「地域に新たな特産品を」
目次
2 ⼈のスペシャリストが放牧に取り組む
甲州街道の宿場町として、古くから栄えた⼤⽉市。ここで今、新たな特産品が次々と産声を上げている。なかでも注⽬を集めているのが、「⼤⽉のびのびファーム」が提供する⾁製品だ。主な出荷先はふるさと納税の返礼品だが、その品質や希少価値の⾼さからひっきりなしに注⽂が⼊っている状況だという。
今回は、⼤⽉市の特産品の仕掛け⼈「感動ファーム」代表・⼩泉さんと、「⼤⽉のびのびファーム」社⻑・條々さんに、お話を伺った。
條々 和実さん・⼩泉 幹成さん(⼤⽉のびのびファーム株式会社)
県の畜産課で新品種の開発や品種改良に取り組んできた條々さんが、特産品開発を⼿がける⼩泉さんに「本当においしい⾁を作り、⼤⽉市の特産品にしたい」と協⼒を求めたところからスタート。豚と⽺の放牧、⾺の肥育から加⼯・販売までを⼀貫して⾏うビジネスモデルで、安⼼・安全かつ⾼品質な⾁製品を全国に届けている。
“のびのび”と育った豚・⽺・⾺
味と安⼼にこだわり、消費者のもとへ
「⼤⽉のびのびファーム」は、その名のとおり、豚や⽺を放牧で“のびのび”と育てていることが最⼤の特徴だ。⼭林を間伐して⽇だまりと⽊陰を作り、⾃然のなかで動物たちが⾃由にストレスなく過ごせるよう配慮している。
「⼀般的に流通する豚⾁の多くは、⾁質のよい品種を掛け合わせた豚に、さらに繁殖⼒の⾼い品種を掛け合わせ(3元豚)、味と供給量のバランスを取っています。しかしのびのびファームで扱う『⼤⽉のびのび放牧豚』は、⾁質のよい『バークシャー種』と質の⾼い脂を持つ『デュロック種』を掛け合わせたオリジナルの2元豚です。 放牧で育てた豚は運動量も多く、⼟のミネラル分も摂取し、⽢みのある脂と弾⼒のある⾁質に育ちます。
また、⽺も⾁⽤種として名⾼い『サフォーク種』を⽣草ではなく栄養価の⾼い飼料で育てているため、クセが少なくさっぱりと⾷べられます」(條々さん)
「ラムチョップが⾮常に⼈気で、サイトに出すとすぐに売り切れるんですよ」(⼩泉さん)
のびのびファームの肥育期間は通常よりも⻑い10ヶ⽉。じっくり⼤きくなるまで育てている
⼀般的に放牧には、環境負荷が少なくて済む、動物たちが病気になりにくく無駄な抗⽣物質などを投与せずに済む、などのメリットがあると⾔われている。
「それに加えて、糞尿などのアンモニア臭が室内にこもらないため、⾁の臭みが軽減されることもわかりました」(條々さん)
また⾺の肥育も⾏っており、こちらも⾺刺しとして出荷すると即完売するほどの⼈気だ。しかし、⾺刺しにできる部分は⾷⾁⽤部位全体の約1/2と少ない。当初、残った部位をすき焼き⽤などで販売していたが、さらなる活⽤法を探った結果、ウインナーソーセージへの加⼯を始めた。
「⾺⾁だけでは⼝当たりがパサパサしてしまうため、豚⾁を混ぜるのですが、その⽐率が難しい。市内にある⽼舗の割烹にご協⼒いただき、何度も試作を重ねてもっとも最適な配合を⾒つけました。
現在はご協⼒いただいた割烹に卸しているほか、近隣の道の駅でも販売しています」(⼩泉さん)
⾺⾁は⾚⾝が多く、低脂肪・⾼タンパクな⾷材だ。そこに、従来ではソーセージ⽤にするにはもったいないと⾔われるほど⾼品質な豚⾁・豚脂を混ぜ込み、⾁本来の旨みがギュッと詰まった味わいが楽しめる。
市販品よりも低カロリー・低脂肪で、アスリートにもおすすめだ。
「⼤⽉のびのびファーム」の特徴は、それだけではない。
餌は国産素材や残滓(ざんさい)をベースにしたオリジナルのもので、動物たちの健康と環境負荷の双⽅に配慮。放牧地は柵を⾼く設けるだけでなく、2重に丸太を埋め込み、⽳を掘る習性のある野⽣のイノシシが潜り込めないよう徹底した対策をとる。
肥育した家畜は県内の屠畜場で処理し、⾃社で加⼯成型から販売まで⼀貫して⾏い、品質を把握。安⼼・安全へのこだわりを徹底しているのだ。
ふるさとを代表する特産品に育て上げたい。その思いがあるからこそ、視線の先にはいつも消費者の存在がある。
“⽣産のプロ”と“経営のプロ”が
新たな特産品開発に挑む
代表を務める條々さんは、県の畜産課に勤務しブランド豚の開発や品種改良などで実績を挙げ、⼭梨県畜産協会の専務理事を務めたほどの⼈物だ。その彼が定年を迎えて退職後、「⾃分が本当においしいと思う⾁を⼤⽉市の特産品として全国に届けたい」と、⼩泉さんに声をかけたところから「⼤⽉のびのびファーム」の事業がスタートした。
⼩泉さんは銀⾏マンとして定年まで勤め上げ、退職後はそのマーケティング⼿腕と⼈脈を買われて、ふるさと納税に向けた事業者の掘り起こしや商品開発事業を県から任されている。これまでに県内の事業者と組んでシャインマスカットの栽培・商品化、⽇本ミツバチのはちみつ販売などを成功させてきた。
⽣産のプロと経営のプロが定年後にタッグを組み、これまで培った技術や知識、⼈脈を駆使して始めた新事業。しかし、実際に商品を出荷するまでには4年の歳⽉が必要だった。
畜産は周辺住⺠の理解を得ることが難しいが、のびのびファームのスタイルなら臭いもほとんど気にならない。
「やはり畜産というと周辺樹⺠には臭いなどを気にされる⽅も多く、場所探しは難航しました。ようやく⾒つけた今の場所も、当初はかなり反対されましてね。実は以前、別の業者が同じ場所に畜舎を持っていたことがあり、臭いで嫌な思いをしたことがあったそうです。最終的には共通の知⼈に⼝添えをお願いし、何度も会話を重ねてようやく借り受けることができました。」
地域で何かを始めるには、⼈と⼈の信頼関係が何よりも⼤切だ。ここで、⼩泉さんが⻑年培ってきた⼈脈が効いた。冷蔵設備兼事務所として使っている店を借りることができたのも、廃業する⾺牧場から⾷⽤⾺を譲り受けることができたのも、⼩泉さんの⼈脈からだ。
お互いがお互いの役割を全うし、最良の結果を出す。こうして、⼤⽉市に新たな魅⼒ある特産品が⽣まれた。
⾃分たちで終わらせない。
持てるスキルを次の世代へ
現在、「⼤⽉のびのびファーム」の商品は、ほとんどがふるさと納税の返礼品として出荷されている。昨年から出荷をはじめ、経過も順調だ。ふるさと納税の注⽂は12⽉がピーク。「この状況だと、今年の12⽉がすごく楽しみ。出荷が間に合わないくらいになるんじゃないかな」と、2⼈とも顔を綻ばせる。
「今後はふるさと納税以外への展開と6次産業化に取り組んでいきたい」と、⼩泉さん。
「そのために、都内の企業を中⼼に積極的にビジネスマッチングを⾏っています。先⽇も都内の⾼級スーパーのバイヤーが⾒学に来てくれました。そのほかにも、⼤⽉市で開催されたe-sports⼤会に出展し、⼤変好評をいただいたんですよ。
今までは2⼈でやっていましたが、1⼈増えたことでそういう動きもできるようになりました。これからはSNSなどでもどんどん発信していきたいですね」(⼩泉さん)
また、事業承継に向けての準備も始めたそうだ。
「今年の7⽉に1名、⼈を雇いました。彼はもともと⾁の処理を⾏っていた精⾁加⼯のスペシャリスト。この事業の6次産業化も視野に、彼には私たちが持っている経営や畜産の知識・技術を学んでもらい、ゆくゆくはこの会社を任せたいと考えています」(⼩泉さん)
「退職後の仕事としては、毎⽇がとても忙しくて充実しています」と語る2⼈。ベテランが持てるものを注ぎ込み、次の世代が継承・発展させていく。
地域における「ものづくり」の理想が、ここにあった。
【取材協力】大月のびのびファーム株式会社
https://r.goope.jp/nobinobifarm/
大月市へのふるさと納税はこちらから
https://www.city.otsuki.yamanashi.jp/shisei/shisaku_keikaku/furusatootsuki_ouenkifukin02.html
