【和歌山県・移住者インタビュー】龍神村で平飼いの養鶏場をスタート。田舎の小規模農場だからできることや、想像するだけで楽しくなってしまう今後の構想とは。By わかやまキャリアチェンジ応援プロジェクト|2022-05-10T15:09:13+09:002022.05.10|Tags: 地域食材, 起業, ビジネスモデル, キャリアチェンジ, 転職, 移住, 新規事業, 経営, 和歌山県, 平飼い養鶏, 田辺市, 龍神|石﨑 源太郎(いしざき げんたろう)さん、亜矢子(あやこ)さん [大阪府]、[京都府]→[龍神村]和歌山県の中央に位置する田辺市龍神村。昔から林業が盛んで、森林面積は実に95%を占める。村内にはそれぞれのこだわりを感じさせる魅力的なお店や、日本三美人の湯の一つにも数えられる「龍神温泉」がある。そんな龍神村に2017年に移住し、翌年から平飼いの養鶏場「とりとんファーム」を運営している大阪府出身の石﨑源太郎さんと、京都府出身の亜矢子さん。冗談を交えながら気さくに話してくれるお二人に、田舎の小規模農場だからできることや、想像するだけで楽しくなってしまう今後の構想を伺った。龍神村の山間に、平飼いの触れ合える鶏舎豚の背中に鶏が乗ったイラストのロゴ。「とりとん」という可愛らしい響きの名前からもわかるように、龍神村に移住した石﨑さん夫婦は鶏(とり)と豚(とん)の農場をしようと、まず鶏の飼育から開始した。源太郎さん:「養鶏と養豚をやっている前の農場で、僕らは研修生として知り合ったんですよ。 龍神村に妻のご縁があったもので、独立するのであれば龍神村でしようかといって。」亜矢子さん:「たまごをとって毎日売る仕事なので、すぐにお金が入ってくるから最初にスタートするにはちょうどいいんですよ。たとえば牛とかだったら2年も3年もお金にならないんです。お金がない人が始めるのであれば養鶏、特にたまごからやって、ゆくゆくは豚もやりたいねっていう感じです。」周囲に住宅がなく、かつ気軽に農場見学にも来られる場所を3か月ほどかけて探した。ススキや雑草が生い茂る土地を、開墾とはいわないまでも相当な労力をかけて整地。これまでの職場で培った知識や技術を活かして鶏舎も自分たちで建てたという。一言に独立といっても新規で畜産業を始めるのは簡単ではないようだ。一方で、石﨑さんたちの理想の養鶏は田舎だからできるという。源太郎さん:「今思うとね、ほんま天職に就けたなと思うんですよ。これを大阪でやれって言われたらたぶん大問題だと思うんです。まとまった土地がまずないし、住宅街やったら鶏の鳴き声とかでクレームもあるやろうし、田舎やからこういうことができるんでしょうね。」地域の人たちも快く受け入れ、重機を持ち出して整地や鶏舎の建設を手伝ってくれた方もいるそう。源太郎さん:「鶏を飼い始める前に一回だけ漁協さんに呼ばれました。最後は、『まぁ、頑張りや』くらいの感じで帰してくれました(笑)。」亜矢子さん:「当時は養鶏を反対されるんかと思って不安だったんですが、川の汚染を心配されていたみたいで、今はもうすごく仲良しで、猪肉や鹿肉をいただく間柄になりました(笑)。あれくらいかな、ドキッとしたのは。」 源太郎さん:「畜産業界全体で言えるんが、あんまりお客さんの目に見せたがらないと思うんですよね。でも僕は次の世代が畜産に親しめるように、道の端でいいやって思ってるんで。どんどん見てよって。」亜矢子さん:「子供さん連れてちょっと見に来てくれたりするのが嬉しいんですよ。コロナ前の話ですけど、地元の小学生にたまごを拾う体験をしてもらって、それを持ち帰って調理実習ででっかいプリン作ったり。楽しいやんな。」源太郎さん:「そういう触れ合える畜産っていうのを目指していきたいですね。食べ物がどうやってできているのか、食育にも繋がっていくことですし、将来やりたいよっていうのにも繋がったらいいし。もし仮に僕らに子供ができて、その子が継ぎたいってなったときに本当にしっかりと儲けられる農業にしていきたいなって。」鶏に不必要なものは与えたくないという考えや、健康的な農産物を作りたいという思いで餌にもこだわる石﨑さん。遺伝子組み換えをしていないトウモロコシや国産小麦など、毎日約20種類の厳選した素材を混ぜ合わせて発酵飼料を作る。飼料を発酵させることによって消化や吸収、腸内環境を良くし、それがたまごの味にも反映されるという。源太郎さん:「でも、こういうのって小規模だからできるんですよ。大規模だったらそんなに手間もかけられへんし。」亜矢子さん:「それが小さい農業の強みかな。龍神って各お家でお米作りをしているので、もみがらは精米所に行ったらもらえます。こういうのを無料でいただけるのはめっちゃありがたいよね 。」鶏の発酵飼料。少し酸味のある匂いでほかほかと温かい。きらいな町から大好きな町へ。地域の人たちとつくる、三方良しの嬉しい循環。養鶏が軌道に乗り、次は養豚の準備を始めようとする石﨑さんだが、聞けばまだまだ全体構想のほんの一部なのだという。源太郎さん:「養鶏部門っていうのはまだ十分の一くらいなんですよ。鶏やって、豚やって、牛やって、次はマルシェをやって、併設のレストラン、鰻に挑戦、すっぽんに挑戦、アマゴに挑戦……日高川で獲れる水産物をとりあえず全部やろうと。次は、せっかく米が美味いんやったら酒蔵を建てようと思ってるんです。最後に温泉宿をしたいんですよ。美味いもんこしらえて、酒もあって、てなると温泉に入りながらそれらを全部楽しもうやとなるじゃないですか(笑)。龍神って、方々へ出るのに中継地点になるところなんです。昔と比べて道が良くなってるので、有田方面に行くのも便利、みなべとか田辺とか本宮方面も。そういう意味で、面白いもんをこさえていったらみんなが集まる場所になるかなって。それができるのは、たぶん僕らみたいな畜産とか生産者じゃないかなと思っています。」鶏と豚で「とりとん」と名付けてから、大きく広がった構想。そこに至るまでにはどんな変化があったのだろうか?源太郎さん:「最初、めっちゃ嫌いやこんなとこって思ってたんですよ。雨ばっかりやし。そのころは二人でケンカばっかりしやるから、面白ないわここって(笑)。だんだんね、友だちとかが増えていったら好きに変わっていったんですよ。好きになったら、その地域が元気になる方法を考え始めるんですね。それが全体構想に繋がっていったんです。」龍神村で友だちや地域の人との繋がりができていくなかで、良い循環も生まれている。亜矢子さん:「龍神温泉街の一軒で、朝ごはんのたまごかけご飯に使ってくれはって。女将さんがお客さんに説明してあげはるんやろうね、『お気に入りのたまごで』みたいな感じで。そうしたらそのお客さんが『昨日龍神温泉に泊まってね、あのたまごほしいんです』って来てくれて。」源太郎さん:「お互いが良くなるんですよね。お客さんも喜ぶし、女将さんも喜ぶし、僕らも喜ぶし。僕は街の人間やったから、街では常にお金がないと生きていけないんですよ。田舎でもお金は必要やけど、不必要なときとかそんなにお金出さんくて済むときがあるので、あぁ、なんて生きやすいんやって。」規格外などで販売できない野菜を鶏に与え、良いものを食べた鶏の糞を今度は農家さんが肥料にする。そんな農業の循環もできている。取材当日もご近所の農家さんが育ち過ぎたカブを届けてくれた。鶏舎にカブの葉を入れると、鶏たちはたちまち群がって取り合いしながら食べていた。田舎だからできる「馬鹿っぽい面白さ」人口の少ない山間は畜産業には適しているかもしれないが、生活の不便などはないかと尋ねると、「僕らはたまごの配達で町へ出ていくんで、不便なことは特にないなあ。買い物はそのときにしてくるし」と石﨑さんたち。インターネットのおかげで情報に困らないのも大きいという。亜矢子さん:「20年前に移住しはった人らと、我々とでは全然ちゃうやろうな。そんなん思ったらめっちゃ快適です。歳とって免許返上せんとあかんようになったら大変かもしれんな。」源太郎さん:「そのときはね、僕は馬に乗ってる。馬もね、将来的に乗馬用のやつやる予定なんですよ。牛をやりだしたら、牛車でのんびり龍神村を観光しましょうよって。モ~いいながら(笑)。そういう馬鹿っぽい面白さって田舎だから体現できることなんですよね。田舎を楽しむっていうことを実現していこうかなと思っています。」鶏の飼育方法から始まり、畜産を通じた食育や元気な地域への全体構想まで、「この方がいい」と思うことを一つひとつ形にしていこうとするお二人。肩ひじ張らず、面白がって取り組む様子が印象的だった。お土産にたまごをいただいた。農場見学に訪れる人のなかには、食べるのはかわいそうだと言う人もいるというが、たしかに実際に見た鶏の卵だと思うとそこに命を感じずにはいられない。その上で「それを自分らが糧とし、それで自分らの身体ができあがっていくので、かわいそうより『美味しかったわ、ありがとう』の方が、私らは言うてもらったら嬉しいですよね。」という亜矢子さんの言葉を思い出す。普段より感謝を込めて両手を合わせ、卵を割ってみた。お伺いした通りのレモン色の黄身と、卵特有の生臭さのない優しい味わい。白ごはんにかけて美味しくいただいた。とりとんファーム>>しごとを体験してみる<<FacebookTwitterPinterest電子メール