小竹 雄一朗(こたけ ゆういちろう)さん
[佐賀県]→[和歌山県 田辺市]佐賀県出身。フリーランスの「旅理人」。高校時代から料理人を志し、18歳で京都の和食料理店へ就職。食の世界へ入っていく。フリーに転身後はカンボジアでお弁当を作る企画をプロデュースしたり、スペインのレストランで新たなジャンルの料理を学んだりと、国際的にも活動している。
旅理人として
小竹さんからいただいた名刺に「旅理人」という肩書きが書かれていた。なるほど、フリーランスの料理人だから、旅する料理人ということか。と、早とちりしたが、そうではないと説明してくれた。「料理は旅に似ている。」京都の嵐山吉兆で働いていた小竹さんは、そこへやってくる人々を思いながら、なぜこの人たちは決して安くないお金を払ってまで来るのかを考えていた。一つの答えが、旅だった。
料理を通して産地を旅する。四季を旅する。そのような感覚があるのではないだろうか。比喩的な話だけではない。実際、小竹さん自身は東南アジアやモンゴル、ヨーロッパなど各地を旅して周り、自身の料理につながる経験を積んできた。
料理人として地域をみることで、新たな発見がある。新たな発見から料理を思考することで、料理から地域が見えてくる。小竹さんのお話はまさにそんな感覚を与えてくれるものだった。
嵐山吉兆で10年間勤めた後に、フリーランスの料理人となった小竹さんは、知人の紹介がきっかけで、田辺市で料理のイベントを開催することになる。地域の生産者を周り、食材や生産者を知った上で一夜限りのディナーを提供するという内容で、イベントまでに数回、田辺を訪れ、下見して回った。
「和歌山は生産者が近く、おもしろい人も多い。あとは食材のポテンシャルが高いと感じましたね。特に柑橘や和歌山の地場でしか出回らない食材っていうのは、珍しいっていうのもあるけど、それなりに価値があるし。番茶を使った茶粥文化も面白いと感じました。」
この時のイベントがきっかけで、定期的に田辺に通うようになる。四季を変えては田辺に通い、柑橘や梅など、いろんな生産者を回ったりした。
田辺にくるきっかけになったのは料理のイベントだが、移住を決めたのは結婚がきっかけだ。初めて開催した田辺での料理イベントで知り合った田辺市出身の女性と昨年春にご結婚され、小竹さんが田辺に移住して来ることになった。
“外からきた人間”としての目線を大切にしたい
「知らないことも多いということもあるけど、発見が多くて楽しい。植物一つとっても、紀南にしか育たないものがあったり、海も見渡せるし、山に行けば巡礼の道などもあり、古い息遣いが聞こえてくるような良さがある。料理って文化とかそこの風土に根付くものなんで、文化がしっかりあるというのは魅力的ですね。和歌山には味噌も醤油も鰹節も、備長炭もある。全部揃ってるやんっていう感じです。いろんなものが手に入るし、実際に見れるし、自然な流れで楽しめますね。」
田辺に移住後も料理をベースに活動している。コロナ禍ということもあり、なかなか思うように活動できないと感じつつも、zoom料理教室をしたり、商品開発や、調味料開発のプロデュースをしたり、料理のイベントを開催したりと、活動の幅は広い。
料理人としての田辺暮らしの中では、新しくインプットできることがたくさんあるという面白さがある。
「和歌山でしか見れない自然のものなんかを見つけた時は、興奮しますね。あくまでも外からきた人の目線で、何ができるのかというところは考えています。
全く新しいものを他所から持ってくるんじゃなくて、今田辺にあるものの中から新しいカタチを提案していけるような料理をしたいと思ってます。
例えば、ジビエ猟師さんから猪の食性を伺って、猪の食べているものと、料理とを合わせていくような、地域の文化や手に入る食材とのストーリー性のあるものを考えていくことはすごく楽しい。」
ちょっとした出来事が心地よい発見を与えてくれる
休みの日は料理仲間と生産者のところへ出かけることもある。移住してまだ間もないが、料理でつながった仲間がいろんなご縁をつないでくれている。
季節が変われば店頭に並ぶものも違う。普段の何気ない買い物でも、新しい発見があったりする。散歩に出かけたり、海に行ったりすることも、ちょっとした息抜きや遊びでもありながら、そこでの発見が料理へのインスピレーションにつながる。自然を楽しみ、まるで遊びながら仕事をしているような感覚だ。
「移住に向けて大切なことってなんだと思いますか?」と尋ねると、「一番は行動に移すことかと思います。考えすぎて動けなくなることってよくあるし、動けない段階で正解・不正解を考えたって、それは正解でも不正解でもないので、結局動くことが一番大事だと思います。」と答えてくれた。気持ちの動く方へ、とりあえず行動してみる。これまでの小竹さんのお話からもその大切さが伝わってくる。
さらにこう続けてくれた。
「まずは住んでみるというのもいいと思う。住んでみたからって、ずっとそこに住み続けないといけないわけじゃない。住んでみて気づくことっていうのはたくさんあるし、そういった新しい発見っていうのも心地よく感じれるといいと思う。」
まずは踏み込んでみること。そこから見えてくる、自らの目で見た実際こそが何よりの判断材料なのだろう。
「この地域にあるものから、料理を通してもっと新しい価値を生み出していきたいと思います。普段なら見落とされるようなものをしっかり見つめて、料理にしていきたい。」
小竹さんの料理を通して、まるで和歌山を旅しているような味わいを体験できる日が少しでも早く、より多くの人に訪れて欲しい。そう願うばかりだ。