コロナ禍で生活拠点の見直しを考える方が増えています。テレワークが導入されたことで、都市部に住む必要性が薄れたという声も少なくありません。また、地域によっては移住者の受け入れを積極的に行い、さまざまな支援を提供しているケースが見られます。

とはいえ移住と聞くと、まだハードルが高く感じる方は多いかもしれません。興味はあっても、やはり先々を考えると仕事との兼ね合いが不安だったり、子供がいれば学校などの関係で一歩踏み出せなかったり。しかし遠くに移住しなくても、少し離れるだけで人生を一変させてくれるような場所はたくさんあります。
まずは近場から、人生をより豊かにできるような場所を探してみてはいかがでしょうか?私自身の体験から、そのメリットや場所選びのポイントについてお伝えします。

東京都を離れて自然あふれる千葉県印西市へ

私は少しずつ時間を経て、田舎エリアへと移り住んできました。
会社員時代、結婚当初に住んでいたのは東京都中野区。さらに長男が生まれて港区の台場と、通勤至便な都心暮らしです。
しかし都心の高い賃料、また狭く感じてしまう(私自身が東北出身だからかもしれません)周辺環境などに疑問を感じ、都内でも少し落ち着いた雰囲気のある葛飾区へ。その雰囲気が好きになり、区内に3階建て3LDKの新築戸建てを購入しました。

そんな中、家を購入した翌年に訪れた転機が独立でした。
自宅を事務所にして仕事を始め、家にいる時間が増加。今でこそコロナ禍で在宅ワークが推奨されていますが、私はすでに10年以上も在宅ワーカーです。
独立と同年に次男が産まれ、さらに4年後には三男を授かって5人家族に。すると広かったはずの家は少しずつ狭く感じ始め、将来設計を考えたとき色んな疑問が頭に浮かび上がってきました。

・3階建てって、年取ったら不便じゃないか?
・この働き方で、都内に住んでいる理由って何だろう?
・子育て環境として、もっと適した場所があるのではないか?

足腰が弱れば階段を3階まで登るのも大変。また、打合せや取材などで都内に出ることは多いものの、別に毎日というわけではありません(当時すでに週1回程度)。この時点で遠くに移住という考えはなかったものの、近隣エリアなら引っ越しても良いのではと思い始めました。
その瞬間に最高だと思った環境が、いつまでも最高だとは限りません。特に働き方や家族構成は、それを大きく左右するようです。

そこで、以下のような条件で家探しを開始。自宅の売却が必要だったので同時進行は大変だったものの、幸いにも見つけたのが千葉県印西市の賃貸マンションでした。千葉県印西市は人口約10万人で、千葉県北部に位置します。以前に住んでいた東京都葛飾区からは約30kmで、成田空港とのほぼ中間点です。

・都内にもアクセスが悪くない(とはいえ打合せや取材など都内に出る機会は多い)
・自然が豊かで子育てに適している(自然の中で子供を育てたい)
・もう少し広い家(狭さを感じないレベル)
・法人社宅で契約できる(節税対策)

私の趣味はランニング。ちょうど印西市へ走って行った際、温泉で汗を流して「さて帰ろうか」と訪れた駅で、ふと気になったマンションがその際の新居です。帰りの電車内で検索すると賃貸に出ている部屋があったので、翌日に内覧、そして即決と至りました。
こういうとき即行動することは、理想の居住環境を見つけるのにとても大切だと感じています。特に家は、タイミングを逃せばすぐ他の人が住んでしまいますから。

家族が増えて再び自宅購入、利便性の低い田舎エリアへ

移り住んだマンションは、同じ3LDKの間取りながら少し広くなりました。駅から近いので、都内をはじめとした移動も不便はありません。徒歩圏内には広い公園、そしてショッピングモールも。いっぽうで、1kmも離れると畑や森が広がる自然に囲まれた環境です。
人それぞれ適した住環境は異なりますが、その時点で私たちにとってはベストだと思いました。

自分たちが何のために引っ越し、そして自分たちらしく暮らすには何が必要なのか。

それを整理し、妥協せず探し続けたことが良かったのでしょう。
ただ「現状が不満だから」「なんとなく移住してみたいから」だけで動いていたら、後悔する結果になっていたかもしれません。東京生まれで初めて都外に住んだ妻も、ほどなく慣れて「引っ越して良かった」と言ってくれています。

しかし現在、すでにこのマンションには住んでいません。再び戸建てを購入し、同じ千葉県印西市内でも駅から離れた、さらに“田舎”と言える地域に移り住んでいます。その理由は、長女の出産と新型コロナウイルスの感染拡大です。

印西市に引っ越して2年、長女が誕生。
ちょっと家が狭くなりましたが、家族の集まるリビングダイニングが広いので、当時はさほど気にしていませんでした。しかしさらに2年後、訪れたのが新型コロナウイルスの感染拡大です。

緊急事態宣言の発出に伴って幼稚園や小学校、中学校がお休みに。私の仕事も移動の伴う業務は大きく減って在宅時間が増えました。
すると必然的に、6人家族が1日ずっと家に集まっていることになります。仕事に勉強、そして遊び…。「うちは狭い」と感じるのに、それほど時間は必要ありませんでした。
そこで再び、新たな家を探すことに。しかし、以前とは求めるものが違っています。

・とにかく広さ優先(家が狭いと心も狭くなりがち)
・マンションより戸建て(家でも思い切り遊ばせたい)
・交通の便は悪くても問題なし(コロナ禍後も外出機会は減るし車があれば問題ない)
・できれば、もっと自然に触れあえる場所(自然の中で育てたい)
・購入なら中古でも問題ない(子供たちが成人すれば、また住環境を見直すはず)

そして見つけたのが、以前のマンションと比べて倍以上も広い中古の戸建て。
間取は同じ3LDKですが、各部屋がものすごく広いので6人家族でも十分過ぎるほどです。さらに庭もあり、よく走って訪れていた森など徒歩圏内でも自然にあふれた環境。人生で二度も家を買うことになるとは思いませんでしたが、我ながら良い買い物だったと思います。

都会人だった妻も含めて、私たち家族には“田舎暮らし”が肌に合っているようです。むしろ子供たちは、どこでも置かれた環境に適応して成長していくのでしょう。

田舎暮らしになって変わったこと

田舎の定義は難しいですが、都心から移り住んできた私たちにとって、現在の居住地域は “田舎”だと言えるでしょう。
駅近くはショッピングモールなど点在して栄えていますが、駅から3kmほど離れてすぐ近くには田畑。家の窓から林が見える程度には自然に囲まれています。そんな地域に移住してみて、色んな変化がありました。ここで、実際に感じた田舎暮らしのメリットをいくつかご紹介しておきます。

<野菜好きになった>
都市部には色んな飲食店があり、美味しいものが食べられます。
しかし田舎に住んでみて感じたのは、「料理以前に素材そのものが美味しい」ということ。特に私の住んでいる地域は、美味しくて新鮮な野菜をたくさん食べられます。
スーパーに行かなくても直売所があり、中には自分たちで収穫して持ち帰れる無人直売所も。
最近は月曜日に三男を幼稚園バスへと送り、そのまま近くの無人直売所で野菜を買って帰るのが習慣になりました。これが子供たちの食べ物の好みにも影響したようで、とにかく全員が野菜好きに。
珍しいところだと長男はセロリと玉ねぎが好物で、おやつに玉ねぎを丸ごとレンジ蒸しで食べます。
都内に住んでいたときと比べて、圧倒的に野菜を食べる量は増えました。

<自然と触れ合う機会が増えた>
近くにあるから当たり前とも言えますが、自然との触れ合いが増えています。
三男は虫が大好きで、幼稚園から帰ると家に入らず庭で虫取り。たまに近くの森に家族で訪れて木の枝を片手に散策したり、川でザリガニ釣りしたりしています。私自身が自然の多い地域で育ったからかもしれませんが、以前より「自然の中で子育てしたい」という思いが。
これが実現できたことは、それだけで移住したメリットだと感じています。ちなみに虫嫌いだった長男も、いつの間にか「虫取りしたい」と自ら言ってくるようになりました。

また、コロナ禍での運動不足解消に始めたのが、自然を楽しみながら妻と歩く“妻散歩”。
可愛らしい花を見つけては会話が弾み、周囲から聞こえる虫や鳥の声を楽しむ時間です。
私も趣味のランニングでは、木々に囲まれた清々しいコースを走っています。

<心にゆとりが増えた>
これは感覚的なところですが、家が広くなり、自然のあふれた場所で暮らすようになって、なんとなく心にもゆとりが生まれた気がしています。
時間がゆったり流れ、いつも気持ちが落ち着いているようなイメージです。自分らしい暮らしが遅れているので、人生が豊かに感じられているのかもしれません。これは居住スペースに余裕が出たからかもしれませんが、兄弟喧嘩も減ったようです。
特に中学生になる長男は思春期で、ときに一人で過ごす空間と時間が必要でしょう。以前までの住まいでは、残念ながらこれが実現できませんでした。
しかし、今の暮らしは、部屋とはいきませんが彼個人のスペースを確保できていて、ふと気づけば自分時間を楽しんでいます。
家族とはいえ、常に狭い空間で近くにいれば衝突が起きるもの。住環境に限って言えば、お互いにある程度のスペースを確保できることは大切なのかもしれません。

<在宅で仕事しやすい環境が整った>
私は10年以上にわたって在宅ワークしていますが、業務環境は常に改善を重ねてきました。
基本的には1部屋を仕事場として使い、広めのデスクを設けて周辺機器を設置。外出が多かった(最近はコロナ禍でほとんど無し)ので、ノートパソコンをメインに使用しています。できるだけ仕事に関係のないものは目の届く範囲に置いていませんが、周囲からは家族の声が聞こえますし、自分次第で簡単にサボれてしまうのが在宅ワーク。おそらく同じように悩まれている方は多いでしょう。

現在は3つある部屋のうち、1階にある部屋の一部を仕事場にしています。
いわゆる“広縁”と呼ばれる場所で、隣りには掘りごたつのあるスペースが繋がっている場所です。よく家族が集まる部屋ですが、敢えてそこに仕事場を置きました。長い在宅勤務で、集中している際はあまり周りが気になりません。むしろ集中力が切れたとき、すぐ近くにいる家族と会話できるのは魅力です。
また、子育てという面では「仕事している姿を子供に見せたい」という思いも。さすがにオンラインミーティングの際は他の部屋にいてもらいますが、子供たちが自分の働く未来をイメージし、働くことをポジティブに捉えられるキッカケになれればと考えています。また、すぐ横にある窓からは庭に出られるため、すぐ外の空気を吸えるのも気に入っているポイントです。
ふと外を見ると子供たちが庭で虫を探したり遊んだりしていることがあり、とても微笑ましく「仕事、もっと頑張ろう!」というモチベーションも得られます。
都内では実現できないような(実現するなら大金が必要…)広い家。田舎に引っ越したからこそ、より仕事しやすい理想的な環境ができています。

コロナ禍が落ち着けば、多少は外出や出張が再び増えるかもしれません。
しかし私は幸いにも、仕事を自ら選ぶことのできるフリーランスです。移動が自分の負担にならないよう、仕事の量な内容コントロールすれば問題ないでしょう。ちなみに都心に出るとしても電車で1時間程度の距離。さらに駅から離れたと言っても3kmなので、バスあるいは車移動すればすぐ着きます(私はよく歩いていますが…)。バスは250円、車も駅前の駐車場が24時間400円という田舎価格なので、大きな負担にはなりません。

<新しい趣味が増えた>私の趣味はランニングですが、今の家に引っ越して新しい趣味ができました。それが“DIY”です。
中古物件のため、いざ住んでみると自分たちにとって不便に感じることが多々出てきます。それらを基本的には自分自身で解決。木を切ったり芝生を刈ったり、レンガの色を塗り替えたり。最近は犬を飼い始めて、自宅内の床に滑りにくいマットを敷き詰めました。
面倒くさがりの自分が、こんなにDIYするとは驚きです。妻も庭いじりが楽しいようで、花を植えたり家庭菜園したり。原木から育てるシイタケは、大きくなって食べるまでの過程が子供たちの教育にも繋がっているようです。また、先に触れた妻との散歩も趣味の一つ。
都内では道が狭く、「ここを歩いてみたい」と思えるような場所はあまりありませんでした。最近では近場を歩き尽くしたので、少し車で移動してから周辺を散歩。ふと見つけた細い林道に入って行って、思いがけない場所に出た…なんてこともたくさんあります。
もちろんDIYを趣味にしている人は地域を問わず大勢いますが、移住によって新しい趣味と出会い、より人生が楽しくなるということも大いにあるのでしょう。引っ越してからというもの、よく庭でバーベキューを行います。
「バーベキューするよ!」と言うだけで家族みんな大喜びで集まるため、家族にとって共通の趣味と言えるかもしれません。都心と違って隣の家とも距離があるので、煙が出ても大丈夫。食事しながら会話も弾み、とても良いコミュニケーションの機会になっています。

移住先を決めたポイントは「自分(たち)らしい暮らし」

どんな地域が合っているのかは、人それぞれ異なります。もちろん都市部に住むのが適する方もいれば、もっと人里から離れた田舎が良いという方もいるでしょう。そしてそれは、時間と共に変化する家族環境や働き方、あるいは価値観などによっても違ってくるはずです。

移住を考えるうえで、一つポイントとなるのは「自分(たち)らしさ」ではないでしょうか。今住んでいる場所では実現できない、そんな“何か”を変えられる。それが移住なのだと思います。
では、どんな生き方が自分らしいのか。私の場合は利便性より心のゆとり優先、いつも自然と触れ合えて、その中で家族の笑顔と会話が生み出されること。何にも縛られず本当の意味で自由な日々を送れることが、自分らしさなのだと気づきました。

遠くへ行かなくても、ちょっと外に目を向けると今とは違った環境が山ほどあります。まずは近場からでも、十分に人生を変えるような移住を遂げることはできるはずです。

インターネット等で調べてみるのはもちろん、近場なら、ちょっと散歩気分で足を運んでみるのも良いでしょう。その地域を見て回る中で、「ここ、ちょっといいな」と思える場所に巡りあえるかもしれません。


三河賢文
1983年生まれ、千葉県印西市在住。出身は宮城県仙台市。ナレッジ・リンクス(株)代表、“走る”フリーライター、ランニングコーチ、NPO法人HASHIRU 理事など、さまざまな顔を持って活動。仕事からプライベートまで全国各地を“走って”巡り、旅ラン&島ランが趣味。4児の子を持つ大家族フリーランス。
https://www.run-writer.com