全国でも珍しい“市営ワイナリー”が、ここ富良野に

1.はじめに

「富良野には、富良野市が自治体として直接経営する“自治体ワイナリー”があるんです」

そう聞いて、少し驚く人がいるかもしれません。
実は、全国でも数えるほどしかない“公務員がつくるワイン”が、ここ富良野にはあります。

ふらのワインは、もともと農業振興を目的に始まった市の取り組み。
今では地域のブランドとして定着している一方で、人口やアルコール消費量の減少に加え、ライバルとなる道内ワイナリーの増加、人手不足、情報発信の難しさなど、さまざまな課題も増えています。

そんな現場の裏側で、 “デジタルの専門家”が活躍していることをご存じでしょうか?

今回は、富良野市に派遣されたDX人材・平原さんへのインタビューを通じて、「ふらのワインのこれから」と「地域が自ら動き出す力」について探っていきます。

2.ふらのワイナリーアドバイザー・平原さんのご紹介

富良野市の“デジタルの専門家”としても活躍

現在、「ふらのワイナリーアドバイザー」として活動されているNTT東日本の社員である平原貢さんは、令和5年4月から2年間「富良野市ICT利活用推進アドバイザー」を委嘱され、富良野市の自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)推進をサポートする“デジタルの専門家”として富良野市の「スマートシティ戦略室」で活動していました。

平原さんは、内閣府が主導する「デジタル専門人材派遣制度」によって富良野市に派遣されてきました。
この制度は、デジタルを活用した地域課題解決に取り組もうとする自治体と、地域のDXに知見と実績を有している民間企業のデジタル専門人材のマッチングを国が支援するもので、富良野市には令和3年度からこの制度を活用したデジタル専門人材が派遣されています。

現在「ふらのワイナリーアドバイザー」として活動している平原さん

平原さんは、その2人目の派遣者。
普段はNTT東日本に所属しながら、月に2~4回ほど富良野を訪れ、市のデジタル化推進をサポートしていました。
令和6年度いっぱいで「富良野市ICT利活用推進アドバイザー」の任期は終了していますが、引き続き「ふらのワイナリーアドバイザー」や富良野市職員の人材育成研修講師などを担当され、富良野市に通い続けています。

今年度(令和7年度)より、平原さんはデジタル専門人材として北海道岩内町の自治体DX推進もサポートしているそうです。

地域を超えて、デジタルで“持続可能なまちの仕組み”を育てる。
その挑戦の一端が、ここ富良野でも着実に進んでいます。

富良野市での取り組み

富良野市では今、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の波が、単なるシステム導入ではなく、 “人”に焦点をあてたかたちで静かに広がりつつあります。

平原さんが関わる中で、特に大切にしていたのが、ただデジタルツールを導入して「はい終わり」ではなく、市職員が自ら考え、課題解決に向けてチャレンジできるようになるための“人づくり”に重点を置いた伴走支援を目指していたといいます。
実際、自治体の現場では「ツールを入れたはいいものの、使いこなせずに形骸化してしまった」というケースが少なくありません。

令和5年にスマートシティ戦略室の職員と「合宿」と称した長時間の集中討議などを幾度も重ね、市職員が“デジタルの使い手”となる力を育てるための実践的なDX研修を設計・実施。
日々の業務を見直し、デジタルツールを活用してより効率的・効果的な方法を考える力を育てることに力を注いできました。

その第一歩が、令和5年9月に始まった「DX人材育成研修」です。
市職員の中から、初年度は6名を選抜。その後、13名→12名と継続的にメンバーを増やしながら、5年間で、市職員全体の2割がデジタルに強い“牽引役”となることを目指す研修とのことです。

平原さんはこう話します。
「業者に外注すれば、確かに早くて楽かもしれない。でも、それじゃ根本が変わらない。自分たちの業務は自ら課題を探し、解決方法を考え、試してみる。その先に、本当の意味で地域を動かす力が育つと思うんです」

こうした富良野市との関わりの中で、平原さんはある一人の公務員との出会いをきっかけに、思わぬかたちで“ふらのワイン”にも関わることになります。

その相手が、富良野市役所・谷口大奨さん
“公務員ソムリエ”として知られる谷口さんとの出会いを機に、平原さんは“ふらのワイン”の未来に深く関わるようになり、現在はふらのワイナリーアドバイザーとしても活動しています。

▼谷口さんへのインタビュー記事はこちら!

 

3.公営ワイナリーの“ふらのワイン”

ふらのワインの今と課題

富良野市が直営で運営する「ふらのワイン」
その歴史はすでに53年に及びます。全国でも珍しい“公営ワイナリー”として、農業振興を目的に立ち上げられたこの施設は、富良野を支える大きな存在として今日まで続いています。

きっかけは、かつての「減反政策」——稲作から畑作への転換が求められた時代。
盆地のため傾斜地が多い富良野の地で、新たな可能性として注目されたのが“ぶどう”だったそうです。
市内で収穫されたぶどうを原材料に、ワインという形に加工することで、地域農業の六次化と収益化を同時に実現する。そんな挑戦から「ふらのワイン」は始まりました。

驚くことに、ふらのワインは20ヘクタールもの直営農園を持ち、自らぶどう栽培も手がけています。
近年は気候変動の影響を見越し、栽培品種の見直しや農家への技術的支援も行っています。
今でも、ふらのワインは富良野産のぶどう100%でワインを製造しています。
更には、ワイン販売も直営で行い、ワインに関する全ての作業を内製で手がけています。

多くのワイナリーが目指す理想的なワインの造りをふらのワインはずっと続けているのです。

しかし、近年ふらのワインは様々な課題にも直面しています。
これまで多くのふらのワインを消費してきた富良野地域の人口減少が顕著となっただけでなく、コロナ禍を経た飲酒機会の減少など、ワイン需要の先細りが課題になっています。

それに加え、北海道内では70箇所を超えるワイナリーが誕生し、10年前の約3倍に増加。
ワイナリー間の販売競争も激化しています。
もちろん、現場では慢性的な人手不足も課題です。

長年の努力が実り、ぶどうの生産量は安定していても、ワインの需要が先細っていく時代。
「作った分だけ売れる」という時代はすでに終わり、酒類消費の減少、若者の酒離れといった傾向が広がる中で、ふらのワインの“価値”を再定義するタイミングが来ているのかもしれません。

実際、ふらのワインの成り立ちや公営ワイナリーであることは、市内でもまだ十分に知られているとは言いがたいのが現状です。
毎年まじめに、真摯にワインづくりに取り組んでいる現場。
その背後にある使命感やプレッシャーが、表に出る機会は少ないのです。

「富良野の農業や観光の振興を背負っている」という強い自負とともに、それをどう“地域の誇り”として浸透させていくか。
今、ふらのワインはその問いと向き合っています。

4.ふらのワインの展望と挑戦

新しい関わり方と発信の形

53年の歴史を持つふらのワイン。
いま、その歩みを振り返りながら「これからの50年をどうしていくのか」という問いと、真剣に向き合おうとしています。

きっかけは、ワイナリーの職員9人によるあるディスカッション。
話題に上ったのは、売上でも技術でもなく、もっと根本的なことでした。
——「ふらのワインって、何のためにワインを作っているんだろう?」

もともとは、農業振興のために始まった公営ワイナリー。
富良野市内で収穫されたぶどうを買い取り、地元の農業を支えてきた歴史があります。
近年では、観光の閑散期にも訪れるきっかけとなるような観光資源としての役割も求められてきました。

日本でもほとんど例のない「公務員が運営するワイナリー」
その希少性を活かすどころか、「公務員がワインを作っています」と積極的にアナウンスする事がなかったといいます。

これからは、もっと“公営ワイナリー”らしく、地域やワイン愛好家に愛される唯一無二の存在になっていきたい。
——そんな声が、静かにあがってきています。

「ふらのワイン倶楽部」という、新しいつながり

ワイナリーの職員9人と平原さんによるディスカッションの中から生まれた活動のひとつが、「ふらのワイン倶楽部」です。
ただワインを作って提供するだけじゃない。「ふらのワイン“が”好きだ」と胸を張って言える人たちと深くつながる、顔の見えるコミュニティ。

イベントは年に数回程度開催され、ぶどう畑やワインの製造現場にふらのワインファンを招き、これまで語ってこなかったワイン造りへの情熱やこだわり、そして苦労を赤裸々に語りかける。
その上で自慢のワインを味わってもらう事で一層理解が深まっていく。
ふらのワインファンとワイナリーの距離感を縮め、より強固な信頼関係を築いていく。
そんな試みがスタートしています。

「ふらのワイン倶楽部」は現在、対象を富良野市民に限定した小規模なトライアルですが、今後はその対象を拡大していく予定とのことです。

「伸びしろしかない」もっと幅広く知られるワイナリーへ

ふらのワインの新たな活動は、まだ始まったばかりです。
これからも様々なアイデアや活動を通じてより多くのファンを獲得いていく必要があるとのこと。

平原さんは、ふらのワインについてこう言います。

「ふらのワインには伸びしろしかない。富良野を知り尽くした市職員が53年間も真摯にぶどうとワインを作り続けてきた歴史があり、盆地である富良野の地形がぶどう栽培に適していて、良質な富良野産ぶどう100%でワインを製造している。

これはワイン造りの理想的な姿。あとはふらのワインを知って飲んでファンになっていただく。
これに注力していくだけなんだと思います。微力ながら、ふらのワインのトランスフォーメーション(変革)に向けて伴走していきたい」

5.富良野ワーケーションツアーについて

「ふらのワイン×ペアリングの会×発信の会」ツアー開催決定!

今年11月、ふらのワインの魅力を巡る特別なワイナリーツアーが開催されます。
富良野の風土に恵まれた一杯との出会いを、ぜひこの機会に楽しんでみませんか?

ツアーの詳細は、北海道富良野市移住促進情報サイト「ワーケーションフラノ」にて随時掲載予定。
続報をどうぞお楽しみに!

▼「ワーケーションフラノ」での詳細ページはこちらの画像をクリック!

6.さいごに

市営としては全国でも希少な存在である「ふらのワイナリー」。
その裏側には、アドバイザー・平原さんの“市民に愛されるワイナリー”を目指す熱い想いがありました。
これから開催されるワイナリーツアーでは、そんなふらのワインの魅力を五感で味わえるチャンス。
一杯のワインが、人と人、まちと人をつなぐ──
その“縁”に、あなたもぜひ触れてみませんか?