その真偽はともかく、外から見ていて「九州は九州」だろうと思っていた自分にとって「一つにはまとまらないよ」というその言葉は、かなりの衝撃でした。そして当然、自分の安易な発想に始まる目論見は、苦くて恥ずかしい思い出となったわけです。
それからもう6年以上経って、世の中がここまで「観光」や「地方」を叫ぶようになるとは思いませんでしたが、それでもあちこち回っていると、規模の差こそあれ未だに同じような話を耳にする事はあります。そういう経験に照らして、この「九州バカ」を拝読すると、非常に強い感銘と共感を感じる点が、大きく2つありました。
一つは、村岡さんがこの「地域メディア」を、「食」を通じて成し遂げられたことです。九州パンケーキは、まさに「九州のメディア」ともいえる商品で、この成功は、かつて稚拙ながらもこの地域を一つのブランドに取りまとめることの難しさを体感したものとしては、やはり素晴らしいことだなと改めて思いました。以前にテレビ東京の「カンブリア宮殿」に出演された際も、同様の感銘をうけたのを覚えていますが、その経緯をこの著書でさらに詳しく知ることができました。九州に限らず、地域事業には、多かれ少なかれ、国とか自治体とか、伝統とか、歴史とか、重たすぎてテコでも動かなさそうな「壁」が頻繁に立ちはだかります。その中で、一貫して非常にポジティブな姿勢でそれに挑み、ここまでの成功されたことに、本当に感服します。こういう方がもっとたくさん出てくると、地方創生業界の明るい面に光が当たるだろうなと思います。誤解を恐れずに言えば、この業界には、「こういうキャラ」のヒーローがもっともっと必要です。
もう一つは、村岡さんが、地域産業を「グローバル・ビジネス」だと捉えている点です。地域の会社、地方での商売は、なぜか「ローカル・ビジネス」だと思われがちですが、そもそもローカル・ビジネスの「ローカル」とは「商圏がローカル(域内)」なのであって、所在地がローカル(地方)という意味ではありません。地域住民の為のの飲食店や小売店は当然「ローカルビジネス」ですが、とかく外国人観光客を相手にするこれからの地域事業は、その多くが本質的にグローバル・ビジネスです。村岡さんは、九州パンケーキという地域ブランド商品を、域内のみならず一気に海外展開して見せてくれました。このプロセスからも、「これからの地域産業は海外相手」だということを、明確に示してくれたと思います。考えてみれば当たり前で、そもそも人口が減るし、マーケットも縮小する国内や域内だけでは、ほとんどの事業がやっていけなくなるのは自明の理でしょう。輸出産業は日本のお家芸でしたが、これまではそれは一部の製造業に限られていました。これからは、ある意味一次産業から三次産業まで、全てグローバル展開が求められているとも言えるのです。そういう観点で読んでも、グローバル地域事業の先駆者と言える村岡さんのここまでの歩みには、様々なヒントが隠されていると思いました。
読みやすくて、4〜5時間で一気読みできます。地方創生に関わる人全てにオススメしたい著書です。自分も大いにヒントと勇気をいただきました。よろしければ是非!
文:ネイティブ倉重
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【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。