新しい旅の形として定着しつつある「おてつたび」。登録者数はまもなく10万人に迫り、昨今では若者だけでなく、ミドル・シニア層からの支持も急拡大しています。一見すると競合の参入も多いリゾートバイトや農業ボランティアのマッチングプラットフォームに思えますが、参加者や地域での反応をよくよく見ると、それだけではない独自の価値を生み出している側面がありそうです。
その秘密を探るべく、今回は株式会社おてつたびの創業者であり代表取締役CEOの永岡里菜さんにインタビューを実施。ご自身の原体験から生まれた事業への思い入れから、地域課題を解決するための官民連携の未来まで、関係人口創出の最前線とその本質を編集長の倉重が伺いました。

[株式会社おてつたび代表取締役CEO 永岡里菜さん]
1.「流行」では終わらせない。おてつたびの“今”とその広がり方
倉重: 昨年末の流行語大賞ノミネート、改めておめでとうございます。このことも象徴的でしたが、外から見ていても「フェーズが変わった」感じがありました。永岡さんご自身はどう捉えていますか?
永岡: ありがたいことにノミネートいただいて、世の中からの期待を強く感じています。
ただ、まだ「知っている方と知らない方」がいるとも思っていて、これからまだまだ広げていきたい感覚もあります。
倉重: 事業的なインパクトでいうと、たとえば登録者数も伸びているんですよね。まもなく10万人という話も聞きました。
永岡: 直近だと9.5万人ですね。SNS上での反応も増えています。
倉重: ユーザー層も変化しましたよね。当初は若い方が中心だったのが、退職前後の中高年層がより多くなったと伺いました。
永岡: おっしゃる通りです。定年退職を見据えた方、子育てが落ち着いた40代後半のミドル世代、60歳以上で既に定年退職された層などが特に増えています。
倉重: その年齢層のユーザーが伸びた背景は、どう見ていますか?
永岡: 2点あると思っています。1点目は健康寿命が延びて、人生100年時代と言われる中で、20年前の60歳とエネルギーレベルが違うことです。
倉重: たしかに。実は自分もその層ですが、まだまだ元気ですよ!(笑)
永岡: ですね(笑)。定年退職のタイミングは、いまだに世の中的には65歳で、元気だけれど力を持て余している方も多いと思います。そういう方が地域に関心を寄せはじめている面はあるのかなと。
倉重: なるほど。2点目はどういう理由ですか?
永岡: もう一点が、私たち自身がその層に注力しているという点です。日本全体で人口が減る中で、課題のしわ寄せは都市部以外の地域に行くと考えています。そんな中で、ミドルやシニアの方々の活躍の場を広げるということは、ある意味「最後の砦」なんじゃないかと思っています。
倉重: なるほど。創業当初から注目させていただいていた私からすると、なんだか時代が「おてつたび」に追いついてきたような感覚すら覚えます。世の中の何が変わったと思われますか?
永岡: 確かに、私たちは創業当初から言っていることも、やっていることも、何も変わっていません。おっしゃるとおり、世の中が変化してきたのかもしれませんね。
倉重: そのきっかけは何だったとお考えですか?
永岡: やっぱり一番大きかったのはコロナだと思います。生き方を見直す方が増える中で、地域というフィールドに目を向ける方も一定数いらっしゃったのかなと。
倉重: たしかに、あれは大きな転機ですよね。
永岡: あとはやはり、団塊の世代が卒業して、人手不足がより加速度的に進んだこともあるかもしれませんね。地域の中だけで何とかすることの限界が見えて、「関係人口」という言葉も国が推進して、世の中で注目を浴びている面もあると思います。
倉重: 先日、とある会議で「ふるさと住民登録制度」について自治体の方と議論したときも、「おてつたびみたいな」と、みなさん代名詞的に使われていて。確かにそのほうが分かりやすいなと思いました(笑)
永岡: ありがたいお話ですね。
倉重: 流行語大賞のノミネートも、ある意味「名前」そのものが決め手だった部分がありそうです。永岡さんの実感としては、どうですか?
永岡: ノミネート候補の中で企業名・サービス名は「おてつたび」だけだったと聞いています。本当に嬉しいです。ただ私たちとしては、一時の流行だけにとどまらず、カルチャーにしていければという意気込みでいます。
倉重: なるほど。御社が目指している世の中の姿につながりそうですね。
永岡: まさにそうですね。
倉重: そういう意味では、単に地方での「スポットバイト」の募集とは違いますよね。
永岡: そうですね。それはそれでもちろん世の中には求められていると思いますが、私たちは「アルバイトとボランティアの間」を作りたいと思ってスタートしています。また偶発的な地域との出会いが生まれて、移住や二拠点につながる方もいらっしゃいます。そういう部分が本当の価値になればという思いですね。
倉重: 世の中ではリゾートバイトの一プレイヤーだと括られがちでもありますよね。その違和感は、そもそも求めている価値が違うということなんですね。
永岡: そうですね。リゾートバイトも地域との接点を作る意味でもニーズのあるアプローチだと思っています。ただ私たちは、また違う価値を含めて提供していると思っているので、そこは丁寧に伝えていきたいです。
倉重: 流行にとどまらず、カルチャーになりたいというのは、そういうことなんですね。
永岡: はい、そうなれるよう頑張っていきたいです。

[おてつたびの公式サイト( https://otetsutabi.com/ )]
2.原点の尾鷲から、事業の核心である「お手伝い」にたどり着くまで
倉重: 先ほどの話で、作りたいカルチャー自体がユニークだということがよくわかりました。ちょっと遡って、そこに至るまでのストーリーを改めて伺いたいです。
永岡: ありがとうございます。きっかけの一番は、自分自身が三重県の尾鷲市という、漁業と林業の町の出身だったことです。
倉重: 私はお隣の愛知県出身なので、尾鷲っていうと「雨が多い」というイメージがあります。
永岡: そうなんですよ。愛知の方だと天気予報で尾鷲が出るので知ってくださることが多いんですが、それ以外の地域だとほとんど誰も知りません。大学入学と同時に東京に出てきた時に「どこ?」と言われる経験が、もとをたどると原点になっているのかなと思っています。
倉重: 地名の知られた地域以外の地方出身者は、その感覚よくわかりますね(笑)
永岡: いいものもあるんだけど、「どこそこ?」って言われてしまう。かといって、その魅力を自分の言葉でうまく伝えられないもどかしさもありました。ただ当時は、そこまで強い問題意識もなかったんですが……。
倉重: そこから社会人になってからの経験も影響しているんですね。
永岡: はい、就職した2社目は食育を中心に地域活性化をやっているベンチャー企業で、社員5名ぐらいの小さい会社でした。そこで全国を飛び回る中で、最初は「どこそこ?」と思いながら出張に行くんですけど、行ってみると「なんだここは!」と思う魅力的な地域が日本には溢れていて。
倉重: すごくよくわかります。
永岡: 観光名所がある名の知れた地域なんて本当に一握りで、それ以外にも本当に魅力の詰まった場所がたくさんあるんだと痛感しました。その瞬間に、ふるさとの尾鷲の原体験がすごくリンクして、むしろ「めちゃくちゃ面白い!」と感じたんです。
倉重: そこから、スポットライトが当たっていない地域に人が訪れるきっかけを作ろうと。最初から「お手伝いをしに行く」という事業コンセプトがあったんですか?
永岡: いえ、その2社目を辞めて起業した当初は、本当に何をしていいか分からなかったです。そもそも、知られていない地域に人を向かわせるなんて難しすぎるなって。
倉重: そうですよね…。
永岡: 当時、東京に住んだままネットで色々調べていました。でもある時、パソコンの中に答えはないなと思って、自分の目で見に行こうと。東京で住んでいた賃貸を解約して、夜行バスを乗り継ぎながらいろんな地域を巡りました。
倉重: それはすごいですね!やり方が大胆すぎます(笑)
永岡: その半年間、自分自身が地域の事業者さんのお手伝いみたいなことも少しやっていて、実際に経験したのも大きかったと思います。ところどころで、「人も足りないし、よかったらうちに来なよ」と言っていただけることが結構ありました。
倉重: なるほど、そうなんですね。そんな実体験がベースになっているとは。それは強いですね。
永岡: 例えばトマト農家さんのところで作業をしながら、休憩時間にお話をさせてもらうんです。農家さんの思いやこだわり、そのエリアの魅力を教えてもらうこともあって、「一緒にお仕事するのって、なんていい経験なんだろう」と思いました。
倉重: たしかに。その体験の価値そのものが、世の中に広めたい核心なんですね。
永岡: そうなんです。でも一方で私がやっていたことは、世の中では「季節労働」や「出稼ぎ」という言葉でしか呼ばれていないんです。自分の感じた経験と、世の中で使われているこの言葉とは大きなギャップを感じました。
倉重: そのギャップを埋める言葉は何だったんでしょうか?
永岡: それがまさしく「お手伝い」ではないかと。
倉重: なるほど、たしかに!「お手伝い」という言葉には、雇われる側、雇う側の立場の違いもないし、上下関係もない。ほどよい思いやりもあるけど、押し付けがましくもない。よくよく考えると、やる方と受け入れる方の関係性を、絶妙なバランスで丁寧に表現している言葉なんですね。
永岡: まさにそんな感覚でした。また当時、都市部に住んでいる方に100名ぐらいヒアリングやアンケートもしながら、その時はまだZoomが全然メジャーじゃなかったので、Skypeを使いながらインタビューしたりして……。
倉重: ちゃんとユーザーへのヒアリングも抜かりないんですね。
永岡: その時に面白かったのが、決して「知らない地域に行きたくないわけではない」んだな、という発見でした。みなさん「きっかけがあったら行きたい」けれど、そのきっかけがなかなか見つからないというハードルが邪魔しているだけなんじゃないかと思ったんです。
倉重: だから「きっかけ」を設計する。そこに「お手伝い」を置いたのが、おてつたびだったわけですね。
永岡: はい。おてつたびを使って地域に行くきっかけができたら、という思いでした。
倉重: そのネーミングにはすぐにたどり着いたんですか?
永岡: 割と早く決まりました。ただ、最初はスタートアップらしく小文字の英語がいいんじゃないかとか、トラベルの頭文字を取って何かかっこいい名前にしようかといった話も出たんです。
倉重: ベンチャー企業あるあるですね(笑)
永岡: 最終的には、地域の方が馴染みのある日本語であったり、地域の方に愛される言葉にしたいなと思って「おてつたび」に決めました。
倉重: その英断が今の価値を生んでいるんですね。おてつたびのサイトを拝見したり、SNSでの投稿を見ると、皆さん本当に楽しそうなんですよね。そこが普通のアルバイト募集とは決定的に違う気がします。
永岡: ありがたいことに、地域との出会い自体を楽しんでいただけてるのかなと思います。私たちがブランドに込めた意味に共感いただいている感じがしています。
倉重: 御社のサービスの何がその要因になっているんでしょうか?
永岡: そうですね、やはり大きいのは、そういうことが好きで意欲のあるユーザーさんを集められていることではないかと。そういう方が集まる場所を作れたことは大きいと思っています。
倉重: たしかにそれが核心のような気がします。時給いくらで比較する世界とは対極で、もちろんお金も必要だけど、それ以外の報酬を求める人が集まっている。それが「おてつたび」の一番のバリューなんですね。
永岡: おっしゃる通りだと思います。おてつたびの参加者は、そもそも地域に関心がある方が中心なので、そういう価値を体現するコミュニケーションが生まれやすい面もあるのかなと。
倉重: 例えばどんなコミュニケーションでしょうか?
永岡: 熊本県のお花農家さんの話が印象的なんですが、母の日に胡蝶蘭を出荷されている農家さんに来てくれた方が、「ここにあるお花はぜんぶ、全国のお母さんに“ありがとう”を伝えるためにあるんですね」と言ったそうなんです。
倉重: それはすごい。そんなこと言われたら、お花農家は本当に嬉しいでしょうね。ある意味、自分たちの仕事が単なる作業ではなくて、世の中に対して意味があると再認識できる瞬間になったような…。
永岡: はい。そういう瞬間が生まれるのも、おてつたびの特徴だと思います。
倉重: じゃあ改めて、なぜ「おてつたび」は、そういうユーザーさんを集められるんですかね?
永岡: いろいろあると思うんですけれども、先ほどお伝えしたように、ブランドへの共感は大きいと思います。社員もビジョンに深く共感してくれているので、そういうものが結果的にブランドを構築している面もあると思います。
倉重: そのブランド自体が、「お手伝い」という日本語が表現している人と人との関係性そのものと、非常にうまくシンクロしているということなんでしょうね。
永岡: そう言っていただけると、とっても嬉しいです。私たちはそういう価値をもっともっと追求していきたいと思っています。

[おてつたびで活動するユーザー「おてつびと」の様子]
3.全国に広げるための鍵は、官民連携とコーディネーターという発想
倉重: ここからは、今後の戦略の話を伺いたいと思います。おてつたびをさらに全国の隅々にまで浸透させるには、何が必要だと思われますか?
永岡: その一つには、やっぱり官民連携というか、地域の側との連携はますます重要だなと思っています。日本各地の地域が少しでも多く次世代に残る未来を作りたいという思いで立ち上がった会社なので、そこはすごく大事にしています。
倉重: なるほど。当然ですが「おてつたび」単独でできる話じゃない、ということですね。
永岡: もちろん、そうです。地域に人を受け入れるためには、様々な準備や、それを維持していくための地域側で担う役割が出てきます。そのための仕組みや体制づくりが必要になってきます。
倉重: 実際にはどんなことが必要になるんでしょうか?
永岡: 例えば、農家のお手伝いに人を受け入れようということになった場合、その受け入れ先が、どんな作業をどのように手伝ってもらうかを企画して整理することが必要です。またそれだけでなく、来てくれた人がどこに宿泊するか、食事はどうするかなど様々なことについて、地域内で役割分担して対応したり、ガイドするなどの「コーディネート」が必要になってきます。
倉重: たしかに。お手伝いすること自体は分かりやすいけれど、地域にそのプログラムを実装しようとすると、やはりいろんなことを考える必要がありますね。飲食や宿泊などは、長期間の滞在では必須です。特に田舎であればあるほど、地域ぐるみの調整が必要になりますよね。
永岡: そうなんです。だからこそ、地域単位で進めた方が、受け入れの機運も高まる相乗効果が生まれると思っています。
倉重: そこにはやはり一定の“手間”がかかります。でもそれを、おてつたびの社員が全国を巡って担当するなんて、すぐには現実的じゃないですよね。一方で、受け入れ側の事業者さんが全部やるのも負担が大きすぎる。だから「中間を埋める存在」が必要になる、という話ですよね。
永岡: そのとおりなんです。そこはやはり、地域の自治体と、民間が持っているノウハウをうまく組み合わせながらやっていくことが重要だと思います。
倉重: 言ってみれば「おてつたびコーディネーター」みたいな人材が必要ということですかね。各地域にそういう人が1人か2人は必ずいるといいですよね。
永岡: そういう世界観を目指したいですね。
倉重: 例えばそれを、地域おこし協力隊とか地域活性化起業人みたいな、国が推し進める仕組みで担えないか、ということも考えられませんか?
永岡: そうですね。私たちとしても、ぜひ自治体の皆さんとそういう仕組みづくりも一緒に進めていきたいなと思っています。
倉重: 今までも、そういうことにも取り組まれてきたんでしょうか?
永岡: なんだかんだ8年やってきて、土台やノウハウを積み上げて今があるので。そうした経験を活かしながら、意欲的な地域とまずは進めていければと思います。
倉重: 永岡さんが、自治体の側に持って欲しい考え方などはありますか?
永岡: そうですね、皆さん既にそう思ってると思いますが、やっぱり地域の関係人口は、どこかの企業1社だけがとか、自治体だけでとか、ましてや誰か一人が頑張ればできるというものではありません。それぞれの役割をうまく組み合わせて、点を面で繋げて、地域全体で受け入れる体制をとれるかどうかが本当に大切だし、そうでないと実現できないなと思います。
倉重: なるほど。そこが整うと、魅力的な関わりしろが地域単位で育っていきやすいということですね。そのためには官と民の役割をうまく組み合わせることが、これからますます重要になりそうです。
永岡: 本当にそう思います。私たちもそこに注力していきたいと思っています。
倉重: よくわかりました。ありがとうございました。

[おてつたびで活動するユーザー「おてつびと」の様子]
編集後記
今回の取材で非常に強い印象を受けたのは、「おてつたび」の価値がその創業時の思いに深く根ざした、地域と人を結びつけることそのものにあるということです。そしてその意味を非常にうまく表現しているブランドと、その価値をうまく受け取ったユーザーが数多く集まる場所を丁寧に積み上げて作ってきたからこそ、この時代の変化の風を受けてこれほど大きく広がってきたんだろうと感じました。私たちが何気なく使う「お手伝い」という日本語の意味の深さを、サービスの真価と直結させたことが、まもなく10万人というユーザーを惹きつけた原動力に違いないと確信しました。
また同時に、ここまで育った、ある意味非常に「日本らしい」サービスをさらに広げるには、日本各地でそのプログラムをアレンジする役割を担う人と、それを支える自治体や事業者との協働を進める体制が必要になります。まさに来年度から本格的に進む「ふるさと住民」に関わる仕組みづくりとも相まって、このことに注目し、歩みを進める地域が広がっていくことを願わずにはいられません。また我々もそうした動きの一助になりたいと、改めて強く思いました。
文責:ネイティブ.メディア編集部





