こんにちは。大田市五十猛町在住の西原貴美です。
今回は、五十猛町の重要無形民俗文化財、「グロ」についてご紹介したいと思います。

こちらに移り住んで4回目の冬、念願かなってようやく初めて実物をこの目で見てきました。この数年はコロナの関係で開催されておらず、去年4年ぶりに復活した行事ですが、去年は都合がつかず見に行けなかったので今年はとても楽しみにしていました。

こちらがグロの全体像。思っていたよりかなり大きいです。

ここでまず、「グロ」って一体なんなの?という疑問にお答えしたいと思います。
名前だけ聞いても、全く想像がつかないですよね。

私自身も、近所の方に「竹の小屋の中でお餅などを焼いて食べるもの」という話は聞いていたけれど、自分で調べてみるまでは「???」という感じでした。とんど焼きのようなものを想像していたのですが、実際に見てみると予想をはるかに超える規模と内容で驚きました。

「五十猛のグロ」は、国の重要無形民俗文化財に指定されていて、1月の11〜15日の5 日間、海沿いの大浦地区というところで営まれます。なんと300年以上の伝統がある小正月の行事なんだそう。
「グロ」というのは、一年間の豊漁と健康を願う行事の名称で、「歳徳神(としとくじん)」という神様を迎えるために作る円すい状の小屋の呼び名でもあります。小屋の中では火をおこし、その煙を浴び、そこで焼いたものを食べることで一年間の無病息災や豊漁を祈願します。

文献に残っているのは一番古いもので江戸時代だそうですが、それ以前から行われてきたとも言われ、50年ほど前にはここにも複数のグロが建っていたそうです。現在では、地区全体で1つのグロを作り、行事がおこなわれています。

近くで見るとなかなかの迫力。大きいです。

写真のように、高さ15mほどの青竹二本を中心に、木の杭や竹を使って骨組みを組み、笹で壁を、ゴザで屋根を葺いて作られます。大きさは直径約7m。かなり大きな小屋です。
グロのそばにいた地元の世話役の方のお話では、この辺りの山からこの真っ直ぐな青竹を探し、それをここまで持ってくるのが何より大変なのだ、ということでした。

屋根はゴザ。この日は晴れていたけれど、雨が降るとどうなるんだろうか…

こちらがてっぺんの様子。色とりどりの紙が飾り付けられていました。

いよいよ、緊張しながらも中に入ってみます。
事前に、近所の方に「誰でも勝手に入っていいし、お餅やスルメを持っていって炙って食べるといいよ」とは聞いていましたが、初めてのことなのでちょっと遠慮して、今回は中を見学させてもらうだけにしました。

中の様子。火が消えないように世話役の方が薪をくべていました。

地元の方が、網持参でお餅を焼いていました。奥の紙袋の中身はお正月飾りだそう。

中には、かなり大きめの焚き火が3つ。焚き火の周りはゴザが敷いてあります。
私が行ったのは平日の昼間だったので、かなり空いていて、奥では地元の方がお餅を焼いていました。お話を聞いてみると、毎年ここでお餅を焼いて黒砂糖で食べているそうです。なぜ黒砂糖なのかは不明とのこと。でも美味しそう。私が何も焼かないのを見て、「手ぶらできたの!?」とびっくりされました。
ここで焼いたものを食べると一年間元気で過ごせるからね、と聞いて、来年は絶対にお餅を持ってこよう、と固く誓いました。

小屋の中から見た屋根、しっかり組まれています。

小屋の中から屋根を見ると、青竹のてっぺん近くに海藻のようなものが吊るされていました(写真下部中央)。地元の方に聞いてみると、これは「ホンダワラ」という海藻で神様へのお供え物だそうです。

室内から見た壁。笹がぎっしり。

外は強い風で、立っているとかなかなり寒かったのですが、中に入ってみると意外なほど暖かくて驚きました。笹でできた壁がほとんど風を通さず、火をおこしていることもあって、ほんのり暖かく過ごしやすい気温でした。ただ、中は煙が立ち込めているので、ほんの数分で全身スモークされた良い香りになっていました。
そして、来年は全身燻されても問題のない服装で行こう、と、再び固く誓うのでした。この日は、娘が通う小学校でも午後からグロの行事に参加することになっていて、娘は朝から小屋で焼いて食べるちくわを準備してウキウキ。
グロの行事に参加した後は、近くの韓神新羅神社(からかみしらぎじんじゃ)で地域の歴史やグロについての講義も受けてきて、私よりもかなり詳しくなって帰ってきました。小学校では毎年行っている取り組みだそうで、本当に良い経験をさせてもらっています。

私たちが住んでいるのは五十猛町でも山の方なので、グロが行われる大浦漁港までは少し距離があるのですが、漁港のすぐそばに住む同級生たちはグロが建っている間は、期間中、何度も何度も足を運ぶそうです。小さな頃から、休みの日は一日中グロの周辺で遊び、学校から帰ってきたら子供達だけでお餅やスルメを持って遊びに行き、長い時間を小屋の中で過ごすのだと聞きました。

そうやってたくさんの地域の方が訪れた後、グロは15日の朝に解体され、正月飾りなどと一緒に焼き払われて終わりを迎えます。自分が住んでいる地域に、こうやって何百年も続く重要無形民俗文化財があるなんて、住むまでは全く知りませんでした。全国的に見ても、なかなか珍しい形の小正月の行事だということで、もっと詳しく調べてみたいと思うようになりました。
来年は、食べ物を持参して小屋の中で焼いて食べるのはもちろん、グロを建てるところや、焼き払うところも見学に行って、いろいろなお話を聞いてみたいです。

今回もお読みいただきありがとうございました!

 

▼西原さんの記事一覧

《vol.1》江戸末期に建てられた古民家と出会う
《vol.2》引越しと改修 床を貼り壁を塗る
《vol.3》とある夏の日 食堂店主の朝から晩まで
《vol.4》私の好きな場所
《vol.5》秋の味覚とご近所さん
《vol.6.》秋の草花あそび
《vol.7》我が家のおせち
《vol.8》五十猛のグロを見に行く
《vol.9》「手前味噌」をつくる

◆◇◆━━━━━━◇ プロフィール ◇━━━━━━◆◇◆

【名前】西原貴美(にしはらたかみ)
【居住市町村】大田市五十猛町
【UターンorIターン】Iターン
【移住前の居住地(都道府県)】岡山県
【年代】40代
【お仕事】料理人 / フレル食堂店主
【好きなこと】犬、植物、本、ごはん、煎茶道、着物
【Love shimaneとしてひと言】
海と山との距離、町の大きさ、気候。その全てが、私にはちょうどよくて住みやすい。特別なことはないけれど、季節ごとの五十猛での日々の暮らしを綴ります。