近藤 真功(こんどう まさのり)さん
[大阪府]→[和歌山県・有田川町]大阪府阿倍野出身。結婚を機に、17年前に有田川町清水地区に奥様と移住。有田川町での就職先を探していた際に行政から紹介を受けた、和歌山県の「緑の雇用」制度を活用して林業を学び、清水森林組合で働いている。
筋道立てて考えた上で、直感で決める
若い時から漠然と田舎に住みたいという想いがあったという近藤さん。結婚を機に本格的に移住を検討し始めた。
「これから子どもができて、大阪で過ごすのはちょっと。広い家に住みたいと思ってたんですけど、大阪で僕の思ってるような広い家に住もうと思ったら、とてもやないけどそんなお金もないし。そうかと思ってマンションに住むのも嫌やし。そういうことなら、こういう田舎の地域に住むのが理想やなと思いました」。
ご夫婦の出身地である大阪へ日帰りで帰れる距離のエリアで移住先を探し、ドライブで訪れた清水地域を気に入ったそう。
「あれこれ考えるのが苦手なんよ。直感タイプです。大阪から近いところなんていくらでもあるはずやけど、それ見だしたらキリがない。いつまで経っても決まらん。ただ決断するには、それまでに色々筋道立てて考えることも大事だと思う。その上での直感です。そして一度決めたらそこと徹底的に詰めて話をする。何を決める時もそうです」。
近藤さんは何度も清水地域へ通い、ここで実際に暮らしていくには仕事などどうしたらいいのか役場に相談したそう。そこで紹介されたのが、県が行っていた「緑の雇用」制度だった。この制度は、林業の職業訓練学校のようなものである。近藤さんが、「和歌山県はこうした研修制度を積極的に行っている」と言うように、和歌山県では農業や林業の担い手の育成にも力を入れている。
「移住するということは何かの職業につくということとセットです。林業がしたいがために田舎へ行く、都会での人付き合いの生活が疲れたから田舎へ行く、という風にどちらか一方を目的に移住するのはやめた方がいいと思います。田舎での仕事というのは地域密着型。林業の仕事と同じくらいのボリュームで、地域の行事ごとをしています。お金にはならなくても、とても大事なことなんです。地域の行事は、地元の人とのコミュニケーションの場でもあります。林業の場合は特に、地域の方がお客さんのことが多いので、そういう行事を疎かにすると、お客さんとの信頼関係が築けなかったりする。だから林業がしたいだけで移住すると、うまくいかないこともあるんです。逆に、都会での人間関係に疲れて田舎へ移住するというのは、田舎の方が人付き合いは大変ですからね(笑)」。
近藤さん流の移住の心得を教えていただいた。
100年後の未来を考える、やりがいのある林業の仕事
清水森林組合に入って最初の10年は山へ行って木を伐るなどの現場仕事を担当した。移住前に就いていた旅行関係の仕事とは異なり、朝も早く、肉体的にもハードなイメージがある林業の仕事だが、大変ではなかったのか。
「当時のことはそこまで覚えていないけれど、そんなに大変とは思わなかった。覚悟もしていた。それに、幼い頃から山が好きでよく遊びに行っていたし、高校・大学と山岳部に所属していたのもあって、人よりは山登りも得意な方。何かと山には縁があったんやろなと自分でも思ってます」。
近藤さんは今、山にどんな木を植えるべきかや、木を伐った方が良いなど、山の計画を立てて山主さんに提案したり、県に補助金の申請をする仕事をメインに行っている。
「この仕事の難しいところは、自然相手の仕事なので、なかなか計画通りにいかないこと。でもそこを計画通りにいくように舵取りしなければいけないんです。基本的に山の管理は県の予算で行います。山主さんが希望することをできる限り予算内で実現できる計画を立てるのは難しくもありますが、やりがいを感じています。ただ提案した計画の結果は、木が相手なので80年、100年後にわかるんですよね。100年後の人によかったと思ってもらえるような計画を立てる。スケールが大きな仕事なんです。
計画を立てる上で重視しているのは、どのエリアにどの種類の木を植えるかという『ゾーニング』です。100年後にも杉・ヒノキの需要があることを見込んで、杉・ヒノキを植えるエリアを決める。人が入らなくなりそうなエリアには野生動物の餌になる広葉樹を植える計画を立てる。山だけでなく周辺地域の都市計画や、今の生活環境を考慮し、これから山をどう活かしていくか未来を考えて計画を立てています」。
近藤さんのお話を聞いて、林業という仕事の責任の重大さを改めて感じた。
条件を絞って探し、出会えた理想の家
近藤さんは移住当初、移住者向けの住宅に5〜6年住んでいた。その間に色んな人に相談しながら物件を探し、今住んでいる古民家を見つけた。
物件探しをする上で近藤さんは、「大阪の実家から今よりも遠くならない場所」「ある程度人里から離れているけれど、国道に近いアクセスの良い場所」「ボロボロすぎない、しっかりした造りの家」など、条件を明確にして物件を絞り込んだ。そして今の古民家に辿り着き、子どもがすごく気に入ったことが決め手で物件を購入した。
「来てすぐに家を買うのはあまりおすすめしない。一度買ったものは引き下げることができない。周りにどんな人が住んでいるか、その地域にはどんな風習があるかなど、時間をかけて調べて物件を探す方がいい」と近藤さんは物件探しのアドバイスをしてくださった。
古民家に住むにもなかなかの覚悟が要ると近藤さんは話す。まずは家のメンテナンス。住むには困らない程度でも、こまめに直していかなければならない箇所が多いそう。
「DIYも全然得意じゃない。基本めんどくさがりだから。やりだしたら面白いから嫌いじゃないんだけど」と近藤さんは前向きに取り組んでいる。
「空き家期間が長かったため、アナグマが床下に侵入したり、敷地内にイノシシが入ってきて土を掘り返したり。長い目でゆっくり整えていける人じゃないと古民家暮らしは難しいんじゃないかと思う。大変だけど、それでも住む価値はあると思う。妻は庭のお茶や植物を気に入っているし、子どもたちも走り回れる広さがある。子どもの友達もよく遊びに来てくれる」と、古民家暮らしの良さと大変さの両方の側面を率直に語ってくれた。
「ゆくゆくは畑をしたり、裏山の木でログハウスを作ったり、アスレチックエリアを作ったりしたいな」。
近藤さんの家の前の丘から見渡せる広大な山々のように、近藤さんの暮らしの夢は広がっている。