はじめに
2024年に大熊町に移住した深澤諒さんは浜通りを拠点にコーヒーのロースター(焙煎士)・バリスタとして活動しています。町内で開催されるイベントに数多く出店しており、深澤さん自ら焙煎した豆を使ったコーヒーは町民の間でも人気です。2025年2月には大熊町のお隣・双葉町の駅前に焙煎所兼ドリンクスタンドをオープンするなど、県内各地で活動を広げてきました。
「コーヒーを浜通りとつながるきっかけにしたい」と語る深澤さんに、浜通りで活動するようになったきっかけや今後実現したいビジョンについて伺いました。17
大熊町に移住した理由:浜通りの人たちとのつながり
秋田県の出身で、大学時代までは秋田で過ごし、大学卒業後、2020年7月から福島の奥会津にある三島町の地域おこし協力隊として活動を始めました。高校時代から日本各地を旅しており、浜通りを含めて何度も福島に足を運んでいました。そのため福島の友人はかなり多く、もともと地元秋田の次になじみのある地域でした。三島町では観光協会のスタッフとして働いていたのですが、イベントがきっかけで三島町にコーヒーの焙煎をしている方がいることを知り、焙煎窯で焙煎を体験させていただいたことをきっかけに、コーヒーにのめりこんで行きました。
学ぶことが好きで、大学時代はもともと理科の教員を目指していました。コーヒーを飲み比べ、味や香りを比較しながら理想のコーヒーを追求していくことは学ぶこととも共通するところがありました。協力隊卒業後の仕事を考える中で「自分のもつスキルで稼いでみたい」、「コーヒーの焙煎を仕事にできないか」という気持ちが自然と芽生えていきました。
そんな中、楢葉町の「シェアハウスと食堂 kashiwaya」の店主から「住み込みで働きながらコーヒーを仕事にする準備をしたら?」と声をかけていただきました。楢葉町では、往復7時間をかけて三島町に通い、師匠の窯で豆を焙煎しながら各地のイベントに出店し、コーヒーをふるまいました。
その間、2022年9月から2か月間はlinkる大熊のチャレンジショップに入らせていただき、コーヒーを販売しました。チャレンジショップでの出店は私が初めてでした。大熊とのつながりを作り、この地域の方々がどんなコーヒーを好むのかを知る貴重な機会になりました。
2022年に浜通りに来て、出店回数は2年半で80回以上となり、浜通りの方々とのつながりができました。これからも浜通りに住み続けたいな、と思って住む場所を探していた時にちょうど大熊で公営住宅の入居者を募集していることを知り、大熊で暮らし始めました。
住んでいるのは大熊ですが、楢葉町や双葉町、浜通りの色々な方々とのつながりを持ちながら、「浜通りの移住者」として活動していきたいと考えています。
浜通りの友人の協力で焙煎所を開業
2025年2月に双葉町のJR双葉駅前に焙煎所兼ドリンクスタンドをオープンしました。初めての開業で右も左もわからない中、浜通りで出会った同世代の友人に相談に乗ってもらったり、手伝ってもらったりしながら準備を進め、お店を開くことができました。また、クラウドファンディングでも300人以上の方から300万円以上のご支援をいただくことができました。
https://camp-fire.jp/projects/799542/view
焙煎所の名前は、「open roastery Alu.」。「地域と日常に開かれた焙煎所」として「この地にありたい」という思いを込めたのですが、大熊町で夜に開かれる本屋「息つぎ」の店主がアイデアをくれました。
あとは、大熊で農業をやっている友人がいて、チャレンジショップで知り合って以来、すごく仲良くしています。僕の焙煎所で出るコーヒーのかすを彼の畑で肥料として活用できないか、という話も進めています。焙煎所のベンチも、彼に作ってもらう予定です。
「Alu.」では、焙煎する様子を見ながらコーヒーをテイクアウトすることができます。そして焙煎所から各地の飲食店にコーヒー豆を卸していきます。すでに1年ほど前から郡山市のカフェには豆を卸させていただいていて、大野駅西に新しくできた飲食店「panier」でもコーヒーメニュー全般に関わっています。面白いのは、お店ごとに求められるコーヒーが違うところです。たとえば、ある店の看板メニューがプリンなら、そのプリンに合うコーヒーってなんだろう?と考えます。これは僕一人じゃ答えを出せなくて、プリンを作るパティシエさんとか、いろんな人の意見を聞きながら作り上げていくものだと思っています。
そうやって、みんなで試行錯誤しながら理想の味を探していく過程はとても楽しいです。試行錯誤して作ったコーヒーを、自分の店以外の場所で提供してもらえるのは本当に嬉しいし、ある意味で我が子を送り出す感覚に近いかもしれません。
コーヒーは1つの表現ツールだと思っていて、これからは「大熊ブレンド」、「双葉ブレンド」のように浜通りの各地を味・香りで表現していきたいです。浜通りはもちろん、出身地である秋田や日本各地のお店にも僕の豆を扱ってもらえたらいいなと思っています。そうやって僕のコーヒーが福島の浜通りを知ってもらうきっかけになればと考えていますし、興味を持った方が実際に大熊に来てもらえたら嬉しいです。
大熊の人たちにコーヒーを届けたい
僕自身バリスタとしてコーヒーを提供するのも好きなので、コーヒーを飲んでもらう場は大切にしたいと考えています。大熊町内のイベントにも町民としてどんどん出店してコーヒーを届けていきたいなと考えています。これまでもなつ祭りやふるさと祭り、おおくま学園祭にも出店させていただきました。
他には、住民の交流会でコーヒーをお出ししたり、秋田出身ということもあって、きりたんぽ教室を開催したこともあります。11月11日が「きりたんぽの日」なので、それに合わせて町内の皆さんと一緒にきりたんぽを作って食べる、というのを2年連続でやりました。linkるにある調理スペースで開催させていただき、次回をどうするかはまだ決めていないのですが、また違う形で何かやれたらいいなとは思ってます。
移住を考えている方へのメッセージ
「この土地の魅力は?」と聞かれた時に絶対に言いたくないのは、「美味しいご飯」「温かい人」「豊かな自然」の3つ。学生時代に世界一周をしましたが、この3つがない地域はどこを旅してもありませんでした。
結局、その場所を好きになる理由は「特別な何かがあったから」ではなく、たまたま夜に散歩して、ふと目に入った枝が綺麗だったとか、その町のリアルな空気を肌で感じたからであり、そういう体験が移住のきっかけになっていくのではないかなと思います。
結局、どんな言葉を尽くしても、「その場所に行ってみないと分からないこと」があります。でも、それでいいと思っていて、言葉では伝えきれない部分をぜひ感じに来てもらえたらと思います。僕の焙煎所も、「ふらっと立ち寄れる場所」になったらいいなと考えていますし、コーヒーを飲みに来ながら、大熊や浜通りの雰囲気を感じてもらえたら嬉しいです。