。

倉重 「『人の根源的な幸せに繋がるが、儲からない事業』を、維持可能なビジネスへと育てる」、という貴社の経営理念があります。オンラインサロンもそのような事業をめざすのでしょうか?

加藤 オンラインサロンの運営は、イベントを準備したり、参加者の発言をチェックしたり、実はすごく地味なことの繰り返しです。正直、ビジネスとして大きく儲かるものではありません。単純に儲けようと思っていたら、もっと良い方法は他にいくらでもあると思います。

 しかし、それでも私が地方公務員オンラインサロンを続ける理由は、彼らが活躍できる環境を生み出すことで、少しずつ世の中をよくできると信じているからです。地方公務員は表層的ではない、深いレベルにおける人々の幸福度に起因します。だからこそ、彼らと接することを楽しむことができ、楽しむことができるからこそ、継続することができるのです。

 もし、オンラインサロンを運営したい人がいるのであれば、作ることを目的とせずに、支援したい誰かが明確に存在したほうがいいと思います。支援する一つの手法がオンラインサロンだと私は思います。

倉重 なるほど。ということは、必ずしも売上の大幅な拡大を目指すというわけではないのですね。

加藤 よく、拡大してしっかり儲からないと影響を持てないと言われることがありますが、半分本当で、半分嘘じゃないかと思っています。たとえば、大手メディアの売上高や従業員数を上回る企業は少なくありませんが、社会への影響力に関して大手メディアを上回る企業はそう多くはないですよね。

 行政の仕事にしても、ビジネスとして成り立たない領域をみんなの税金から請け負う面も大きいわけです。つまり、ビジネスとしての難易度が高いけれど、多くの人が必要とする仕事は現実に存在していることがわかります。

 これらの事例を考えると、『人の根源的な幸せに繋がるが、儲からない事業』が世の中に存在することは明らかです。その事業を維持可能なビジネスへと育てることができれば、その事業はやがて自走し、売上には表れない社会的な意義が存在するのだと思っています。

倉重 なるほど。我々も同じような考えで事業を企画することがあるので、よく分かります。簡単ではないですが、その意義をしっかり持ちながら、継続性も持ち合わせる事業に育てていきたいですね。ご成功をお祈りしています。具体的な企画なども是非ご一緒させてください!

加藤 はい、こちらこそ!本日はこうした機会をいただいて感謝しています。是非今後ともよろしくおねがいします!

●「地方公務員オンラインサロン」の詳細情報
https://camp-fire.jp/projects/view/111482

●「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2019」の詳細情報
https://www.holg.jp/award/201901/