日本の伝統工芸品を、背景にある世界観とともに動画で表現し販売するニューワールド株式会社。ブランディングとマーケティングを担うことで、各地の伝統工芸産地が直面している後継者問題にも一石を投じようと、仲間とともに奮闘する井手康博社長は、どのような経緯でこの事業での起業に至ったのか。高速でPDCAをまわす行動力がどのような結果を生むのか、スタートアップのヒントにあふれたヒストリーをお届けする。
この記事の目次
記事のポイント
- 留学中に始めた商品紹介のブログがビジネスのはじまり
- モノ作りの工程や職人のこだわりを動画配信し、日本の技術をグローバルブランド化する
- 地域にしかない価値を発信することで「人の移動」を創出する
起業は小さい頃から決めていた夢
―起業したきっかけについて教えてください。
僕の父親や祖父、叔父はそれぞれ事業を営む経営者でした。その環境を当たり前に育ったので、小さい頃から「将来は自分で会社を作りたい」と思っていたんです。高校に進学すると、現在の創業パートナーと出会い、「一緒に事業を始めよう」と何をするのか模索するようになりました。
その後、中国語を学ぶために、京都外国語大学に進学。上海や大連にアルバイトをしに行きながらも、地元・福岡にいるパートナーとスカイプでの相談は続けていました。事業計画をいくつも書いては白紙に戻し、良さそうなアイデアが生まれたら、リサーチや営業活動を実施。
ただ、営業の仕方が分からなかったので、父にアドバイスを求めると、「選挙の応援をしてみろ」と一言。「選挙?」と思いながらもパートナーと一緒にチラシ配りを始めたのですが、これが本当に大変で(笑)。チラシ一枚を受け取ってもらえない経験を通して営業の基本を学べたのは糧になったと思います。
―その後、どういった思考から現在の事業アイデアが生まれたのでしょうか。
中国に住んでいたときに、日本語が恋しくなって日本のテレビをよく見るようになったんです。そのとき、芸能人やモデルが着ている洋服やアクセサリーを欲しいなと思っても、インターネット上に情報がないことに気が付きました。
そこで、その情報を紹介するブログを始めることに。すると、2カ月で約1万人の読者がつき、流通額は月間約200万円になったのです。
「アパレル企業等に衣装協力情報をもらえば、この事業で起業できるかもしれない」と思い、帰国。半年かけて準備をして、2013年に福岡で起業しました。
人の縁に恵まれた、福岡市での起業
―福岡で起業するにあたって、良かった点はありますか?
たくさんあります。起業してビジネスの場に出てみると、創業支援の方とたくさん出会うようになり、ビジネスコンテストに誘われたり、イベント登壇のお話をもらったりするようになりました。
それに、福岡市には起業の準備や相談ができる「スタートアップカフェ」があり、曜日別で常駐している税理士さんや弁理士さんなどに、無料で相談できました。会社の作り方も分からない状態だったので、本当に助かりましたね。
ビジネスの最先端にいるような経営者やスタートアップの起業家、大学の教授、有識者と呼ばれるような人たちと、どんどんつながれたのも、福岡市がコンパクトシティだからでしょう。
そうした人の縁をつなぎながら、起業当時はビジネスコンテストに出まくっていました。プレゼン後の審査員からの鋭い質問に受け答えしながら、事業プランをブラッシュアップしていましたね。福岡市は、そういったピッチする場がとても多かったのも、僕らにとっては大きなメリットでした。
インターネット×動画コンテンツ×伝統工芸品
―その後、最初のアイデアから現在の事業に変わるまで、どのような経緯がありましたか?
最初は、テレビで見た洋服の情報がインターネットで分かるサービスを展開していました。開始2年後には月間ユーザーが8万人を超えたのですが、問題が発生したため、事業を見直すことに。
インターネット×ファッション領域で模索していたのですが、業界もゼロから見直し、辿り着いたのは、インターネット×日本のモノ作りでした。「ECで売れにくいモノに動画コンテンツを掛け合わせたとき、どの領域に変化が起こるのか」を、とにかく全領域で洗い出して考え、職人がつくる伝統工芸品に着目したのです。
伝統工芸品の良さや、価格の意味は写真だけでは伝わりません。だからどうしても、百貨店やリアル店舗など、オフラインで手に取ってもらって販売する手法がメインだったのだと思います。
だけど、動画ならモノ作りの工程や、職人さんのこだわりなどをストーリーにして消費者に訴求できるかもしれない。僕らは最初から海外でのビジネス展開を視野に入れていたので、動画コンテンツをインターネットで配信できたら、メイド・イン・ジャパンの高い技術を広められると思いました。
そうして、日本各地を訪れて探し出した伝統工芸品と、そのストーリーを伝える動画をセットにして届けるネットショップ「CRAFT STORE」を作ることを決めました。2016年のことです。
ネットショップ「CRAFT STORE」
―CRAFT STOREで目指す世界観について教えてください。
目指しているのは、日本のモノづくり技術をブランド化するリーディングカンパニーになることです。
ベンチマークにしているのは、ファッションや宝飾品のブランドを保有する、業界大手企業体のLVMHやケリング。さまざまなブランドを買収して価格帯を下げずにグローバルで販売し、ヨーロッパの産地にお金や人が流れる仕組みを作っている企業です。
日本の伝統工芸産業で、後継者問題や生産量問題が深刻化している理由は、こうした仕組みがないからだと思うのです。だから僕らが、日本のモノ作り技術をブランドに変えてグローバル市場で販売する存在になりたい。
世界に通用する商品を職人さんやメーカーさんと一緒に作り、お金と人が産地に流入する仕組みを作りたいと考えています。
地域にどっぷり浸かり、継続した取り組みを
―実際に地方と関わっている井手さんから見て、地方創生はどうあるべきと考えますか?
全国各地で地方創生の取り組みはたくさん行われていますが、一過性のもので終わってしまっているケースはとても多いと思います。そうではなく、地域にどっぷり浸かり、継続した取り組みをすべきと考えています。
問題は、地方にしかない価値を、きちんと届けられていないこと。その価値に共感する人は世界中にいるはずなので、日本だけでなく世界に対して情報を発信し、「人の移動」を創出することが、とても重要ではないでしょうか。
今CRAFTには、作る人、マーケティングをする人、売る人という地域を越えたチームが出来はじめています。この人間関係はアナログでしか築けません。電話やメール、チャットで簡単にコミュニケーションが取れる時代ですが、地域を本当に活性化させるには、1社1社へ頻繁に会いに行き、関係性を築くことがとても大切。
僕らも創業以来ずっと産地に足しげく通い、話を聞き、現地の人は気付いていない魅力をすくい上げ、それを磨いて発信し続けています。
その発信により、「人の移動」、すなわち伝統工芸の産地に訪れる外国人観光客や、技術を学びたい人が増えたら、グローバルの価値観を掛け合わせることができます。すると、世界で求められているモノを作れるようになり、商品の流通量が増え、地域にお金が循環するはず。
メイド・イン・ジャパンのブランドを海外で広く浸透させる会社になるまで、僕らは走り続けます。
●ニューワールド株式会社 [Neworld,Inc.]
- 代表取締役 : 井手 康博
- 所 在 地 : 東京都世田谷区桜新町2-16-13
- 電 話 : 03-4405-3058
- 設 立 : 2013年11月
- 従業員数 : 7名
- 資 本 金 : 2,700万円
- コーポレートサイト
- CRAFT STORE
取材・文:田村朋美