子どもの高校進学を考える際、知らない土地へ送り出すという選択は、親にとって大きな勇気が必要でしょう。「ちゃんと生活できるだろうか」「寮は安全だろうか」「費用はどのくらいかかるのだろうか」「地方の高校に進んで将来は大丈夫なのか」。そんな不安が押し寄せてくるかもしれません。
6月に開催された「高校進学フェスフェスin東京」で行われた座談会で、実際に地域みらい留学でお子さんを地方の高校へ送り出した3人の保護者にお話を伺いました。そこで伺った内容を記事としてお届けします。ウェブ上で「地域みらい留学×口コミ」と調べるよりも、よりリアルな“親の声”をお届けします。
■登場する保護者プロフィール
- 茂木 正浩さん(東京都在住):長男は島根県・隠岐島前高校、次男は広島県・大崎海星高校へ。兄弟そろって地域みらい留学を経験。
- 大平 恵子さん(千葉県在住):愛媛県立内子高校 小田分校に息子を送り出し、現在2年目。
- 宮本 まりさん(神奈川県在住):進路に迷う中で地域みらい留学を選択。北海道幌加内高校へ娘を送り出した。
「偏差値よりも、どんな経験ができるか」――高校選びの決め手
―それぞれのご家庭で、高校選びの際に大切にしていたことを教えてください。
- 茂木さん:
進学先を決めるとき、重視したのは偏差値ではなく“どんな経験を積めるか”でした。総合型選抜など、今の大学入試では“何を学び、どう表現できるか”が問われるようになってきています。だからこそ、地域での実践や人との関わりを通じて成長できる環境を選びました。実際に現地を訪れ、都会では見られない景色を目の当たりにしたんです。船を降りた瞬間、当たり前かのように「こんにちは!」と声をかけられる。そうした光景を見て“この環境で学んでほしいな”と強く思いました。
- 宮本さん:
私は“本人が自分で選ぶこと”を大切にしました。私自身の意向が入らないように、接し方には特に気を付けていたように思います。
- 大平さん:
我が家の場合も、本人が選ぶという点を重視していました。親が決めた学校より、自分で決めた学校の方が頑張れると思ったからです。地域みらい留学への意向も強かったので、地元の私立高校での併願もしませんでした。
3人が口をそろえて言うのは、“子ども自身の直感を信じる”こと。親がいくら情報を集めても、最後に決めるのは本人の心です。「行きたい」と言える学校に出会えたこと、その選択ができたこと自体が、すでに成長の第一歩なのかもしれません。
費用と生活のリアル ――「思っていたよりも現実的」
―地域みらい留学を検討する保護者の多くが気にするのが費用面です。実際はどうだったのでしょうか。
- 茂木さん:
当時、隠岐島前高校は3食付き・相部屋の寮で月4万円ほど、大崎海星高校は個室の寮で4万5千円ほどでした。お小遣いは半年に1回、3万円を送るくらいで十分。東京の高校に通う場合の交通費を考えたら、むしろ負担は少ないかもしれません。隠岐島前高校は年に数回、東京への帰省費が出る制度もあります。
- 宮本さん:
学校によって費用や寮の環境は少しずつ違いますよね。幌加内高校の場合は、3食ついて4万円かからない程度だったかと。幌加内町は、周囲にお金を使うような場所もあまりありません。スーパーが1件程度なので、お小遣いというより、どちらかと言えばこちらからカップ麺などを定期的に送ってあげている感じです。神奈川で高校生活を送る場合と比べても、寮費を含めてさほど変わらない支出だと感じています。
- 大平さん:
寮費3万円と光熱費がかかります。帰省費については、年2回片道分が補助されます。お小遣いについては、金曜日の夜から日曜日までの7食分は自炊なので、その分、他のお二方よりは少し多めの月3万円程度を送っています。でも、今は自炊が板についてきたようで、余ったお金を貯蓄しているようですね。あと、入学時の初期費用が10万円ほどかかりました。冷蔵庫や炊飯器など、一人暮らしの準備です。
地域みらい留学の事務局を運営している中で、よく聞かれる“お金の不安”。けれど実際は、“地元での高校生活”とさほど変わらない感覚に近いようです。各校・各地域によっても、補助の制度も様々ですので、気になる学校が出てきたら、直接学校に問い合わせてみてください。
子どもが変わった瞬間 ――「手放す勇気が、子を育てる」
―送り出した後、お子さんにどんな変化がありましたか。
- 茂木さん:
中学までは自分に自信がなかった次男が、文化祭で歌ったり、地域のイベントで司会をしたりと、“やってみたい”と思えるようになったことが一番の変化です。長男は東京の大学へ進学しましたが、次男は“地方の大学で伸び伸び学びたい”と言っています。高校で得た経験が進路の幅を広げてくれたと感じています。
- 宮本さん:
寮生活の中で、異年齢の仲間と過ごすことで他者と協力する力が育っていると思います。トラブルが起きても、先生に頼る前に自分たちで話し合って解決している。社会で生きる力が確実に身についていると感じます。蕎麦打ちが有名な幌加内町での体験を通して“やりたいこと”を見つけた先輩の中には、ドイツで蕎麦職人として就職した方もいるそうです。
- 大平さん:
中学のときは朝が苦手でよく遅刻していたんです。でも今は毎朝自分で起きて、なんと友達まで起こしている(笑)。さらに、自分の将来について真剣に考えるようになりました。進学か就職か、どんな道を選ぶかを自分で調べて、親には“相談”ではなく“報告”をしてくれる。今後の進路選択は100%息子に任せるつもりです。好きなことを見つけて、自分の人生を楽しんでほしい。それが親としての願いです。
3人の保護者が一番強調したのは、「自立」と「他者との協働」の成長です。地方の学校での暮らしは、都会よりも人との距離が近く、失敗も成功も自分ごととして受け止めざるを得ません。だからこそ、子どもたちはたくましく育つのです。親が“手放す勇気”を持つことで、子どもは自分の力を信じられるようになる――地域みらい留学は、親にとっても“信じて待つ”ことを学ぶ時間なのかもしれません。

