- 出身地と現在のお住まい
東京都調布市出身→福島県と東京都の二拠点生活→田村市
- 現在のお仕事
カフェや農家民宿を行う交流拠点nononowaの運営
- 田村市でやりたいこと
地域に合うもので事業をつくる
東京都調布市出身の中山真波さんは、2020年から2025年3月まで田村市の地域おこし協力隊として活動していました。農産物や食にまつわる活動をしながら理想の物件を探し、かつて城があった場所に建つ古民家を購入。2025年6月現在、カフェや農家民宿を行う交流拠点づくりを進めています。自然と暮らしにまつわる活動や、次の世代につなごうとする想いについてお話をうかがいました。
卒隊後の新たな舞台は自然いっぱいの城跡
――田村市の地域おこし協力隊員になった経緯を教えてください。
福島県には仕事の関係で縁ができて住み始め、東京都内と行き来する二拠点生活をしていました。田村市の地域おこし協力隊員になろうと思ったきっかけは、たまたまインターネットで、田村市の地域活性化の活動について目にしたことです。面白いことをやっているなと感じたのと、前職は東日本大震災の復興地域である飯舘村で活動しており、同じく復興に取り組む田村市でやってみようと応募しました。地域商材開発事業を担当し、地元産の大豆を使った納豆の売り方を地域の方と考えたり、ニホンミツバチの養蜂で収穫した蜂蜜を商品化したりといった活動をしていました。
――地域おこし協力隊を卒隊してからはどのような活動をしていますか?
田村市船引町長外路にある城跡の古民家に、城跡で繋がる、自然と暮らしの場nononowaをオープンすべく準備中です。協力隊だった頃から1年かけて、学生や子どもたち、地域の人と一緒に、片付けやDIYを行ってきました。自然環境の循環を意識し、新しく買うよりも手元や周囲にあるものを使って活動することを大事にしています。
――とても自然豊かな場所にある古民家ですね。
子どもの頃から、自然がいっぱいの田舎暮らしに憧れがありました。船引町の市街地から車で約15分の近さながら、ここでは里山を自然な状態で見ることができます。田んぼには絶滅危惧種のゲンゴロウが生息し、ノウサギやカヤネズミ、キジやサギといった動物も見かけます。草刈りは終わらない戦いですが、この春から助っ人としてヤギが2頭来てくれました。
古民家は2023年頃に地域の人から「いいところがあるんだけど」と紹介され、周囲の畑や田んぼ、山林も一緒に購入しました。ちょうどその頃に農泊セミナーに参加したのですが、地域の農や食にふれる、地域のニーズに答え活性化につなげるといった農泊の考え方をそのセミナーで知り、面白いな、ここで農泊や飲食業ができたらいいなと思いました。

1年かけて整えた古民家が、交流拠点「nononowa」に
自然の循環について体験しながら知る拠点
――nononowaはどんな施設になるのでしょうか?
飲食事業として「城跡の古民家カフェ n∞ (ノノ)」、民宿事業として「農家民宿野々の環(のののわ)」を開きます。カフェでは、畑で育てた野菜やナツハゼで料理を提供します。農家民宿では、農作業体験や自然教育、自然環境づくり、養蜂体験などを行います。協力隊員時代に運営したコミュニティ農園で農業体験の受け入れをしていたのですが、都心からの日帰りだと、少し田んぼや畑をいじるだけで終わってしまうんですよね。それで、時間を取っていろいろな体験ができるよう、宿泊もできるようにしたんです。このほか、収穫した野菜や山菜をピクルスや塩漬けなどに加工して販売する、食品加工事業も行います。
――nononowaはどんな方にぴったりな場所ですか?
学生や子ども、地域外や海外の人など、里山の風景を見たり過ごしたりすることが非日常体験になる人に特に来てほしいです。
子どもたちに養蜂をやっている理由を話すときには、蜂蜜を採るためだけではく、この地域の作物が受粉し実をつけようにするためであること、その作物を人間が食べて生きていること、そうした自然のサイクルを伝えていきたいです。

草刈りの助っ人に仲間入りしたヤギたち
「こういうものがある」と伝え、知るきっかけを増やす
――自然環境の循環や調和に注目しているのですね。
子どもの頃、庭のイチゴや野菜に虫が集まっているのを見て「これはなんだろう。人が採って食べるだけではない、どんな作用が地球にあるのかな」と考えていたんです。大人になって、自然環境のなかに循環があることをいろいろな人から教えてもらいました。私も、それを伝えられる場所や実体験できる機会をつくり、次の世代へつなぎたいです。
――なぜ子どもたちに伝えたいと思うのですか?
博物館や美術館は、自然や文化を知る1つの手段だと思います。私自身、子どもの頃に学校行事や家族のおでかけでよく行っていました。しかし、地方にはこうした施設が少ないと感じます。
子どものなかに選択肢が増えないと、「将来何になりたいかわからない」「田舎はつまらない」と感じ、出ていってしまうのかもしれないなと。もったいないですよね。知る機会を増やすことがこの地域の課題だと思います。そして、頭で考えるだけでなく、実践することが大事。地元の工場・企業見学のような社会科見学ツアーをここで作ることができれば、子どもだけでなく大人にとっても就職や転職のいいきっかけになると思います。

中山さんが育てる二ホンミツバチの巣箱
外に出て自然や農にふれてほしい
――田村市で生活する魅力はどんなところにあるでしょうか?
いざ土地を所有して毎日じっくり向き合うと、身の回りの自然をごく普通に日常の食に取り入れることができ、面白いです。山椒の実やセリがその辺にたくさんありますし、雑草を刈ったらノビルが大量に生えてきました。春の野草で高級食材のカンゾウも見つけ、今まで買って食べていたので不思議な感覚です。
フキノトウも採ってすぐに食べられて、季節を先取りしている気分。そのあとにフキが生えれば「たくさんで食べきれないから塩漬けにして保存しておこう」と考えてみたりして、まるで昔の人の生活みたい。大変だけど面白くて、これも田舎暮らしの魅力だと思います。
――今後チャレンジしたいことを教えてください。
ナツハゼを知ってもらう機会を作りたいです。日本固有の希少なベリーで、この地域では以前、パウダーやジャムに加工して販売していました。現在は出荷制限が解除されていますが、震災以降は出荷できない時期があり、ナツハゼを知る人も減ってしまって、もったいないと感じています。ナツハゼを育てているおばあちゃんから事業承継したいと思い、苗木をもらって城跡で育てています。
ナツハゼは無農薬で育て、ジャムの加工にはミネラルが豊富な粗製糖を使っています。私がやりたいことは、このナツハゼのように、地域に合うもので新たな事業を生み出すことです。

田村市の山あいで育てられてきた希少なナツハゼ
――田村市へ移住を考えている方にメッセージをお願いします。
田村市で自然や農業を実際に体験してみてほしいです。移住者ということで最初は一歩引いて見られてしまうこともあるかもしれませんが、このあたりでは、外に出て畑作業などをしていると、必ず誰かが声をかけてくれ、自然と打ち解けることができます。土地の空気と一緒に外に出ることが、地域になじむ一番の近道じゃないかと思います。
中山 真波(なかやま まなみ) さん
東京都調布市出身。フリーカメラマン。2020年に田村市の地域おこし協力隊員に着任、6次産業化支援など地域商材開発事業を担当。2023年に田村市船引町長外路の古民家と土地を所有し、交流拠点『nononowa』立ち上げを進行中。カフェは2025年7月12日にオープンし、農泊の受け入れ開始に向けても準備を進めている。
城跡で繋がる、自然と暮らしの場『nononowa』
https://www.instagram.com/nononowa.jp/
※内容は取材当時のものです。
取材・文:はしもとあや 写真:髙橋晃浩