Profile
塚本あずさ
アロマセラピスト
埼玉県出身 2019年移住
住む場所を決める基準は、人それぞれ。
血縁者がいたり、好きな風景があったり、お気に入りの店があったり……。
「ここなら、やりたいことができるかも」。直感でそう思い、都内から移住したアロマセラピストの塚本あずささん。
「二十日」(はつか)という自分の店で、手作りのスイーツとお茶を提供したり、身体の不調を感じるお客様にアロママッサージを施したりしています。
自分の確固たるイメージを貫き通すというよりは、様々な人たちとの出会いの中で、地域での暮らしや仕事が作り上げられていったそう。その変遷をたどりました。(インタビュー:2023年9月)
強く印象に残ったのは植物
東京でアロマトリートメントのお店で働いていたときから、自分のお店を持ちたいと漠然と思っていました。
もし開くなら都内や関東圏ではなくて、人が少ない地域がいいなって。
雇われていると、定年やお給料は会社が決めるじゃないですか。言われるがままの状態でずっと働き続けるのは、あまり想像できなくて。
それに、自分が好きだなと思うアロマや商品をもっと使いたいとも思っていました。
たまたま下川町の起業型の地域おこし協力隊「シモカワベアーズ」を募集していることを知って、地域のサポートを受けられることに魅力を感じて応募すると決めました。
初めて下川町に来たときは、雨が降ったのか木のいいにおいがする町だなと。
においも含めて森の印象がすごく強く残りました。植物がどれもすごく青々として、異様にでかい(笑)。
見たことがない植物もいっぱいあって、自分の事業云々より下川の環境に惹かれました。
分からないことだらけの中たどり着いた自分の店
移住してからのことは、あまり覚えていないんです……(笑)。
というより、事業を作っていくことに精一杯で。
ここで商売を成り立たせるにはどうしたらいいかを考えた結果、今の形になりましたけど、まさか自分が家を買ってお店をやるなんて、移住した当初は思ってもみませんでした。
住み始めてしばらく経って「何かやりたかったら自分で立ち上げればいいんだよ」と町内の方に言われたときも「自分で立ち上げるってどういうこと?!」と戸惑いましたね(笑)。
下川では個人主催のイベントがたくさん開催されますが、そういう考え方の方が多いからかもしれません。
思い返すと、分からないから人に聞いて「そうなんだ」と受け入れて進んできた、という感じです。
空き家を探すのも大変でした。町内に不動産会社がなく、人づてでないと情報が集まらないんです。
でもそこで嫌になって諦めるというよりは「じゃあ誰かに聞いてみよう」と頭を切り替えたら、現在の物件を見つけることができました。
イベント出店や、スペースを借りた営業を何度か行い、2021年4月には「二十日」という名前でお店をオープンしました。
しかも初日に、お店の近所の方々からお花が届いたんです。会ったら必ず挨拶をしたり、開業前にチラシを配ったりはしていましたがまさかお花をいただけるなんて思っていなくて。
今でも思い出すと涙が出ます。みなさん、あたたかく見守ってくださいますし、店舗が住宅地の中にあるので、迷惑をかけないように気をつけています。
不安と戦った1年目
開業して1年目は、契約とか交渉とか、初めてやることだらけで気持ちが不安定になることもありました。
全部自分で決められるのはいいですが、トラブルや悩みを分かち合える同僚もいないですし。
準備段階はワクワクしていても、オープンが近づいてくると「誰も来なかったらどうしよう」「予約が入らなかったら」と、すごく怖くなりました。
2年目からはその不安も少しはやわらぎましたね、まったく感じないわけではないですけど。
ストレスがたまったら、お休みの日に森に散歩に行ってぶつぶつしゃべったり、ドライブして大声で歌ったり。ときには遠い町へ泊まりに行くこともあります。
協力隊を卒業後は、カフェ営業やボディトリートメントの施術をしながら、お茶の納品をしたり、エッセンシャルオイルを作っている「株式会社フプの森」さんのトドマツの葉の採取を、お手伝いしたりしています。
ときどき、町内の方からオリジナルのブレンド茶の開発を頼まれることもありますね。
今後は、中国茶器を使ったお茶会をお店でやりたいなと思っています。
中国茶って、クセのあるお茶が多いんですが、そういうお茶が好きで。
茶器もしっかりしたもので中国茶を飲めるお店って、このあたりにはないですし。
私の趣味に付き合ってもらう感じです(笑)。
自分の人生は誰のものでもない
お店をやると伝えた当初は「下川町に骨を埋めるのね」と言われたり、単身で移住したから「結婚するの?」と聞かれたりしたこともありました。
今では、何を聞かれても、おもしろおかしく流せるようになりました(笑)。
私がお店をここでやるとは思っていなかったように、ずっと下川町にいるという確証もありません。逆に、もう一生出て行かないかもしれません。
下川で生まれ育った方々の中にも、病院のことや家族の事情で下川では暮らしにくくなり、高齢になってから引っ越す方もいますし。誰にも人の人生を縛れないし、縛る権利もないと思います。
とは言え、すぐに下川町から出ていくかと聞かれても、そういう気持ちでもないです。ここでの暮らしも楽しいですし、中国茶のお茶会のように、お店でやりたいこともあります。
日々それらを積み重ねるだけで、十分かなと思います。