アプリ制作やオンラインクッキングの運営などを手がける株式会社hakken(https://about.hakken.io/)。

2021年春から安芸高田市に拠点を置き、フードロス事業をスタートした。これまで大量に生産段階で廃棄されてきた規格外などの野菜を乾燥させ、さまざまに商品化。ちょい足し具材、食べる調味料、栄養満点のスープ、備蓄災害用などに生まれ変わった野菜は、ECサイトなどを通じて消費者に届けられる。

少しでも世の中のフードロス削減に貢献したい―。世界が抱える大きな課題解決に向けて、地域にできること、事業に寄せる思いなどを、CEOの竹井淳平さんに聞いた。

CEOの竹井淳平さん(左)と安芸高田に常駐する田村聡さん

―UNDR12を始めた経緯を教えてください。

―竹井 世の中には無駄や矛盾がたくさんありますよね。それは社会課題にせよテクノロジーにせよ人々の認識との間に乖離があるためではないか、その距離を近づけるには何らかのサービスが必要ではないかと考えました。

フードロスも矛盾の一つです。私は総合商社に8年間勤め、アフリカやブラジルに赴任して飢餓や貧困の実状を目のあたりにしました。日本でも人口の6分の1の世帯が相対的な貧困を抱えているといわれています。その一方で食料を大量に捨てている。日本の野菜だけを見ても、生産されたものの 3 割程度が廃棄されています。

そこで「フードロスに一番強い会社になりたい」と、廃棄乾燥野菜事業を立ち上げました。ネーミングをUNDR12としたのは、12%以下の自由水分含有量になると野菜は腐らないことに由来しています。

「世の中の矛盾をなるべく取り除きたい」と竹井さん

―「D-EGGS」に応募する前から広島で活動していたのですか。

―竹井 はい。広島県に注目して拠点を探していたところ「最近、安芸高田が面白い」と紹介されて。実際に足を運んでみると、皆さんとてもウエルカムで感動しました。古民家を借りて2021年4月からスタッフが常駐するようになったのですが、それまでも市役所の小野さんをはじめたくさんの方にお世話になりました。

だからこそこの事業を近所の取り組みで終わらせたくない! そんな思いからD-EGGSに応募し、広島県で注目されるプロジェクトが安芸高田で行われているという風にしたかったんです。

とにかくたくさんの人を巻き込みたいという思いがありました。自社で特許を取って情報を秘匿しながらやる、という従来のやり方は前時代的です。オープンソースにしてみんなでかかわっていこう、みんなで解決していこうという風にしたい。一社で独占するのは収益的にはいいかもしれませんが、地球にとっては決して正しくない場合もあります。限られたパイを奪い合って排他的に利益を独占する仕事はそろそろ終わりにすべきじゃないかなと思っています。

回収した野菜を乾燥機へ。古民家を改装した作業場にて

―採択によってプロジェクトは進展しましたか。

―竹井 まずは安芸高田の皆さんから「この人たち本気だな」と思っていただけるようになりました。また県の方たちが積極的にかかわってくれることにも驚かされました。事業を一つ一つしっかり理解し、SNSでも積極的に発信してくれる。D-EGGSのすごいところは、広島県の本気度にあると思います。

安芸高田ではJAの協力の下で野菜を回収しています。皆農家や地域の皆さんのフードロスへの関心が高いことも、ここを選んでよかったと思うことの一つです。青ネギ、チンゲン菜のような通年で収穫できる野菜があることも幸いでした。

2021年夏、安芸高田は大雨の被害を受け、そのとき田畑も水に浸かってしまいました。従来はそれで廃棄するようなチンゲン菜も買い取りを行いました。水に浸かっても泥が入るだけで、食べられなくなってしまうわけではありません。しかし今の流通のシステムはとても潔癖で、それを許さない。でも実際には土が付いていたからといって怒る消費者はまずいないでしょう。流通や小売業界は、いわば架空のセンシティブなお客様=見えない化け物に対して必要以上の恐怖を抱いているように思います。

私たちはこの事業を大きくしていきたいと思っていますが、とはいえ世の中すべての廃棄野菜を乾燥させることは不可能です。だからこそ廃棄量に乾燥量を近づけるのではなく、廃棄量そのものを下げていく必要があります。そのためには「こんなことをやっています」と発信することで、「確かにその通りだ」と賛同してくれる人を増やしていかなければなりません。

商品化された野菜。加工は福山市のメーカーに委託

ご飯のお供にピッタリの食べる調味料も好評

―今後の展開としてはどのようなことを考えていますか。

―竹井 当面はSNSやHP上での販売、ふるさと納税の返礼品などをメインとしていますが、今後は使い方の提案も含めてライブコマースなども活用できたらと考えています。また現代は消費行動に意味や価値を見出す時代ですから、「これが普及していくと社会はこうなる」ということもしっかり発信していきたいと思います。

私たちの取り組みは、いわば大海に一滴を投じているようなものです。しかし遠くの人には見えなくても、近くの人は一滴を投じるところをちゃんと見てくれています。全員で一滴を落とせば、海面が波打つでしょう?

そうやって関わってくれる人たちが 幸せになるためにはどうすればいいかを、僕たちはしっかり考えていきたい。フードロスの解消と、地域の課題解決ですね。

それらを両輪で回しながら全国に拠点展開していく予定です。中央に大きな工場を造って 大量生産するような旧来型モデルではなく、地方分散型で地域の皆さんとじっくり付き合 うことで本当の社会課題も見えてくるし、フードロス以外でもUNDR12を使って課題解決に繋げられれば、関わる人みんなが幸せになれます。


hakkenの「広島オフィス」。冬には一面、雪景色に

<プロジェクトパートナーからのコメント>
私は日頃、企業誘致として、サテライトオフィスの誘致活動をしています。
活動を通じて多くの企業とのマッチングを行いますが、多くの企業が「市の地域課題」とは何ですかと聞かれます。
ここで求められている地域課題とは、自治体の目線で進める事業において、発生する事業上の課題を指すことが多く、企業もまたその課題の解消をビジネスにつなげる”ネタ”としてスタートアップし、自治体は課題の解消、企業は新たなビジネスの創出を目的に共同する。そういった意味での「地域課題」「地域課題の解消」となっていることが多い。
しかし、(株)hakkenの提案は、全くこのロジックとは異なり、自治体が事業としていない地元生産者が持つ課題の解消にアプローチするものでした。
地元生産者が持つ具体的な課題を解消する提案は、当然、波及するのに時間はかからず、参画者も増え、今では頼もしい存在となっています。

正直、市主体の企画では、このプロセスはできなかったと思います。市なら新商品開発を名目に何となく残渣を使ってシティープロモーションとして、企画することに注力しがちで、商品が風化すれば在庫を多く抱え、更なる地域課題を生むこととなっていたかもしれません。それでも単年度のアウトプットとしては、新商品開発ができて成果にはなりますが、アウトカムとしてフードロスの解消及び生産者の生産効率向上の指標は得ることはできないでしょう。

(株)hakkenの提案する乾燥野菜は、乾燥することであらゆるトランスフォーメーションすることができ、多様な再利用を可能とし事業の継続を図れる。
竹井さんのアプローチ・田村さんの現場でのプロセス、フードロス解消という大きな社会課題とそれを課題視していた生産者が結びついたこのプロジェクトは、今後、地方が求める「企業とのカタチ」として学ぶべきことの多い企画でした。
(安芸高田市 産業振興部 商工観光課 小野 光基)

取材:戸川盛之 撮影:岸副正樹