海の近くに住むのであれば、サーフィンにチャレンジしてみませんか?福島県の沿岸部はサーフィンをする環境が良く、全国からサーファーが目指してくるビーチがあります。この地域は東北の中では年間を通して比較的温暖なので、一年中楽しめる趣味としておすすめです。今回はサーフィン初心者の方に向けて、地元のサーフショップのオーナーにサーフィンの始め方を聞いてきました。南相馬市と楢葉町の人気サーフスポットもご紹介します。
まずはサーフショップの体験スクールへ
サーフィンを始めようと思ったら、まずは何をすれば良いのでしょうか。
サーフィン歴50年の大ベテランで、南相馬市でサーフショップ「SUNMARIN(サンマリン)」を営む鈴木康二さんに聞くと、「まずは体験スクールに参加すること、道具はその次」と教えてくれました。
鈴木さんの体験スクールは、ウエットスーツとサーフボードのレンタル込みで、料金は5,000円。2時間ほど海に出て、腹ばいになってボードに乗り、波に乗って進むところからスタートです。「サーフィンの楽しさと、難しさを覚えてもらうことが大事です。独学でサーフィンを始めるのは、一人で野球を始めるのと同じこと。見様見真似ではできるようにならないと思っていただいた方が良いです」と鈴木さん。
では、スクールでの体験から本格的にサーフィンを始めたい!となったら、どうすれば良いのでしょうか?
サーフィンを続けることを決心し、サンマリンでウエットスーツとサーフボードを購入すれば、鈴木さんの“チーム”に入ることができます。そうすれば無料で何度でも、鈴木さんのレッスンを受けることができるそうです。
多くのサーフショップのオーナーは、毎朝サーフィンを楽しんでいます。鈴木さんも毎朝6時から8時30分の間に海に出ていて、この時間が“チーム”のレッスン時間なのだとか。南相馬市内でもいくつかサーフショップがあり、取り扱っている道具のメーカーはショップによって違うそうです。
サーフィンを始めるうえでは道具選びが大切です。特にボードは、初心者と上級者で選び方がまったく異なるのだそう。動画投稿サイトなどで人気を集めるような、難易度の高い技が繰り出せるボードは「ショートボード」と呼ばれるもので、かなりの上級者向け。一方、初心者向けは「ロングボード」で、ショートボードに比べて長さ・厚み・重さがあり、浮力が強く、比較的に苦労することなく波乗りを楽しむことができます。「最低でも20年は続けないと、ショートボードは乗りこなせない」と鈴木さん。インターネットでボードを購入して失敗する初心者や、譲ってもらったショートボードでサーフィンの楽しさを感じられないまま諦めてしまった人を何人も見てきたといいます。
まずは体験でサーフィンの感覚を味わい、道具は適したものをプロに相談する。それが、サーフィンを楽しみながら上達を目指す第一歩に繋がりそうです。鈴木さんのサンマリンをはじめ、南相馬市内にも頼れるサーフショップがいくつかあります。興味がある方は顔を出してみて、話を聞いてみるところから始めてみましょう。
南相馬市は「サーフィンの聖地」
南相馬市の「北泉海岸」は、日本有数のサーフスポットです。バリエーションに富んだ波が来るので飽きにくく、駐車場やトイレ、シャワー室(シャワーは4~10月の北泉海浜総合公園内臨時キャンプ場営業期間に利用可能)など設備が整っており、首都圏のサーフスポットよりも空いている。そんな環境と波を求めて、初心者からベテランまで、全国から多くのサーファーが訪れます。
鈴木さんが毎朝出かけるのは、北泉海岸と、そこから車で10分ほどの「烏崎海岸」のいずれか。波の性格は、風向きによって変わります。北風が吹く日は北泉へ、南風が吹く日は烏崎へ、風と波のうねりの方向によって、日替わりでサーフスポットを変えているのだそう。この現象は、間に火力発電所の堤防があるために生まれるもので、そのぶん波に乗れる日も多い。ほかの地域ではあまりない特性で、南相馬市が「サーフィンの聖地」と呼ばれるゆえんでもあります。
「サーフィンの魅力は、どれだけやっても飽きないこと」と語る鈴木さん。波の当たり外れは天気次第で、良い時もあれば悪い時もあります。思うような波がこない歯がゆさを味わったぶんだけ、うまくいった時の快感があるのだそう。また、サーフィンは一つの波に一人しか乗れません。サーファーはお互いの姿をよく見ているため、良いライドができると拍手が起こることもあるのだとか。「2020年東京オリンピックのスケボー競技で、選手がお互いをたたえあうシーンが注目されましたよね。それと同じような光景があるのも、サーフィンの良さです」
北泉海岸の情報は公式サーフ情報サイト「えぶなみ北泉」でもご覧いただけます。
津波で流されてしまったサンマリンを再開した鈴木さんのストーリーはこちら。
「震災後、いち早くサーフィンを再開。南相馬を再びサーフィンの聖地に」
もう一つのおすすめスポット「岩沢海水浴場」
福島12市町村にはもう一つ、サーファーが目指すビーチがあります。楢葉町にある岩沢海水浴場です。すぐ側に広野火力発電所が立地し、夏場は南風が遮られて太平洋のうねりが入りやすく、毎日のようにきれいな波が立つのだそう。身近にサーフィンを教えてくれる人がいる場合や、サーフショップでのレッスンに慣れてきた人におすすめといえるでしょう。
子どもの頃から岩沢海水浴場に慣れ親しんでいるという吉田健太郎さん(広野町在住)と宍戸健太さん(富岡町出身、いわき市在住)に話を伺いました。二人は2023年から「岩沢サーフィンゲームス震災復興サーフコンテスト(以下、岩沢サーフィンゲームス)」を企画しています。東日本大震災で津波の被害を受けた岩沢海水浴場が2022年に再開されたことを受け、震災まで25年間続いていた「楢葉町長杯」の後継大会として復活させました。
「岩沢海水浴場はロングボーダーに適した、のんびりクルージングするような波が良く立ちます。遠浅で沖に出ても安全なので、ビギナーにおすすめの浜です」と吉田さん。広野インターチェンジから車ですぐというアクセスの良さもあり、県内外からサーファーが集まるのだそう。トイレ・シャワー完備(シャワーは海開き期間周辺のみ営業)で、駐車場は海開き期間中の7~8月を除き無料で利用できます。駐車場がすぐそばにあるため、車を降りたらすぐ海に入れるのもポイントです。
2024年9月8日に開催された岩沢サーフィンゲームスには、200人以上のサーファーが集まりました。宍戸さんは国内さまざまな大会に出場歴があり、優勝経験もあります。
「岩沢サーフィンゲームスは、サーフィンを始めて日が浅い人でも出られる大会です。経験年数が長いからといって勝てるわけではないのが、サーフィン大会のおもしろさ。自分の番でどんな風や波が立つかは運です。良い波が来れば、自分よりうまい選手に勝てる時もあります。それと、仲間ができるのも面白い。マイペースに乗るのも良いですが、慣れてきたら大会で勝つ喜びも感じてみてほしいです」(宍戸さん)
「波に乗っている時はほかのことはなにも考えない。普段の生活では感じられない感覚を味わえます。その体験がいつでもできるということは、心の支えになるんです」と吉田さん。宍戸さんも「サーフィンが身近な環境に憧れて、移住する人もいるんですよ。私も40代後半になりますが、こんなに何十年も続けられるスポーツは、ほかにあまりないでしょう」とサーフィンの魅力を語ってくれました。
岩沢サーフィンゲームスの情報はこちらでご確認ください。
>https://www.instagram.com/iwasawa_surfing_games2024/
まとめ
サーフィンは年齢を問わずチャレンジできるスポーツです。一つの波には一人しか乗ることができないため、人口の多い地域では混雑して思うように上達できないということもあるかもしれません。一方、南相馬市と楢葉町は首都圏から離れているということもあり、人が集まりすぎずサーフィンを快適に楽しむことができます。福島12市町村では、今回ご紹介した南相馬市や楢葉町以外でも、周辺の富岡町や広野町、楢葉町でサーフィンをする人も多くおり、出勤前にサーフィンを楽しむ人も多くいます。福島に移住をしたら、浜風の楽しみ方の一つにサーフィンを加えてみてはいかがでしょうか。
※内容は取材当時のものです。
文・写真:五十嵐秋音