
「CREVAおおくま」に入居する株式会社いんふぉ.の野口美佐子さんは、2004年から20年以上、相双地域の情報を伝えるフリーペーパー「info」を発行し続けてきました。震災前から発行を続け、そして震災後もこの地域の復興の様子を伝え続けてきました。「CREVAおおくま」のオープンに合わせて大熊町に帰還した野口さんに、フリーペーパーの発行を通して見る相双地域の現在と、故郷大熊町への思いを伺いました。
250号以上を発行。相双地域のことを伝え続けるフリーペーパー
「info」は月1回発行されるフリーペーパー。福島県の浜通りから宮城県南のコンビニエンスストアやスーパーマーケットなどに置かれています。発行部数は10000部。町内でもlinkる大熊やCREVAおおくま、大川原のデイリーヤマザキで受け取ることができます。また、インターネットでも紙面を見ることができます。求人広告や飲食店の広告、新店オープンの案内、イベント情報などが掲載されており、特集記事として復興に携わる人に焦点をあて、「Passion 夢の途中」というタイトルで紹介しています。野口さんに最近の紙面の変化を聞くと、「ここ1年で求人広告が増えました。それからイベントの情報もページに入らないくらいたくさんになりました。この地域に活気が戻りつつあることを実感しています」と話します。

「info」創刊のきっかけ
野口さんは大熊町出身。実家は大熊町中心部のお菓子屋「美好野菓子店」でした。20代のころからアメリカで暮らし、自ら人材派遣会社も立ち上げました。アメリカ滞在時には9.11同時多発テロも経験し、人材派遣先の世界貿易センタービルが被災し、仕事は大混乱に。それから2年ほどたった2003年、およそ20年ぶりに大熊に戻りました。
2人の娘を連れて大熊に戻ったのですが、慣れない日本暮らしにじんましんを発症。しかし、地域の病院の情報がわからず、よいお医者さんに巡り合うことができませんでした。最終的には友人から病院や薬局を教えてもらい、娘に合った病院を探すことができました。
当時の相双地域には東京電力関連の方が多く働いていました。野口さんは、「自分と同じように外から来た人たちが、生活情報を得られず困っているのではないか?と考えたことが創刊のきっかけでした」と話します。そんな人たちのために、みんなが持っている情報を持ち寄る場をつくりたい。その思いが、「info」の創刊へとつながりました。
「info」という誌名は「Invisible network from inside out」の頭文字に由来しています。地域の内側にある目に見えないつながりを外へと広げていく。そんな願いが込められています。徐々に認知が広がり、やがて相双エリア全体、さらに宮城県南部へと広がりました。最盛期には発行部数3万5000部に達し、地域の暮らしに根付いた媒体へと成長しました。

帰還できる日を信じ、発行を継続
そんな中、2011年に東日本大震災が発生しました。原発事故により、野口さんは町外への避難を余儀なくされましたが、郡山市にアパートを借りて編集を続け、震災から3か月後に発行を再開しました。また、町内の事務所には創刊以来の貴重な誌面データが残っていましたが、立ち入りができたときにタイベックススーツを着て、ドライバーを1本持って事務所に入り、パソコンからハードディスクだけを取り外し、貴重なデータを持ち帰りました。当時の号はファイルに閉じこまれており、多くの飲食店やフリーペーパーに写る若者たちの姿から、震災前の双葉郡の賑わいが伝わってきます。
その後、野口さんは事務所を郡山市から南相馬市に移して発行を続けました。避難生活は10年以上に及びましたが、野口さんは避難指示はいずれ解除されると信じていました。そして、CREVAおおくまの入居者の公募が出るとすぐに応募。入居が決まり、帰還の準備を進めてきました。そして2025年、CREVAおおくまのオープンに合わせて、再び大熊町に戻ってきました。
「アメリカから大熊に戻ってきて、もうずっと住み続けようと思っていたのですが、震災でまた町を離れることになってしまいました。でも生きているうちにいつか避難が解除になると信じていました。やっぱり、地元に暮らしたくて」と話します。

商工会に若手をつなぎ、実家のお菓子屋さんの味を引き継ぐ
野口さんは現在、大熊町商工会の女性部長と相双地区商工会女性部連絡協議会の会長を務めています。野口さんは移住して事業を立ち上げた女性たちに声をかけ、女性部に引き入れています。若い世代の発想や感覚と、長年大熊でお店を続けてきた人の経験が交わり、新しい企画や協力関係につながることもあるそうです。
そして野口さん自身も実家の菓子店の味を引き継いでいきたいと考えています。震災前、JR大野駅近くにあった「美好野菓子店」。和菓子、洋菓子と様々な菓子を提供しており、粒あんたっぶりの鯛焼きやカスタードクリームが入った人形焼き「パンダ焼き」が人気でした。2025年秋に合ったクマSUNテラスのイベントでは串団子を出店。現在店舗はありませんが、父親から「落雁(らくがん)」などの和菓子作りに使った木型を引き継いでおり、この木型を使って父親がはじめたお菓子の味を守っていけたらと考えています。

最後に、野口さんに移住を考えている方々に向けたメッセージを聞くと、野口さんは次のようにお話されました。
「震災前、『info』でこの地域の人を特集するページがあったのですが、テーマが『スローライフ』でした。震災を経て改めて思いますが、この地域は自分の価値観の中でゆったりと過ごせる場所だと考えています。その暮らしの情報を集めた『info』をぜひ手に取っていただけると嬉しいですね」
