今回インタビューしたのは、Pizza製作所ziziのオーナー 湊 匠(みなと たくみ)さん。富良野市内の住宅街でピッツァ専門店を営んでいます。2015年に創業、2018年には厳格な審査に合格し、世界で734番目の真のナポリピッツァ協会認定店となりました。
ふるさと納税には、今年11月から富良野産食材をふんだんに使用した4種の冷凍ピッツァを出品。商品説明欄に収まりきらなかったというピッツァの誕生秘話やお店が大切にしていることからは、随所に真のナポリピッツァ協会認定店としてのプライドがみられました。
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機械メンテナンスの仕事から一転、乳製品のプロへ
ー ご出身は道東の北見市とのことですが、どういった経緯で富良野市にいらしたんですか?
「富良野市に住むきっかけは転職でした。もともと厨房機器メーカーでメンテナンスの仕事をしており、転勤で富良野エリアの担当になりました。
富良野市内にある富良野チーズ工房によくお邪魔していたところ、『うちで働かないか』とお誘いをいただき富良野チーズ工房に転職。チーズやジェラートなどの製造に携わりました。」
ー 転職後、ピッツァづくりの道に進むまでにはどんな背景があったのでしょうか?
「転職から数年後、富良野チーズ工房でナポリピッツァを提供するピッツァ工房を立ち上げることになり、私は立ち上げメンバーとしてモッツァレラチーズとナポリピッツァの勉強のため、3回にわたりイタリア修業へ行きました。
無事にピッツァ工房がオープンし、その後チーズ製造へ戻ったのですが、ピッツァづくりの楽しさが忘れられず独立を決意しました。
家族の反対を押し切り52歳で早期退職し、イタリア・イスキア島にある超有名店『Pizzeria da Gaetano』で、神の手を持つ巨匠と呼ばれ、多くの有名ピッツァ職人を指導された師匠 Gaetano(ガエターノ)のもとで40日間の研修を行いました。研修中は毎日200~300枚のピッツァを焼き、夜中の1時2時まで営業するとてもハードな環境で勉強させていただきました。」
大好きになった富良野から離れられないもう一つの理由は、根強いリピーター
ー 研修から帰国後して間もなく独立し、最初はフラノマルシェ2にお店があったそうですね。現在のご自宅に移転されたきっかけを教えてください。
「当時のフラノマルシェの営業時間は、9時〜19時でした。朝からピッツァを食べようと思う人は少ないし、ディナーにしては閉店時間が早く、テイクアウトのみの営業だったので、『ziziの業態とマルシェの業態は合わないのでは』と感じ、移転してイートイン主体の業態に変更しようと考えました。
その後富良野市内の物件を探し回ったのですが、2トンもある窯を置ける造りの建物が少なく、良い物件がなかなか見つかりませんでした。
そこで自宅の一部を増築する前提で窯や大きな冷蔵庫などを図面上に当てはめていくと、なんとか収まることがわかりました。
自宅の立地が駅裏の住宅街だったことから、移転してもお客さんが来てくれるのかとても不安で悩みましたが、『みんなと同じことをしてもダメだから、真逆を行こう!』という妻の一言で、自宅改装に舵を切ることにしました。」
ー 移転先の選択肢に、富良野市よりも人口の多い地元北見市や旭川市はなかったのでしょうか?
「富良野を出る選択肢は全くありませんでしたね。
私は富良野市が舞台になったドラマ「北の国から」の大ファンなんです。私が16歳の時に放映されたのですが、感動のあまり北見からバイクでロケ地巡りに来たほどです。その後もご縁があって仕事で富良野に来ることが増え、転職をきっかけに富良野市に住み始めてからは地元の農家さんや酪農家さんと話す機会が増えて、富良野の農畜産物のクオリティの高さやこの土地が持つポテンシャルの高さを知り、さらに富良野が好きになりました。
また、海外や日本全国から何度も足を運んでくれるお客様の存在も大きかったです。道内各地はもちろん、関西から毎年訪れる方もいらっしゃいますし、毎年スキーインストラクターの仕事で訪日されるアメリカのご夫婦は、『日本に来たらziziのピッツァを食べずにアメリカへは帰れない』と言ってくれて、滞在中何度も来店されます。
ziziのピッツァを楽しみに富良野に来てくださるお客様のため、この場所でピッツァを作り続けたいと思っています。」
4種のピッツァに隠されたストーリーとは?
ー ふるさと納税にご出品されている4種類の冷凍ピッツァについて、商品説明欄に収まり切らなかったというこだわりを教えていただけますか?
「返礼品の冷凍ピッツァは残念ながらナポリピッツァではなく、ナポリ”仕立て”のピッツァです。私たちが加盟している「真のナポリピッツァ協会」の規約では使用する食材や設備などが詳細に定められており、冷凍ピッツァは該当しないと記されています。『それなら富良野や北海道の食材を使って、大好きなものをぎゅっと詰め込んだピッツァを作ろう!』と商品開発が始まりました。
一番力を入れたのは、やはり生地です。トッピングに目が行きがちですが、生地がおいしいことが一番重要だと考えています。生地が重すぎると、いくらトッピングがおいしくても最後の一口まで楽しむことは難しく、逆に生地が美味しければ安価なトッピングでも最後まで飽きずに食べられます。それほど生地は重要であり、ピッツァの完成度を決めるものなのです。
冷凍ピッツァの生地には、富良野エリアで収穫されたはるゆたかときたほなみを使用しています。ナポリピッツァらしさを感じられるようコルニチョーネ(ピッツァのみみ)はサクッと中はモチっとした食感に、食べた時に口から鼻に抜ける小麦の香りがたまらない生地に仕上げました。」
ー それでは、秋冬セットから『ziziの玉ねぎ&ベーコンのPizza』『ziziの3色じゃがいものPizza』の開発秘話を教えてください。
「『ziziの玉ねぎ&ベーコンのPizza』はイタリア修業の際に食べたパニーニの、軽く火が通ったシャリシャリとした食感のスライス玉ねぎから着想し、富良野の玉ねぎを主役にしたピッツァを作ろうとスタートしました。
玉ねぎをピッツァ生地に乗せる前に、塩・コショウ・オレガノで軽く和えるひと手間を加えたことで、玉ねぎ特有の甘みと風味を活かすことができ、オレガノの香りがアクセントになって爽やかな味わいになりました。そこに1週間かけて作るかみふらのポークの自家製ベーコンのスモーキーさと肉本来の旨味や甘さ。チーズのミルキーさと生地の小麦の香りが合わさり、爽やかでありながらしっかりとした食べ応えのある1枚に仕上がりました。
解凍してリベイクしても、玉ねぎのシャリシャリとした食感が味わえますので、ぜひそこにも注目してお召し上がりいただきたいです。」
「『ziziの3色じゃがいものPizza』はもともとお店で出している商品ですが、ふるさと納税返礼品仕様に一部変えています。お店ではサルシッチャ(イタリアの超あらびきソーセージ)をトッピングしていますが、かみふらのポークの挽肉へ変更しました。かみふらのポークの持つ甘みや旨味を活かすために、トマトソースを使っていないことも大きなポイントです。
じゃがいもは3種それぞれの特徴やおいしさを引き出すため、スライスして素揚げしてからトッピングしています。ピンク色のノーザンルビーはむっちりとした食感。紫色のシャドークイーンはホクホクとした食感でさっぱりとした味わい。黄色のレッドムーンは皮が赤色で、じゃがいもの中では甘みが強い品種です。
一口食べると3種のじゃがいもが持つ様々な味わいと食感、そこにガツンと来るかみふらのポークの旨味が口いっぱいに広がります。希少なじゃがいもの食べ比べができる贅沢な1枚です。」
ー 次に、夏セットから『ziziの白いマルゲリータ』『ziziのとうきびのPizza』の開発秘話を教えてください。
『ziziの白いマルゲリータ』はトマトソースを使わないマルゲリータのことで、マルゲリータ・ビアンカという種類のピッツァです。
ラブリーさくらという私が大好きなミニトマトを主役にしたマルゲリータを作りたかったのですが、甘味と旨味が強いラブリーさくらをピッツァのトマトソースにすると甘すぎてしまい、思い描くマルゲリータになりませんでした。そこで考えたラブリーさくらの甘みや旨みを活かすピッツァが、トマトソースを使わずにカットしたフレッシュミニトマトとモッツァレラチーズ、バジルだけのシンプルなマルゲリータ・ビアンカでした。シンプルが故に、素材のおいしさがピッツァのおいしさにダイレクトにつながります。ラブリーさくらを作ってくれている四釜農園さんへの信頼とリスペクトがあるからこそ作れるピッツァです。
また、マルゲリータ・ビアンカというピッツァの名前はあまり広く知られていないため、少しでも興味を持ってもらえるよう白いマルゲリータという少し変わった商品名にしました。
このピッツァをきっかけに、奥深いナポリピッツァの世界や富良野のハイクオリティな農畜産物に興味を持っていただき、お近くの真のナポリピッツァ協会認定店へ行ってみたり、富良野へ来てもらえたらいいなと思います。もちろん当店へ来てもらえたらすごく嬉しいです。」
「『ziziのとうきびのPizza』には長い歴史があります。とうもろこしを使ったピッツァは、フラノマルシェ2にお店があった時からメニューにありましたが、当時はイタリアの師匠のお店でも提供しているピッツァ・エ・マイスというものでした。これは生クリームを使って甘めに仕上げたチーズ不使用のピッツァで、オーダーが入ってから生クリームを泡立てるなどこだわりも強く、個人的にも好きなピッツァでした。しかし『ピザ=チーズが乗っているもの』というイメージが強いようで、あまり人気が出ずお蔵入りになりました。そこから現在お店で提供しているピッツァに至るまでに2~3年かけて試行錯誤を繰り返しました。
当時主流だったとうもろこしの品種は皮が柔らかいものが多く、手作業で芯から実を外そうとすると粒が潰れてしまい、包丁などでカットすると切断面から甘みや旨味が流れ出てしまいます。
どうしたら良いのか悩んでいた時、知り合いの農家さんからたまたま譲ってもらったとうもろこしが、思い描いていたような皮がしっかりとしたものでした。それ以降はこの農家さんのとうもろこしを使わせてもらっています。
とうもろこしは鮮度が命。収穫されたその日のうちに塩茹ですることを大切にしています。とうもろこしの収穫時期と富良野の観光シーズンが同時に来るため、大変な時は夜中まで作業に追われますが、どんなに忙しくても収穫した日中に作業することが鉄則です。
お店で提供しているピッツァには北海道産バターで炒めた富良野産とうもろこしとサルシッチャをトッピングしていますが、冷凍ピッツァではサルシッチャをかみふらのポークの自家製ベーコンに変更しました。バター香る甘いとうもろこしと、スモーキーなベーコンがたまらない1枚に仕上がりました。
お店では圧倒的にお子様から人気ですが、この冷凍ピッツァは大人の皆さまにもご満足いただけるピッツァになりました。ぜひご賞味いただけると嬉しいです。」
ziziのピッツァづくりの根幹にある師匠の言葉とは?
ー ピッツァを提供する上で大切にしてることはありますか?
「私がナポリで修業した際にイタリアの師匠がよく言っていた『1枚1枚確実に焼きなさい』という言葉を信念としてずっと持っています。口数の多くない師匠だったので、その一言には『作業効率を重視するあまり、自分が納得できないものを提供してはいけない。職人としてのプライドを持ってピッツァ1枚1枚としっかり向き合いなさい。』という意味が込められていると解釈しています。
この師匠の言葉に通ずるのが、私たちが掲げているお客様との5つの約束です。
その中に、大切な人に食べてもらいたいものだけを提供するという項目があります。自分の子どもや孫には焦げたピッツァではなく綺麗なキツネ色に焼けたピッツァを食べさせたいと思いますよね。私たちは『このピッツァを子どもや孫に食べさせたいと思うか否か』でピッツァをはじめとした商品の完成度を決めています。
ピッツァが窯の中に入ってから焼きあがるまでの約1分30秒。少しでも迷いがあると焦げてしまいます。
この商品が出てきた時に、子どもや孫は喜ぶか?心から美味しいと思えるか?誰かに紹介したくなるレベルのものなのか?
師匠からの教えを胸に、1枚1枚のピッツァと向き合って窯の前に立っています。」
Pizza製作所ziziの返礼品
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