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大企業の”地方創生”分野への参入が加速している
雇用環境の激変で “良い会社” の定義が変わる
少し前に、トヨタの社長や経団連の会長から「もう終身雇用は継続できない」という発言が相次ぎ、大きな話題になりました。
同時に、富士通やみずほ銀行などが大規模な早期退職を加速するニュースが相次ぎ、また最近では、キリンの業績好調の中でのリストラも大きく報じられました。GAFAなどの外資企業の支配からの影響、AIやロボティックスの進歩による、将来的な必要人員の見直しなどなど、事業環境の見通しは相当な困難を極めます。共通して言えるのは、大きな人員を抱える企業の殆どは、数年から10年以内には「かなりの人数を減らさなければならない」という課題に直面していることです。一方で、そのために「リストラを声高に宣言する」だけでは、当然新たに有能な人材を確保することが困難になります。それでは企業が存続できないのは明白です。
また個人レベルでも、人生100年時代の到来を見据え、ライフ・シフトを繰り返す人生戦略を考えることは必須になってきました。
今の30代以下で、「この会社に定年まで勤めたい」と考える人は、おそらくどの企業でも少数派になりつつあるでしょう。
こうした環境の変化の中では、勤める社員にとっての「良い会社」の定義は大きく変わってきています。
つまり、「長く安定して勤められる=良い会社」という時代は終焉し、今や「次にどれほど可能性のあるライフ・シフトを描けるか」が、良い会社の条件になりつつあるということです。すなわちどんな企業も「目的地」から「通過点」にならざるを得ないということでもあり、さらに誤解を恐れずに言えば「いい踏み台になれる会社」こそが「良い会社」の条件になってくるのです。
こうした時代背景と、企業の”地方創生”分野への進出は、実は深く関わってきています。
先進企業の “地方創生戦略” の先にあるもの
企業の”地方創生”への取り組みの狙いは、一般的な目線のレベルと、それ以上に先進的な企業が、内心本気で考え始めている「深い戦略」と分けて理解する必要があります。
一般的には、もちろん、自社事業の展開を少しでも「地方」に展開し、その可能性を純粋に探っている面はあります。
農業などの一次産業もかなりのスピードでIT化が進んでいますし、地域の中小企業が特に遅れていると言われる生産性向上へのソリューションなどは、「地方創生」という看板を掲げて注力すべきマーケットです。
また、株価などに反映する企業評価やIR、CSR的な姿勢を表明する分野としても、「地方創生」はどの企業でもテーマとして掲げやすくもあります。
更には、昨今の「SDGs」への関心や意識の高まりも大きく影響しています。掲げられている17の目標の中でも「11.住み続けられるまちづくりを」「14.海の豊かさを守ろう」「15.陸の豊かさも守ろう」などは、地域課題とそのまま重なるテーマです。CSV経営を掲げる企業も増え、こうしたテーマと事業ミッションを重ねる経営を強める企業は、今後ますます増えていくでしょう。
それは、先に述べたような、これから時代の社員にとって「良い会社」になるにはどうしたらいいかを本気で考えている企業です。つまり、社員の次の「ライフ・シフトを創出する」ための選択肢として、地方の事業展開を考え、地域事業者との共創を模索し、都会に偏る働き方さえも見直していこうという検討の先に「地方創生」があるのです。企業の地域での取り組みが、やがてはライフシフトを求める社員の次のステップにつながる選択肢になると見据えて、その場を模索しているのです。
そもそも「地方創生」というのは、ややもすれば「困っている地方をどうやって助けようか?」という課題設定に見えがちですが、本来はそうではなく、地方と大都市圏の人口格差を是正し、少子高齢化に歯止めをかけようというのがその本旨です。そういうレベルで考えれば、こうした先進的な企業の地方創生への考え方は、「地方創生」の本旨に完全に合致するものです。
こうした深い戦略を頭に描き始めている企業は、実は結構増えています。実際に、自分は複数の企業の「地方創生」担当部門の方から、同じようなお話を何度となく伺っています。
こういう話をすると、一部の人からは、「それって大企業が、体のいいリストラをかっこつけてやろうとしてるんじゃないの?」という意見もでてきます。まあそれも、全く違うといい切れない部分も、場合によってあるかもしれません。しかし、自分の経験から言えば、やはり本当に先を見据えた経営者が率いる先進企業は、そういうレベルだけでは立ち行かないことは、もう十分理解されています。その上で、本当にかつてないレベルで、本気で企業を変えようとしているし、そうしないと生き残れないと考えているのです。そうでない会社ももちろんあると思いますが、未来を本気で見つめている企業も数多くいるのも、また事実なのです。
「地方創生」という言葉が消える日も近い?
そう考えると、「地方創生」という課題は、個人にとっては自らの人生をより良く描くライフ・シフトのシナリオのひとつでもあり、企業にとっても激変する時代を乗り越えサステイナブルな経営を目指す必須テーマとなってきているともいえます。すなわち、「地方のため」ではなく「自分のため」「自社のため」ということです。これはある意味非常に健全で、あるべき姿だと私は考えます。なぜならこの課題は、日本が抱える殆どすべての課題の根源的なものだからです。それに対して全ての日本人が、ようやく当事者になってきたということです。となれば、それに対応することが当然となり、いい意味で「地方創生」という言葉自体は消えてくるのかもしれません。
それでも楽観的にはなりきれず、「間に合うのか?」とか「出口は見つかるのか?」という不安は拭えません。とはいえ、こうした段階を迎えていることへの希望もまた強く感じます。
以上のような観点にまで踏み込むと、一般的に考えられている以上に、大企業の「地域戦略」は注目すべきものだということがおわかりいただけたかと思います。そうした企業との連携をうまく進める地域が、生き残る可能性を高めている面もあるかもしれません。当然「国」も、そうした動きを認識していると私は思います。
来る2020年も、ますますそうした「ライフシフト創出型」の”良い会社”が増え、その活動地域を広げていくことを心から望むと同時に、私達も何か少しでもそうした動きに関われたらと思わざるを得ません。
文:ネイティブ倉重
【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。