「鳥取は地方を変えていける!」この言葉に心を揺さぶられた今回のインタビュー。

お話を伺ったのは、2020年5月鳥取砂丘前にプリン専門店をオープン、その後も鳥取ならではの魅力的な店舗を展開し続ける株式会社OMOI代表の川村諒志(かわむらりょうじ)さんです。

鳥取砂丘の砂に見立てた自家製の粉末カラメルが特徴の「砂プリン」は、地元はもちろん、鳥取を訪れた人たちのお土産品やお取り寄せグルメとしても話題の新名物になっています。

どんな質問にも淀みなく答えてくださる川村さんの鳥取で起業することとなった経緯、現在のお仕事、鳥取での暮らし、地方への思いなどについてご紹介していきたいと思います。

これから移住や起業(移住先での仕事)について検討されている方に少しでも参考になれば幸いです。

 

はじめに

愛知県名古屋市出身の川村さん。大阪の大学に進み学業の傍ら数々のアルバイトをしたり、好きなスポーツのサークルを転々としたり、ごく当たり前の学生生活を楽しまれていたという印象です。

ご本人曰く大きな転機となったのは、大学3年生のときに本を読むことにハマり始めたことから。図書館にこもり1年間で1000冊読むという驚きのエピソード!

1000冊の内容は経営から自然科学などさまざまなジャンルに及んでいたそうですが、特に関心があったのは「人って何だろう」というところで、自身の生き方を含めどういうものがいいのか生きる姿勢を探すことがテーマにあったとおっしゃいます。

 

というのも当時、本を読み始めたのは自分自身やその環境に納得していなかったことから変わるきっかけを求めて。

「5人の法則」*から、好きな経営者やリーダーの著書をたくさん読むことで思考だけでも変化させることができるのではないかと考えたそうです。

興味深かったのは川村さんの本の読み方。
頭の中に本の内容を染み込ませるという方法で、その頃よく読んでいた日本を代表する経営者・リーダーの著書の内容を明確に記憶するというよりは、著者のエッセンスを当たり前のように取り込むといった感じでしょうか。

多くの本を読んだからこそできる術かもしれませんね。

そういった本を読む中で経営コンサルティングという仕事があることを知ります。同時に情熱を燃やして働けるものを模索する中であらゆる業種のインターンを経験し、もっとも自分のテーマに合うのはコンサルティングの仕事だと思い、大学卒業後は経営コンサルティング会社に入社。

次にコンサルティング会社入社から鳥取での起業に至るまでの経緯についてご紹介していきます。

*アメリカの起業家ジムローンの「あなたの周りの5人の平均があなたである」という言葉から

鳥取での起業に至るまで

先に述べたコンサルティングの仕事を選んだ川村さんの持つテーマへとつながっていったのは、『いつかは地方で働きたい』という思いが始まりです。

少し遡るのですが、高校の頃から自然に触れることが好きで地方への憧れがあった川村さんは、働くことが間近になった就職活動中に改めて「働く」ということを考えたとき、「楽しく働きたい」という気持ちの中に『地方で働きたい』という思いがあったといいます。

地方で働くならば自分で起業するのかなと思い描く中で、自分はトップのタイプではなく、そういう人たちをサポートする方が向いていると感じておられたそう。
そこで地方の頑張っている企業を手助けすることをテーマにコンサルティングの仕事に就かれました。

コンサルティング会社入社後、月の半分以上は地方を飛び回る日々。
コンサルとしての仕事の素晴らしさを実感する反面、このままの仕事の延長線上で地方の課題を解決していくというのが次第に感じづらくなったそう。

そこでその感覚を味わうためには自分でやる必要があると、このとき川村さんの頭の中で起業が明確になったとおっしゃいます。

なぜ鳥取で?

約4年間のサラリーマン時代を終え、いざ独立。
起業するにあたり川村さんの次なるテーマは前職からのつながりでもある「観光と食」。
やるならば好きな地域で、といくつかの候補を挙げます。

コンサル時代にほぼ全国を回った中で、自分がやる意味を考え最終的な決め手になったのは人口がいちばん少なく、当時調べた中で起業する人がいちばん少なかった鳥取でした。

このようなチャンスを感じる鳥取でやろうと決めたとき、これまでのもやもやしていた気持ちが晴れたといいます。

まずはお店の場所探しから

鳥取での起業を決めてから川村さんがまず最初に行ったことは、出店場所を探すところから。
お店をやりたいという思いから住む場所よりもお店を出す場所を探すため鳥取へ。

当時鳥取の知り合いが誰もいない中で、砂丘を訪れ空いている店舗を見つけ大家さんに直接交渉したのが、現在のプリン専門店『Totto PURIN(トットプリン)』の場所です。

鳥取の旬のフルーツを使った季節のフルーツプリン

その際、店舗の大家さんを紹介してくださった隣のお土産屋さんの店長さんとはその後も温かいご縁が続いたそうです。

起業内容を資料にまとめ移住することも伝えた上で、川村さん曰く「大家さんに本気度が伝わったのではないかと思う」という起業の最初の一歩。

制度や枠組みが全くない中でのこの実現性に驚くばかりです!
そして県や市、鳥取で活躍している人たちとつながっていったのもこの後から。

さらに出店に伴い、事業計画書を50枚ほど作成し銀行に提出。「こんなに用意されたことはない」という銀行の反応と、ここからがまた川村さんならでは!

自分のやりたいことを説明するプレゼンテーションは2時間にも及び、回数を重ねるごとに銀行側の参加者が増えていったのだとか!!

コンサル時代に培われたスキルと、川村さんのやわらかい口調から語られる成功のストーリーに周りの皆さんが引き込まれていくのがわかるようです。

鳥取での起業の懸念点とは

川村さんの場合、鳥取での起業についてここまではメリットが多いように感じます。
実際、移住に対しても温かく迎え入れてくれる雰囲気があり、起業についても応援してくれる人が多いとおっしゃいます。

強いて挙げるならばと川村さんに答えていただいた鳥取で起業する上での懸念点とは…

何をするにしてもすぐに始められてしまう反面、きちんと考えて始めないと後々問題が生じやすい可能性があるということ。

周りでやっている人が少ない、また先にも書いたように起業を後押ししてくれる人たちがいる鳥取では新しいことを始めやすい…もちろんこれは良い面でもあるのですが、例えば事業を起こす場合、人口やその地域の人たちに左右されることがあるため、事業を拡大していったり人を雇ったりするという面では、鳥取は難しい条件が揃った場所なのかなとおっしゃいます。

現在の仕事、課題、今後のこと

現在、鳥取砂丘の目の前にプリン専門店『Totto PURIN』、その隣に大山の氷を使用したかき氷専門店『さんかく氷』(冬は生チョコ専門店『さんかくショコラ』)、そのほかにも鳥取駅前にエステのお店を2店舗運営・プロデュースされています。

2021年5月にオープンした「さんかく氷」

 

大山の雪解け水でできた氷を使用

鳥取では店舗事業が中心で、それ以外では全国にクライアントさんを持つコンサルタントの顔も。

やりたいことがまだまだたくさんある中で、それが実現できる資源が足りていないというのが今感じている課題なのだそう。

ですが、タイミングを合わせることと無理に急いでやらないようにしようというのが川村さん流。

今後さまざまジャンルで事業を展開していく中で、やはり川村さんのやりたいテーマは「観光」です。

横に長い鳥取県の観光の難しさは1つの拠点で終わらないところだとおっしゃいます。
鳥取を訪れた人たちの足取りを線としてつなげていくために、拠点を複数に置きたいという考えがあるそうです。

そこですでに決まっている事業としては、三朝温泉エリアでのヨーグルト専門店オープン(2022年11月頃予定)と、キャンピングカーでのホテル事業(来春予定)があります。後者はキャンピングカーを貸し出して鳥取県を旅することができるまさに鳥取の観光を線で結ぶサービスですね。

またもともと美容系にも興味があり、現在エステのお店を経営されていますが美容品の開発にも意欲的です。

美容の成分となる水やそのほかの資源が地方には豊富にあり、まだまだ地方発のブランドは少ないといいます。

「大都市などの〇〇発のブランドより鳥取発のブランドの方がいいよねという逆転の発想によって作られる世界観」
これはプリンやかき氷など、食べものでも同様なのだそうです。

このように世界観が作れそうだなと思ったときに川村さんの事業は始まります。

 

株式会社OMOIの役割

さまざまな事業を展開している川村さんの会社には現在社員さんは8〜10名(新規事業も含む)、そのうち地元の方が6〜7割、移住・Uターンの方が3〜4割なのだそうです。

事業を拡大するにつれて、鳥取の人口が増えていきますね!

というのも川村さんの仕事をする上でのテーマの一つに「移住の人と一緒に事業を行っていく」というのがあります。

 

ご自身も鳥取に移住して来られているので悩みがあれば一緒に解決していけると、そのような意味でも、株式会社OMOIは移住してきた人を受け入れやすい会社なのではと考えておられます。

続けて「自分の会社の役割は鳥取に移住する人を増やす」ということをもっと積極的にした方がいいかなと真っ直ぐにおっしゃる姿が控えめながらも心強く、思わず感嘆のため息が漏れるのでした。

 

コロナ禍でのプリン専門店オープン、当時と今の心境

またまた少し遡るのですが、川村さんが鳥取に来て最初に立ち上げた鳥取砂丘前のプリン専門店「Totto PURIN」は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い緊急事態宣言が出された直後にオープン予定でした。
オープンは延期になり、もやもやする日々。

コンサル時代に携わった店舗はほぼオープン初日に行列ができるロケットスタートが当たり前だったのに、まさか自分のお店でロケットスタートできないなんて…

鳥取でも人気の観光地である鳥取砂丘は、そのころ地元の人たちから危険な場所のようにも思われていました。

そこで何かを始めるというのは一見すると危ない面もあり、鳥取の観光を盛り上げるため良かれと思って立ち上げたお店が鳥取の人からも受け入れてもらえないかもしれないと、当時タイミングとして悩み、ギリギリの状態だったといいます。

「Totto PURIN」 店内にて

ですが、今ではこのタイミングでむしろ良かったとおっしゃいます。
当時はお店に訪れるのは地元や鳥取県内の人たちでそこから口コミで広がっていき、川村さん曰く「いちばん鳥取の人に知ってもらいやすいタイミングで始められた」とのこと。

川村さん自身がお店に立ち、お客様ときちんと向き合える経験ができたことが良いスタートに。

もちろんコロナが原因でスピード感や売り上げについては自分が思い描いていたものではなかったけれど、プラスに捉えることの方が多いようです。

鳥取での暮らし、お気に入りの場所

移住してからの鳥取での暮らしが、移住前と特に変わらないことに逆に衝撃を受けたそう。あえて言うならば電車に乗らなくなったということなのだとか!

休みの日は何もしないで過ごすことはないそうで、時には1時間ほど車を走らせ大山へ行ったり、元気をもらいに若桜でトンカツ専門店を営むご夫婦に会いに行ったり。

実は川好きという川村さんは、休日は良い川を探す川沿いドライブを楽しんでおられます。
鳥取でおすすめの川は三徳川。

まだまだお気に入りの川探索は続いているそうです。

また夜の砂丘もリフレッシュ場所の一つ。

砂の上に寝転がって気分を一新したり、少し疲れてくるとスキマ時間に浦富海岸の辺りへ行ってみたり。

ここでしか味わえない景色や空気が鳥取にはありますよね。

もともと父親の影響で自然が好きだったとおっしゃる川村さんの今の環境は、名古屋にお住いのお父様も羨ましがっておられるそう。

ふとしたときに自然環境があるのは川村さんにとってストレスフリーな暮らしのようです。

さいごに

全国を飛び回る中で川村さんの鳥取での事業展開はほかの地域からも関心を向けられています。

これに対して川村さんは「鳥取でできることはほかの地域でもできる」と思い、鳥取はほかの地域の方が「鳥取でできるなら…」と同じ感覚で新しいことを始めやすい場所なのではないかと考えておられます。

そのような意味で、鳥取は地方を変えていくいちばん最初に取り組む場所として最適だとおっしゃいます。

起業してからさまざまなことにチャレンジし、人知れず失敗もしてきたとおっしゃる川村さん。基本的にポジティブであるのと次は同じ失敗をしないという思いがあるといいます。

周りの人に納得してもらうためリスクをビジョンで説明していく。自分の強みを知って柔軟に挑み続ける。そんな川村さんの描くリアリティーのある未来を見てみたいと共感者が増えていることに大いに納得です。

未来の鳥取を語る川村さんに大きな刺激を受けた今回のインタビューでした!

この記事を書いた人

吉井秀三

鳥取市鹿野町在住。東京で20年間IT関係の会社を経て、鳥取にUターン。 鳥取の魅力的な働き方ができる会社や、面白い働き方をしている個人の情報を発信していきます。

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