12月20日、富良野市山部地区。 本来であれば雪景色の中に静寂が広がるこの季節。
この日は最高気温7℃、最低気温3℃と、氷点下が当たり前の北海道・富良野にしては、不思議なほど生暖かい空気に包まれた一日でした。

しかし、日が落ちてからの「山部福祉センター」の室温、いや、そこに充満していた“熱気”は、そんな外気の比ではありませんでした。
今回で17回目を迎え、地域の年末の風物詩ともなっている「
地酒と山部を食す会」。
地域おこし協力隊としてこの地に住み、日頃から地域の活動を見てきた私が目撃した、熱くて温かい一夜の様子をレポートします。

180席が満員御礼。国籍も言葉も超えた「乾杯」のマジック

会場に入って最初に感じたのは、物理的な熱さと、圧倒的な「人の圧」。そして、鼓膜を心地よく震わせる轟くような活気でした。
用意された約180の席は、開始直後からほぼ満席。テーブルとテーブルの間を縫って歩くのがやっとというほどの盛況ぶりです。

見渡すと、古くからの顔なじみである地域の方々が肩を組んで笑い合っているのはもちろんですが、驚いたのは外国からの参加者も非常に多かったこと。
近隣に滞在している方やスキーヤーの方だそう。 最初は少し緊張した面持ちだった彼らも、グラスを持てば関係ありません。「乾杯!」 言葉は通じなくとも、グラスを合わせるだけで一瞬にして心の距離が縮まります。
あちこちで笑顔の乾杯が交わされ、会場は瞬く間に国境のない一つの大きな居酒屋のような一体感に包まれました。
このオープンな空気感こそが、山部という土地が持つ不思議な引力なのかもしれません。

キリッと辛口の地酒と、行列ができる「手作りオードブル」の誘惑

この日の主役は、イベント名にもある通り、なんと言っても地酒「富良野やまべさんろく」
キリッとした辛口の味わいが特徴の日本酒です。口に含むと、米の旨味が広がりながらも、後味はスッと切れるような爽快感。飲み飽きしないその味は、まさに酒好きのための酒と言えます。

そして、その最強の相棒となるのが、山部地区の事業者さんたちが丹精込めて手作りしたオードブルの数々です。
「食す会」の名の通り、開始直後からオードブルの前には長蛇の列が! 煮物、漬物、デザート……。
おしゃれなケータリング料理とは一味違う、茶色くて温かい、いわゆる「お母さんの味」や「プロの惣菜」が所狭しと並びます。

地域のお母さんたちの手作り料理を皿いっぱいに盛り、辛口の日本酒を流し込む。 濃いめの味付けの料理を、冷えた辛口の酒がさらりと流していく。
この相性の良さは、まさに土地の味を知り尽くしているからこそ成立するマリアージュです。 

「こっちもお願い!」「ありがとう!」飛び交う声と笑顔の連鎖

会場内を歩いていると、常にどこかのテーブルから楽しげな声が聞こえてきます。 今回はスタッフとして参加していた私。日本酒の瓶を抱えて会場を回ります。

「こっちのテーブルもおかわり頂戴!」 

次から次へと飛んでくるリクエスト。スタッフとしてお酒を運ぶたびに、参加者の方々から返ってくるのは「ありがとう」「ご苦労さん」という温かい言葉と、屈託のない笑顔です。
普段は静かに仕事に勤しんでいる方も、この日ばかりは饒舌に語り合います。
ただお酒を飲むだけのイベントではなく、ここには確かに「人との繋がり」を楽しむ空気がありました。
酒を酌み交わすことで、日頃の労をねぎらい、来年への活力を養う。そんな地域の営みが、この会場には凝縮されていました。

最後は会場全員で「1、2、3、ダー!」富良野の底力が爆発した瞬間

ワインも日本酒も飲み放題ということもあり、宴もたけなわ。参加者のボルテージが最高潮に達したのは、会の終わりの締めの挨拶の時でした。

登壇した副市長がマイクを握り、会場を見渡します。 「最後は元気よくいきましょう!」 その掛け声に合わせ、180人の酔っ払い……いえ、参加者全員が立ち上がり、拳を握りしめます。

「いくぞー! 1、2、3、ダー!!!」

まるでプロレス会場のような、地響きにも似た大歓声がホール全体に響き渡りました。 老若男女、国籍も問わず、全員が一つになって拳を突き上げる光景。 このノリの良さ、この爆発力。これこそが、農業という厳しい自然と向き合いながら生きてきた富良野の人々の底力であり、最大の魅力なのかもしれません。

おわりに

特別大きな観光施設や派手なアトラクションがあるわけではない、実直な農業の町・山部。 けれど、ここには「楽しむときは全力で楽しむ」「来るものは拒まず受け入れる」という、人間味あふれる人々がいます。

外に出ると、火照った体に夜風が少し涼しく感じられましたが、心はポカポカと温かいままでした。
「楽しかったな」「また来年も絶対に来よう」。 多くの人がそう思いながら、千鳥足で、しかし確かな満足感と共に帰路についたであろう、熱狂の夜でした。 この熱さを体験しに、次はあなたも山部に来てみませんか?

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