2020年2月9日(日)13時より、大分県庁新館において、『関係人口サミットin大分』が開催されました。(このサミットは、2018年度から大分県事業として行っている関係人口創出型広報事業「大分で会いましょう。」プロジェクトの一環として開催されました。)

サミット当日には、大分県内をはじめ全国から、定員をはるかに超える約200人もの方が来場。「関係人口」に関わる活動や研究を行う8名の登壇者を中心に、それぞれの体験や想いを語りながら、‟関係人口”について多くのヒントやキーワード、具体例を話し合う場となりました。

今回のサミットでは、モデレーターを務めるソトコト編集長・指出一正さんを中心に、

1関係人口とは何か その成り立ちとは
2関係人口で起こること
3関係人口のつくり方 

の三つの切り口から議論が進行しました。

サミット前日にも、登壇される皆さんの間では関係人口について白熱した議論が交わされていたようで、それをふまえて、各地域で関係人口がどのように関わり、どんな影響をもたらし、その先にどんな未来が想定できるのかを、登壇者それぞれの目線で語る場となりました。

‟関係人口”とはなにか 個の感じた想いが生み出す行動と関わり方

登壇者のみなさんはどのようにして、現在の拠点地と関わりながら今にたどり着いたかのか。自己紹介の中で語られた中で多かったのが2011年3月11日に発生した「東日本大震災」です。

それぞれの方が日常を過ごしていたはずなのに、非日常を目の当たりにし、そこから考え、感じ、行動を起こすに至った、大きな転機が、東日本大震災だったと言います。

現在は宮城県気仙沼に拠点を置き、関係人口から定住者となった、「ペンターン(半島)女子」根岸えまさん

学生時代に復興ボランティアとして気仙沼をおとずれた際、復興に邁進する漁師のおじいちゃんに出会ったのが移住の決め手となったと言います。

何度も足を運ぶうちに、漁業復興を目指すおじいちゃんがかっこいい大人に見えた。困っている地域の力になりたい、と思うようになりました。

福田まやさんが、東京から大分県中津市耶馬渓町に移住したのも、震災の1年後。かねてより、田舎への移住願望があった福田さんですが、今では耶馬渓に関係人口の流れを作る側として、デザイン制作の会社を営みながら、イベント開催などの活動をしています。

長野県の小布施で地域政策などの事業に携わっている大宮透さん。東日本大震災の直後は、岩手県陸前高田市で活動をされていました。

最初はただ通っていただけ。その中でやがて「自分も何かできるんじゃないか?」と思って、企画や運営の活動に携わるようになり、地域と関わるようになりました。

観光(交流人口)は超えるが、ある土地や人に関わり、しかし移住(定住人口)には至らない…モデレーターの指出一正さんが提唱する関係人口とは、一言でいえば『観光以上・移住未満』。

指出さんは、

実は、関係人口的な動きは、社会的にショッキングな出来事を機に段階的に現れています。世界的な潮流としてはリーマンショック。2004年の中越地震でも、災害ボランティアをきっかけに日本の若者が山間部へ流動しました。

ある土地を観光で訪れておもてなしを受ける単なるお客様としてではなく、ある土地の人や地域に関わることが”関係人口”のルーツであり、ハードな関係人口とソフトな関係人口があることを認識しておきましょう。

とまとめました。

関係人口がもたらすもの 起こることとは

東日本大震災をきっかけに、流動することの大事さ・人間関係の変化を思い、それまで生活していた東京から福井県南越前町へ移り住んで、流動創生事業を始動した荒木幸子さんは、

福井の私が住んでいる集落の奥には限界集落に近いような所もある。私たちは人の流動が行動や考えの固着を取り払う効果があると考えて流動創生事業に取り組んでいるが、地方地域には、生業や家族のこと等、様々な事情で今住んでいる地域を離れることのできない人たちもいる。動けない人たちの所に流れを作って固着を解消する必要も感じている。

よその人が地方地域に関わることで地域にもたらすもの、地域の人たちがよその人たちの視点を得るといったことが、地域の人を救っている部分もきっとある。それを伝えて、可能性を信じていくこと。それが本当に地域の根本的な救いになるかどうかはわからない。でもあきらめればそれは致命傷になる。

と言います。

島根県でローカルジャーナリストとして活躍する田中輝美さんも、

流出が起こることをあきらめて残念がっているところに、関係人口がフッとかかわることで、良さを見つけていい部分を地域の人が再確認する効果がある(=よそ者効果)。

例えば、地元の人だけでは手の届かない草刈りを応援する隊や、人が足りずに存続が難しいお祭りの準備手伝いなど、固定した関係だけでなく、新しい人=‟よそ者”が関わることで、お互いにやる気や力をもらえます。

そして、

ハードな関係人口は、当事者意識を持って、その地域の人と同じ目線で課題解決に取り組んでくれる、地域にとって大切な存在。観光は、地域を好きになってもらう入り口としてはとても大切だけれども、それだけじゃもったいないし、地域に愛着を持ってもらい、より深く関われる仕掛けがあるといい。

すると、

「普通の観光では起らなかった‟+α”が起こる。入り口としての「ソフト」も、その後の継続的な関わりとしての「ハード」も、どちらも大事でしょう。

と大宮さんが付け加えました。

関係人口分科会 具体例やアドバイスの共有

第二部は分科会として、来場者と登壇者を2つのチームに分けて、テーマや質問をもとに進行しました。より近くで登壇者と入場者がディスカッションを交わし、疑問やアドバイスを共有する時間となりました。

分科会①では、『県の事業として創生推進をしようと案を練ると、そこで必ず予算・効果をたずねられる。一つの取り組みに対して費用対効果を証明する方法はないか?』といった質問が出ましたがこれについて、

仕事で大分県を訪れたのを機に、竹田市に移住した馬渡侑佑さんは、

関係人口の政策で端的な予算や評価は…無理だな…と分かることがむしろ大事。分からないままだと、無理な政策を作ってしまいます。

関係人口の本質は民間の方がやりやすい。でも、問題の穴ぼこを見つけるのは自治体の方が実は得意。関係人口はとても多様だし、それまでその地域になかった文化すら運んでくれる。それを地元にどうやって落とし込むか。ここに、長崎の出島のような面白みがあるし、関係人口の人たちに『やってもらわなきゃ』と思わず、問題や困りごとを明らかにしてもっと大きく広く関係してもらうことが大事

と回答。

つづいて田中さんが

関係人口は、都市の人たちの繋がりたいという想いから生まれた現象。それなのに地域の人が地域の振興に利用しようとする動きとイコールになっているのがいちばんの不幸です。

行政側としては説明が大事な場面もあるだろうけど、KPIのように短絡的な目標や効果を数字で示すのは難しい。

例えば、集落の祭りができなくなった時、それなら運営にあと何人増えたら実現できるのかとか、その人数は算出できる。大事なのは、課題に対して解決するための”質”をみること。何を解決したいのか。どんな穴を埋めてもらいたいのかが本質です。

と答えました。

これまで住宅市場の調査研究をかさね、住まいや都市と関係人口について提言活動に従事している島原万丈さんは、ここまでの流れをふまえて

旅行・通勤・通学・観光客といった交流人口に対する施策とは違い、関係人口は‟役割”がキーワードになる。例えば、農業体験ツアーでもお金を払って体験させてもらう=観光の域。農作業を手伝うべきか・効率よくできないか、と客を越えて畑に入って作業(役割)を果たして、穴ぼこのような課題が埋まる感覚は観光にはない。

関係人口で関わっている人たちにとって、関係人口だとラベリングされることに全く意味はなくてむしろ、やっている本人のモチベーションと困っている人たちの問題意識が重要。関係人口という定義論ではなく、かかわり方も問題も多様だし、段階的なグラデーションで構成される関係人口という概念の、どこの問題または課題を解決しようとしているか?を見極める必要がある。

とまとめました。

分科会②の、『地域集落の神楽などの保存会など、その土地の歴史や伝統を守るために固定化するとアクティブに動けない。地域活動に入ると「もっと深く、頑張れ」と言われる。うまくやるコツはないか』という悩みについて、

福田さんは、

深い関わりでも、浅い関わりでも、何かしら地域のためになっていると思いますよ。もし数年で辞めることになっても、短く濃い関わりもあるだろうし、もちろん、合わないこともある。それを見極めたり、何かをやり終えて離れる事は悪いことではない。
もしくは、一旦離れても、何かをきっかけにまた関わることもあるかもしれない。いろんな形を受け入れるのが、地域の豊かさを作ると思う。

と回答。

大宮さんは、

自分が一から関係性を作ってきたという自負のある移住者は、その後に入って来た人に対して厳しくなりがち。『自分が頑張ったんだからお前も頑張れよ』という‟パワハラ”のような行動や言動をとらないようにすることも、受け入れ側のマインドとしてとても大事だ。

これは、移住者だけでなく、地域にずっと住んできた、地域に地縁・血縁のある定住者にとっても大切なこと。受け入れる側が多様性に寛容にならなければいけない。一年に一度来る人も、楽しいから来てくれるのであって、要は、関わり方の深さの問題。長期的に見ることの重要さ。

すぐ働いて汗を書いてくれる人が良しだと思いがちだけど、でもその土地を知ってくれるだけで、ゆくゆく好転することがあるかもしれない。それで成功なんです。

関係人口の生まれ方と創り方

分科会を終え、それぞれの会の内容を共有したあと、今後の関係人口の在り方や考えについて登壇者がお一人ずつコメントしました。

その中で皆さんから出た言葉は共通して、

その地域にかかわれる余白のようなものがある、未完成にも思えるような、‟関わりしろ”のある地域が、関係人口受け入れに大きな強みになるし、関係を求める人たちがやってくる。

そこで、弱みを解決するためのコミュニケーションが取れたら関係が大きな意味をなすし、頼り方と譲り方のバランスをとるのが関係人口にはとても大事だ」ということ。

荒木さんは、

先の未来は誰にもわからないけど、上手くいけば小さな集落、
遠隔地どうしで助け合ってなんとか生きていけるかもしれない。一つ一つの関係を大事に作っていくことが必要です。これからの厳しい時代をみんなで乗り切っていくために、そういった関係を国土の上でいかにつくっていけるかどうか。

関係人口を受け入れる側のアドバイスとして、福田さんは、

地域が広い心で受け入れようという姿勢が大事。でも、ただ待っているだけでは何も変わらないので、少しでも関係の歯車を動かすために、地域側の最初の一歩も必要です。自分自身も耶馬渓で、どんどん動いていきたい!と思っています。

都市部の人と地方のかかわり方について、田中さんは、

地域に関わりたいという人が都市圏で増えているが、一時的なブームではなく大きなトレンドだと思っている。そんな流れに社会も向かっていると思うし、ここが足りない!をどんどん発信していったら良いと思う。地方の時代が来た!と思っています。

島原さんは、

20年後に、人は一人で生きていく時代になる。だったら好きにしたい!という世の中にしたくないんだろうなという想いを、関係人口から感じる。

都市(例えば東京のXX区)にかかわっている、とはなかなか言えないけれど、地方のどこどこに自分は関わっている、と自己紹介する若者が増えてきた。つながりと自由の安定の中でバランスさせることができるのが関係人口だし、政策的な動機はあっても皆が楽しめる時代になったほうがいいな、と思う。

根岸さんは、

大分のいろんなところにワクワクがあふれていて、そんなワクワクが‟か関わりしろ”になると思うし、一緒に何かやりたい!と思わせる魅力だと思う。

大分をはじめとした地方で、これから関係人口を創っていくためのヒントやポイントがすべて集約されていると言ってもいいほど、言葉やアドバイスに熱量を感じました。

キレイに見える観光にスポットを当てて、大分に来てください!と発信しても、伝承や慣習にとらわれ気味になり、ハッとするような発想や新しい風は入りにくくなります。

集落や地元地域が「どうにかしてください」と行政を‟頼る”だけではなく、困りごとを解決するためにアクションを起こそうとする人を、お帰り・ありがとう と受け入れながら、行政を巻き込む…これが関係人口と地方創生のあり方なのだろうと感じました。

今回の『関係人口サミットin大分』は、困りごとのある地域の方にも、これから政策をスタートする行政の方々にとっても、大きな意味のあるイベントになったはずです。

共感と発見、興奮が冷めない中、指出さんがサミット開催宣言書を読み、同イベントは大盛況で幕を閉じました。

EPSON MFP image

サミットのために全国からお越しくださった登壇者のみなさま、ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました。