神奈川県川崎市麻生区、工業地帯のイメージが強い川崎市である一方、ここ麻生区は緑が広がっている。ここに2020年1月、新たないちご農園が開園した。その名も“Slow Farm”。開園したのは代々ここ麻生区の農家家系にいた安藤圭太さんだ。なぜこの場所に新しくいちご園を開園することになったのか?Slow Farmの今までとこれからに迫る。
≪Slow Farmができるまで≫
「実家は農家でしたが、自分はあまり継ぐ意識はなかったんですけどね」と話し始めた安藤さん、大学を卒業し旅行代理店に10年間勤めていたのだが、当初から独立志向はあったと話す。
「何で事業をしようか」と様々考えを巡らせていたが、最終的に行きついたのは“農業”だった。「少し甘えている考えかもしれませんが、農機具や農地など農家に必要なリソースが揃っていたのはやはり大きかったですね。但し農業と言っても様々なスタイルがあります。今まで培った自分の知識やスキルを活用したスタイルの農業にできるのも魅力に映りました」。
独立するからには代々引き継がれた農地だけでなく自分自身の知識等を活かした農業をしていきたいと考えていた安藤さん、一つ都市農業ならではの仮説を立てていた。「都市部は小さい面積だが立地を活かし高付加価値をつけることができる、地方は産地形成し大規模だが価格面が厳しくなる。ならば比較的都市圏に近い川崎市で施設を建てそれなりの規模で運営出来れば、その両方のメリットを受けられるのではないか」と考えたのだ。
その仮説を基に地元川崎市で施設栽培をしようと決めた安藤さんだが、やはり開園に至るまでの道のりは険しかったと話す。「1点目は結局何を作るかがなかなか決まりませんでした。いちごの他にトマトや胡蝶蘭などの花卉も栽培の候補にありました。最終的にいちごに決めたのは東北の大規模農家さんを巡る視察に参加した時でした。いちごに付加価値を付け販売している農家さんのお話に感銘を受けたのです」。
一般的に量販店に並ぶイチゴは、輸送などの影響を考慮し完熟する前に収穫する。しかしこの東北で出会ったいちご農家さんは輸送方法を工夫することで完熟ギリギリに収穫することで高付加価値を付けていたのだと安藤さんは話す。「これが川崎市でできれば大きな武器になる」と安藤さんはいちごの栽培をすることを決めた。
「そして2点目は農地の借り上げでした」代々麻生区で農業をしている家系出身の安藤さんであっても、地元で農地を借りるのには苦労したと話す。
「構想ではそれなりの農地の広さを必要としていた為、実家の農地以外に借り上げする必要がありました。但し農地を借りるには“信用”が必要でした。これには特別な手段はありません。近隣の住民の方や地権者の方と会話を重ね、将来のビジョンを伝え、少しずつ信用を得る方法しかありませんでしたね」。
持ち前の粘り強さで交渉を重ね約1haの農地の借り上げをすることができた安藤さんは当時の事をこのように振り返る。「あの地道な信用を得るための行動で周囲の住民の方からの理解が得られるようになった。これは地元と共に歩む農家としては必要不可欠なことですからね。苦労しましたが、結果よかったと思っています」。
2020年1月、川崎市麻生区早野に念願のいちご農園“Slow Farm”をオープンした。
≪オープン直後に襲った災害とビジネスモデルの転換≫
2020年、オープンした際には都市近郊である立地も手伝い多くのお客様がいちご狩りに訪れた。「『こんなにもお客様が来てくれるんだ』と正直思いましたね。美味しいと言って下さるお客様の反応が嬉しかったですが、開園して早々にビジネスモデルを大きく転換させなければいけない状況になってしまいました」。
それは突如襲った新型コロナウイルスの影響だった。「いちご狩りはいわゆるツーリズムです。元々旅行会社にいたので、ツーリズムの魅力も知っていましたが“脆さ”も知っていました。このような疫病等が流行ってしまうと、お客様が途絶えてしまう」と当時の事を振り返った。
その時に考えついたのが、いちご狩りの販売割合を小さくすることだった。「売り上げについては2021年度で“いちご狩りが3割・販売が7割”くらいのバランスになっています。いちご狩りは確かに収益性は高いです。但しリスクヘッジを考えると、瞬間的な売り上げではなく、長期間安定的な収益となる直売を軸にしたいと考えました」。
また地域ならではの課題の解決にもなるとも考えた。「地元にある洋菓子店や老舗の和菓子店で皆さん手土産を買われていたのですが、いちごを直売することで新たな選択肢になるのではと考えました。このニーズがうまくハマったのだと思います」。普段の自宅用のイチゴとしてだけでなく手土産用とすることで、比較的高単価での直売が可能となった。
安藤さんはこのニーズにさらに応えていく為、いちご園に併設しパティスリーをオープンさせる予定だ。「手土産需要もそうなのですが、いちご園だけだと夏場に売り上げが作れません。また、どうしても一定B品が出てしまうこともあり、それを解決するためにパティスリー“Slow Sweets”をオープンすることにしました。偶然東京で活躍していたパティシエの方が働いて頂けることにもなったので、“Slow Sweets”のオープンに私もワクワクしています」。
Slow Farmの新しい取組、Slow Sweetsは2021年冬のオープンに向けて準備中だ。
≪ここでSlow Farmをご紹介≫
【Slow Farm コンセプト】
~Enrich your life~
川崎市麻生区育ちの完熟いちご。採れたてのイチゴは香り高くジューシーです。
「食べた時に、思わず笑顔になる」 そんな瞬間を作りたいと考えています。
その笑顔が、日々の食卓を豊かにし、皆様のライフスタイルを豊かにすると信じています。
【Slow Farmの特徴】
・十分な駐車スペースがありますので、車でお気軽にお越し頂けます。
・おむつ替えや授乳室も完備、小さなお子様連れのお客様も安心です。
・清潔なトイレや手洗い場も完備、安心かつ感染病対策もばっちりです。
【Slow Farmのイチゴたち】
Slow Farmでは以下の4品種の栽培を行っております。
≪紅ほっぺ≫
甘味と酸味のバランスが良く、ジューシーなイチゴです。
≪とちおとめ≫
糖度が高く果汁も豊富、程よい酸味もあるのが特徴です。
≪おいCベリー≫
ビタミンCが豊富で香り高く、みずみずしい食味をもつ。
≪もういっこ≫
大粒だが果肉がしっかりしており、甘みと酸味が広がる。
【イチゴ狩りについて】
≪料金(40分食べ放題)≫
大人1名(小学生以上) 2,600円
子供1名(2歳~幼稚園児) 1,600円
【お土産・直売について】
イチゴパック(各種800円~)の販売と共にお手土産用のBOX紙袋セットや発送サービスも行っております。
【Slow Sweets】 ※2021年冬に開業予定
イチゴ園に併設し、収穫したイチゴがそのまま利用し採れたて焼きたてにこだわったスイーツをお届けします。イチゴ以外の食材も地産地消にこだわっています。
≪今後の展開について≫
「より多くのお客様に利用していただけるように、栽培面積を増やしていきたいと考えています」と安藤さん、今後は新たに様々な果物や野菜にも挑戦していきたいと話す。「メインのイチゴ栽培技術は向上しながらも、年間通してお客様が農園に来られるように、様々な作物にトライして行きたいと思います」。今年度は新しく夏の時期にメロンを栽培し、今後はブルーベリーの栽培等年間通した作付けを目指す。
そして最後に安藤さんは「農園の枠組みに捉われない展開をしていきたい」と話した。
「Slow Farmは今現在はイチゴ栽培をメインにしていますが、それだけに限るつもりはないんですよ。川崎市という大都市であっても、大量生産大量消費の枠組みの中ではなく、旬を感じながら出来る限り自分たちが住んでいるエリアの近くで作ったものを食べる。農園を通じて、そのような“ライフスタイル”を提供していきたいんです」と話す。
“Slow Farm”の名前の由来ともなっている“Slow food”や“Slow life”、本来その場所に根付いていた食文化や生活に対して改めて関心を持つ取組のことだ。新たなライフスタイル、新たな価値観を生み出すためのSlow Farmの今後の取組が楽しみである。
Slow Farm 早野圃場
住所:〒215-0016 神奈川県川崎市麻生区早野246
電話:080-9665-3656 (営業時間10時~17時)
Slow Farm 公式HP:https://www.slowfarm.jp/
Slow Farm SNS
Facebook:https://www.facebook.com/Slowfarm.Strawberry/
Instagram:https://www.instagram.com/slowfarm_strawberry/