新しい働き方のキーワードとして注目される「ワーケーション」。ワークとバケーションを合わせた造語で、観光地やリゾート地でテレワークを活用しながら、働きながら観光するスタイルです。国が推奨し始めたこともあり、新しい働き方として導入を検討する企業も増えてきました。ワーケーションを導入したある大手企業の調査では、社員の7割がポジティブな変化を実感し、生産性は平均30%向上したといいます。
ワーケーションが働くことにどのような変化をもたらすのか、今後の変化への期待を、2015年の創業時よりワーケーションを取り入れている株式会社IGLOOO(イグルー)の代表小林さんにお伺いしました。
この記事の目次
創業時からワーケーション推奨。イグルーのスタイルとは?
海外向けの訪日観光促進、プロモーション、支援事業を中心に行っているのがイグルーです。東京、京都、福岡、鎌倉、沖縄に拠点を構え、15名のスタッフが自宅や旅先から仕事を行っているスタイルでの運営を続けてきました。
主に地方自治体をクライアントとし、日本在住の外国人の方が取材し、国内の魅力を海外に発信。「観光の広告代理店です」と、小林さんは言います。
特定の地域というより、日本という地域をプロモーションするのが仕事だと考えています。できる限りスタッフにもいろいろな地域を知ってほしいと思っているんです。それが、リモート中心の働き方を作っている理由ですね。
実際に代表である小林さんも、月のほとんどを旅先で過ごすといいます。コロナ禍により、日本全国で進んだ在宅ワークを中心とするリモートワークですが、イグルーはワーケーションの導入としても、リモートワークのスタイルでも、先進的であったといえます。
俯瞰して日本を知るには最適なワークスタイル
イグルーがワーケーションを取り入れ始めたのは、2016年6月。創業して7ヶ月後のことでした。
もともと営業するために、日本を飛び回るところからスタートでした。パソコン1台あれば仕事ができるので、社長である自分自身がそのスタイルになったので、全社的にそのようになったような流れです。
通勤時間に疲弊しないようにというのと、極力居心地良い場所で仕事してほしいという思いがありますね。
一週間ごとに移動するスタイルを実践しているのが、メディア事業部グローバルメディアプランナーの田邉さん。最低限の荷物だけをもちながら、ゲストハウスやホテルに宿泊しながらワーケーションを実践しています。
フレッシュな気持ちになれるのが利点です。ずっと同じところにいるのが苦手というのもあり、いろいろなところで仕事ができるのが良いですね。
現地の人と知り合ったり、ひとりとつながるとそこから広がっていったりと、小さい町ならではの人と人のつながりを感じることも多いです。仕事の面でも、実際に現地の人が望んでいることがわかったりできて利点だと思います。
自分自身にとっての発見が第一。業務のためだけでも、仕事のためだけでもないかたち
イグルーがワーケーションの導入に成功しているのは、事業内容とマッチしているからという理由だけではありません。そこには業務への相乗効果以上に、ある思いがあります。
いろいろな地域を知ってほしいという気持ちがまずあります。地域に滞在するからこそ生まれる偶然の出会いや、地元の方との交流が大事だと思っています。せっかく遠くまで行って仕事相手とだけ話すのはもったいないですし、ある程度は自由に過ごしてほしいんです。必ずしも仕事と関係がある地域に行かなければならないこともなくて、自由度を与えることが大事だと考えています。
ワーケーションにおいては、観光というのを従来の観光のイメージのまま捉えないことも重要でしょう。実際にイグルーでは、「仕事の合間にランチしたり、空き時間に現地散策したりすること」も、立派な観光だととらえているといいます。
最適な組織のかたちを判断するために、ワーケーションをやってみる
様々な企業がワーケーションを検討している中、できる企業・できない企業というものはあるのでしょうか。
ワーケーションできるかできないかということは、仕事と観光を切り離して考えるのをまずやめるところからスタートではないかなと思います。気分転換で、違う場所で仕事をするというのでもなくて、現地にいって、そこで何をするかが大事になってくると思いますね。
そもそもの話になりますが、リモートでコミュニケーションがちゃんと取れるかどうかというのも大事でしょうね。きちんとその仕組を作ることが前提になるはずです。
リモートワークにおけるコミュニケーションは、多くの組織が直面する課題のひとつでしょう。フルリモートの体制をつくっているイグルーでは、どのようにその課題を解決しているのでしょうか。
リモートのコミュニケーションは、顔がわかっている組織の方がスムーズに移行しやすいと思います。そこで、新入社員をはじめ、ある程度なれるまでは、定期的にオフィスに出社してもらい、社員同士がアナログでコミュニケーションできる機会をつくっています。
毎月タイミングを合わせてごはんを食べにでたり、同じ時間に仕事するなどの工夫をしています。
そして、リモートにしたからこそアナログの大事さもわかったということも大きいそう。特定の場所があり、環境が整っている方が生産性があがる場面もあるなど、仕事そのものの内容について考える機会にもなったと言います。
ワーケーションを起点にした地域との人的交流から生まれるイノベーション
小林さんは、「一時的にワーケーションは流行るでしょうが、結果的にアナログに回帰するということも十分に考えられます」と語ります。それはワーケーションという働き方が、仕事そのものを見直すきっかけになり、その結果、仕事と組織を見直し、組織にとってより良い方に進むだろうと考えてるからです。
ワーケーションを通じて、優秀な人材が地域に入り、新しいビジネスや、機会が生まれるということは望めるかもしれません。結果として、地域発の何かが生まれる機会になるとより良いですよね。
ただ、覚悟というか、ある程度の気持ちをもってのぞまないとインパクトはでないでしょう。自治体をはじめ、地域側のワーケーション受け入れ体制が整い、訪れる側も、地域に踏み込むような姿勢になれば良いと思います。
改めてワーケーションという言葉を考えてみると、ワークとバケーションが組み合わさっている意味を考えることが大事だといえます。まだまだ仕事を終えて観光することという程度の認識も多い中で、本当に目指すべきは、働くことと、観光することの境界をまたいでいくことだといえるでしょう。
具体的には、その地域の飲食店でご飯を食べてみる、機会を見つけて現地の人と交流してみる、そんなふうに、地域の中に入っていく。そうすることで、働くことだけでも、観光することだけでも見えなかった景色に出会えるかもしれません。それがワーケーションの可能性であり、今後の地域発の取り組みにつながるきっかけといえるでしょう。
参考リンク: 株式会社IGLOOO(イグルー)webサイト