新型コロナウイルスの影響で、職場に出社せずに自宅等の会社外で働く「テレワーク」が急速に広がっています。webサービスを提供するITベンチャーをはじめ、従業員数が数万人の会社でもテレワークが導入され、思いがけずに、テレワークのスタートとなった方も多いはずです。
都内の家具販売店では、自宅での作業スペース確保のために、デスクや椅子、ソファなどの購入が増えているといいます。
テレワーク普及の流れは、コロナ対策の一環で加速していますが、今後も広がり続けていくことが予想されます。
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最大100万円助成も。導入率が50%を超える海外事例も踏まえると、大きく成長する余地あり
テレワークの導入を国も支援しており、3月3日には、厚生労働省がテレワークのために通信機器などを導入した場合、かかった費用の半分を1社100万円まで補助すると発表しています。テレワークを実施した労働者が1人以上いる企業が対象となるため、小中規模の会社でも有効活用されることが期待されます。
もともと政府側も、東京オリンピックの開催に合わせてテレワークの導入を推進してきた背景があります。現在のテレワーク導入企業の割合は13.9%(2017年度調査による)となっていますが、将来的にはおよそ35%の割合まで高めていくという目標を掲げています。
海外に目を転じると、アメリカでの導入企業割合が70%超、イギリスがおよそ50%という事実から考えると、日本においてテレワークが普及する余地はとても大きいと言えるでしょう。
テレワークをきっかけに53%が引っ越しを検討
テレワークの導入は、働き方や暮らし方にどのような影響を与えているのでしょうか。
2019年11月に実施されたテレワークに関するアンケート調査によると、「テレワークをきっかけに引っ越しを実施・検討・希望している人」の割合は53%にのぼることがわかっています。
また同調査で、テレワークが導入された場合、通勤時間が長くなることを許容する割合は、57%となっています。30分〜60分長くなっても許容するという割合がもっとも多く、テレワークの導入が住居を検討する際の立地条件に影響を与えていることがわかります。
引っ越しの際に一般的に重視される項目をみてみると、
第1位: どこにいくにも電車・バス移動が便利(30%)
第2位: 車や交通機関があれば日常のものはひととおり揃う(28%)
第3位: 歩く範囲で日常のものはひととおり揃う(26%)
というように引っ越しの際には、交通利便性や生活利便性を求める割合が高くなっています。
この値を基準にして、テレワークを利用して働く(テレワーカー)層の引っ越しの重視項目と一般的な割合との差分が大きい項目を見てみると、
第1位: 物価が安い(差分12%)
第2位: 住居費が安い(差分11%)
第3位: 防犯対策がしっかりしている(差分7%)
第4位: 徒歩や自転車の移動が快適だ(差分6%)
第5位: 犯罪が少ない(差分6%)
となっており、テレワーカーの場合は、通勤利便性にとらわれずに、生活のしやすさ、安全面などの関心が高まることがわかります。
実際にテレワークをきっけに郊外への引っ越しが増え、生活スタイルの見直しも始まっています。生活の場としての郊外が、働く場になり得ることをテレワークは示したわけです。
4人に1人が地方移住に関心がある中で、身近に検討できる機会の到来
2017年に行われた全国47都道府県に在住する男女5,000人を対象にアンケート調査があります。この調査では、地方移住、二拠点居住の実施意向について、「意向がある」(実行予定がある・関心がある・検討している)割合は、全体の24.8%と、4人1人の割合で移住意向があることがわかりました。
検討している理由を見てみると、
・スローライフを実践したい(30.3%)
・自身の故郷で暮らしたい(28.2%)
・美味しい水や食べ物、空気の中で暮らしたい(26.3%)
これらが上位にのぼり、その次点で趣味を楽しむなどの項目も目立ちます。総じて、ゆっくりした暮らしを求めていることがわかります。
この地方移住に意向がある層に、「地方移住・二拠点居住実行の不安点・課題点」を聞くと、
・働き先が少ない(34.5%)
・買い物など日常生活の快適さ(29.4%)
・賃金が安い(29.3%)
となっており、働き先や給与面での不安があることが明らかになっています。
またそもそも「地方移住・二拠点居住実行の実施意向がない」という場合の理由は、
・今の生活環境を変えたくない(43.5%)
・交通の便が良くなさそう(33.5%)
・場所に親しみがない(26.3%)
が上位項目となっており、1位の「今の生活環境を変えたくない」という中に、生活環境と労働環境の双方が盛り込まれているであろうことが想像できます。地方で暮らす・働くということのイメージのしにくさが、この結果に結びついていると考えられます。
ここまで見てきたように、地方移住を検討する割合は4人に1人にのぼっているが、働き方と暮らし方それぞれで不安な面があるということがわかります。
このような中にあって、「仕事」や「働く環境」ということについては、「テレワーク」が解決の鍵を握る可能性があります。
テレワークを前提とした「職住融合」がキーワード
テレワークの推進により、今後ますます暮らすことと、働くことの距離が近くなる中で注目されるキーワードが「職住融合」です。
この言葉はリクルート住まいカンパニーが2020年のトレンドとして発表し、「テレワークを前提とした家選びや街選びの潮流」を職住融合と表現したことで話題になりました。
実際に職住融合を視野に入れた住居提案が、新築マンションや賃貸物件でも始まっています。それらには、快適なワークスペースが間取りに取り込まれていたり、マンション共有部分にコワーキングスペースのような場を作られたりしています。
上述のアンケートでもわかるように、テレワークが普及することで、住まい=暮らしへの価値観が変わることで、より住みやすく、働きやすい住まいが求められるようになっていくと思われます。
ニーズが高まる郊外から、働きやすい地方への視野拡大を
テレワークの普及は、地方にとっても他人事ではありません。数は少ないながら、完全テレワークの会社に就職したことで、家族での地方移住を実現したという事例もではじめています。
テレワークの普及は、短期的に見れば郊外のベッドタウンを中心とした生活空間が、働ける街になる変化を促すでしょう。住まいの快適さと通勤時間のトレードオフとなっている現状から、暮らしと働く環境をどちらもあきらめないことが選択肢に入ってくるはずです。
長期的に見れば、地方にとっても大きなチャンスになります。地方移住への課題として指摘される「働き先が少ない」ことや、「賃金が安い」といったことが解決される可能性があるからです。テレワークという手段が広がることで、納得のいく賃金で、やりたい仕事をしながら地方で暮らすというワークスタイルが当たり前になるかもしれません。
その際に重要なのは、「職住融合」で快適に働ける環境を準備することでしょう。例えば、高速なインターネット回線の整備や、安心して働けるコワーキングスペースの整備、買い物などの施設の充実、子育てのサポートなどが挙げられます。
合わせて地方においても、テレワークという働き方の認知を進めることは不可欠です。従来の「働き方」とはこういうものであるという認識が、結果的に居心地を悪くさせてしまったり、暮らしづらくさせてしまうということに結びつきかねないからです。
急速なテレワークの普及を背景に、各々が暮らし方や働き方についての考え方を更新しながら、地方からはテレワークを前提とした働きやすさを基本とし、暮らし易さや地域ならではの魅力を訴求していくことが、今後の地方移住において重要な鍵になるはずです。
参考資料:
「職住融合」 テレワークを前提とした家選びや街選びの潮流が!
テレワークの最新動向と総務省の政策展開
平成29年度テレワーク人口実態調査
「ゆっくり暮らしたい」4人に1人が地方移住に関心検討