自然の恵みを最大限に生かし、季節ごとに移り変わる食材を楽しむ小峰さん一家。雪深い下川町でも、一年を通して持続可能な暮らしを実践する食生活をご紹介します。

今回は我が家の1年間の食生活に触れたい。下川町に移り住んで学んだことは、自然の恵みを守り生かしていくことで、人は生きていけるということでござる。身近にある野草・山菜、おすそわけの食材を生かしつつ、それでは足りないものを、土地・気候にあった食材を栽培して補っている。もちろん購入する食材もあるが、下川町や身近なところで作られた食材を選んで地産地消を心掛けている。

得られる恵みは、春に山菜、夏秋に野菜、木の実、キノコ、たまに川魚、初冬にシカ肉など季節ごとに違う。そのため食卓に並ぶ食材も季節ごとに変わる。その時期、その場所でとれる食べ物には、その時期、その場所に暮らす人に必要な栄養を与えてくれると実感している。

下川町は10月ごろから5月上旬まで雪が降る。12月から4月下旬まで土は雪に覆われている。雪で覆わる時期は蓄えた食材で生活する。寒暖差が大きい下川町は食材がおいしく育ち、焼くだけ、ゆでるだけ、蒸すだけといった簡単な料理で十分においしく味わえるのだ。

春:山菜が目覚める季節

「春」は山菜が主な食資源でござる。
4月になると雪解けが少しずつ進み、4月上旬にはフキノトウが顔を出す。ほろ苦いが冬の間にたまった体の毒素を出すとも言われ、この時期に体が求めているのかおいしい。春に向けて体を目覚めさせてくれる。細かく切って炒め、みそだれと混ぜて「フキノトウ味噌」を作って味わっている。みそ汁に入れてもおいしい。

4月中旬になるとシラカバの樹液が採れる。ほのかな甘みがおいしい。寝起きに一口一口じっくり味わいながら飲む。樹液でおとしたコーヒーもおいしい。

そうしているうちに庭で山ワサビが出てくる。妻と一緒にこれを掘って泥を洗い落とし、屋外で皮をむいてすりおろす。肉や魚を焼いて山ワサビにつけて味わっている。湿地や沢周辺ではヤチブキ(エゾノリュウキンカ)が出て来る。収穫後は長持ちしないのでその日に食べる分だけを採ってお浸しなどで味わう。黄色い花を咲かせてきれいだ。

4月下旬になると、ギョウジャニンニクが旬を迎える。滋養強壮効果のある食材として親しまれ、食材の少ないこの時期、体に元気を与えてくれる。自分の所有林と庭で食べたい分を少しだけ採る。醤油漬けで保存している他、シカ肉と一緒にだし汁で煮込んでいただくと、少量でも存分に味わうことができる。ジンギスカン(羊肉)に入れるととってもおいしい。一枚一枚じっくり大切に味わっている。

5月初旬にイタドリが芽吹いたと思えば、どんどん成長してあたり一面を覆い尽くす。成長し過ぎる前に収穫して皮をむき、ゆがいて水に浸して翌日、味付けをして炒めてメンマを作っている。イタドリジャムも作る。せっせと輪切りにして薪ストーブで地道に煮込む。おいしくて元気が出る。地元産の牛乳で手作りしたチーズともよく合い、チーズとイタドリジャムをのせたパンは最高だ。ジャムづくりは砂糖をそれなりに使うのが課題だ。

5月中旬になるとウドが次々と出始める。酢味噌和えや天ぷらにして味わっている。ウドは定番食材で毎年保存食としても重宝している。続いてワラビも採れ始める。ワラビは薪ストーブから出た灰をまぶして熱湯に浸けあく抜き。お浸しにする。あるいは乾燥させ、シカ肉と炒めて食べている。フキノトウが成長してフキになり、これをみそ汁や煮付けの具材にして味わっている。黄色の花が咲くエゾカンゾウも天ぷらにすると甘味があって最高。おすそわけのアスパラガスも味わっている。他にもさまざまな山菜・野菜で食卓が潤う。

一方、野菜作りも5月に準備を始める。種を植えて苗を作る。6月にカッコウの知らせが聞こえたら庭の菜園に苗を植え始める。苗は採取した種から作る場合もあれば、おすそわけしてもらった苗もあるので、栽培するものはその年によって変わる。

夏と秋:菜園とおすそわけの恵み

「夏」は野菜が収穫できるようになる。庭で栽培したズッキーニ―、豆、トウモロコシ、ジャガイモ、タマネギ、ニンニクなどの他、地域の方からのおすそわけのトマトやキュウリ、さらには庭で自然に育つスベリヒユ、レタス、ニラ、ネギ、シソ、ミント、レモンバーム、スグリなどを味わっている。日差しで作るハーブ茶・サンティーもおいしい。

自然豊かな下川町の川ではヤマメやカジカが釣れる。拙者はたまにしか釣りにいかないが、1時間もあれば近場の川で釣りをして帰って来ることができる。釣った魚を天ぷらにして味わうと最高でござる。時々魚のおすそわけをいただくこともあり、さばいて味わっている。

「秋」は庭で栽培したダイコン、ニンジン、大豆などを収穫。カボチャも作っていたが、最近はおすそわけでいただき味わっている。ニシン漬けなど漬物を作って食べることも多い。

菜園づくりと料理のリーダーは妻。拙者はできる範囲で一緒に楽しんでいる。妻は日々、庭の手入れも兼ねながら身近なものを採って生かしている。

晩秋の10月には、シカの狩猟シーズンを迎える。拙者は狩猟をしないが、地元ハンターに毎年、エゾシカ1頭を獲ってもらっており、それを部位分けして保存し、1年分の食肉としていただいている。特に冬を乗り切るエネルギー源になっている。シカ肉と山菜は相性がよくて一緒に食べるとおいしい。

自然のリズムと採取のルール


―自然のリズムに合わせて身近な恵みを生かす―

山菜は4月から6月までに旬の時期が集中し、特に5月は最盛期といえる。さまざまな山菜が次々に芽吹いては、あっという間に旬が過ぎ去る。自然の恵みを生かすためには、人の都合ではなく自然の周期に合わせ、旬のうちに収穫して保存しいただくことが重要だ。自然は待ってくれないのでござる。

―採り過ぎず大切に守りながらー
山の恵みを持続的にいただくためには、必要以上に採取しない、特に繁殖力の弱い山菜はなるべくは採らない、増えるように管理するという意識が重要と思う。

たとえば、ギョウジャニンニクは代表的な山菜の一つだが、繁殖力は非常に低く、発芽して5年ほどは葉が1枚で、2枚になるまでに6、7年もかかる。持続的に採取するには、茎が太く葉が2枚のものだけを選び、根元を残しながら取り、一カ所で採取できる量は3分の1以内にとどめることが重要。葉が1枚しかないものを取ってはいけないし、3枚葉も開花後に種を落とし、地下茎で栄養を供給するので取るべきではない。

―どこにでもたくさんあるものから生かすー

持続可能な暮らしに大切なことは、希少な山菜よりも、むしろイタドリやツクシなど「どこにでもあるもの」を生かすことだと思う。どこにでもある野草は奪い合いにならない。森林に一年中生えているクマザサもお茶にして味わっている。タンポポの根もコーヒーとして味わえる。

無理のない自給へ

拙者は下川町に移住した当初、自給自足の暮らしを思い描き、仲間と共同で購入した土地を使って、いろいろな野菜も作っていた。だが、広大な畑と作物を管理するためには、それなりの労力と経費も掛かった。農薬や化学肥料を使わず自然に近い状態で作っているが、キャベツなどは瞬く間に虫に食われてしまった。

山の恵みを生かす地元の方たちの暮らしに触れるうちに、身近にある自然の恵みを生かしながら、野菜は作りやすいものを小規模で栽培するという考えに至った。小規模であれば土を起こすのも手作業ですぐできる。作物の管理や収穫も無理なくできる。

今では馬糞、枯葉や刈り取った草などをたい肥にし、微生物豊かなで健康な土を育てることで、土壌が柔らかくなり耕さなくても作物が育つようになってきた。妻と共に誰もができる「無理のない」域内循環型の暮らしを模索続けている。ニントモカントモ。

text・photo:小峰博之

小峰さんの寄稿は、単なる食卓紹介ではなく「暮らしの哲学」そのものだと感じます。大規模農をやめ、小さな循環に切り替える決断は、持続可能な暮らしの本質を突いています。春の山菜から冬の保存食まで、すべてのプロセスに「必要な分だけいただく」「自然のリズムに合わせる」という意識が通底していて、下川町での暮らしのヒントが詰まっています。移住を検討する方にとっても、等身大で続けられる生き方のモデルになる内容です。