日本酒、行灯、風呂敷、和蝋燭、刀箱(日本酒をおさめるオリジナルの箱)の5つをパッケージしたギフトセットの企画から販売までを手がける株式会社GROUNDSTARは、橋本康正さんと齊藤総一郎さんが立ち上げた事業会社だ。橋本さんは、東京で展示会ブース・店舗・温泉施設などのプロデュースやブランディング、国内外の音楽フェスを手がける会社を経営し、斎藤さんは宮崎県で生活インフラの総合管理会社の副社長を務める。互いに二足のわらじを履きながらの起業には、どんな思いがあったのか。海外市場に果敢に挑む事業展開の意図について、橋本さんにお話を伺った。
この記事の目次
記事のポイント
- 「日本人として人々の心を豊かにしたい」というコンセプトのもと創業
- 日本酒と伝統工芸品で時空間をデザインする商品を開発
- 地域の素材を使ってオンリーワンの商品づくりを目指す
日本は弱体化している。海外で抱いた危機感
GROUNDSTAR誕生の発端は彼らの学生時代に遡る。
約25年ほど前、橋本さんは大学生として留学しアメリカのコロラド州デンバーで暮らしていた。
「留学先では、アジア人だから、日本人だからと良い意味でも悪い意味でも差別をされました。」
なんでこんな扱いをされるのだろう…。
悔しさと反骨心を抱きつつ“日本が海外からどのような目で見られているのか”身をもって知る経験となった。
「帰国後社会人になり、独立・起業しました。ここ10年近く、毎年海外へ出ていますが、帰国するといつも、日本の活気のなさを感じています。」
橋本康正さん(左)と齊藤総一郎さん(右)
橋本さんの幼少時代、日本では、ファミコンやウォークマンなど世界に誇るべき発明品がたくさん生まれていた。しかし最近はゼロとは言わないまでも世界を驚かすイノベーティブな発明が減ってきている。海外に出て日本を客観視した時にそう感じた。
そんな時、留学先が同じだった齊藤さんと共通の知人の家で10年ぶりに再会し、日本の未来のために何かできることはないかとよく意見を交わすようになった。そこから二人は「日本文化で世界の人々の心を豊かにしたい」という共通の思いを抱くようになる。それが現在のGROUNDSTARの根幹となった。
ここでいう“豊かさ”とは物やお金の話ではない。
「現代、特に東京は、物や情報があふれています。一見、満たされているように感じるけれど、飽和状態の社会は閉塞感が漂っていて自分を殺さなければいけないことが多いのではないでしょうか。物質的には豊かでも“心”が豊かじゃないと感じます。」
日本に活気が感じられないのは、物の豊かさにあぐらをかき、目に見えるものばかりに気を取られているからなのではないか。では、日本より先に物質的に豊かになった国々はどうなのか。
「ヨーロッパのように成熟しても文化がきちんと継承されている国もある。それが実現できているのは、なんのために生を授かり何を次の世代へ紡いでいくか、彼ら自身が知っているからじゃないかと思います。だから現代の日本には、まず“今を生きる”ということが必要だと思うんです。めまぐるしく過ぎていく日々にただ身を任せているだけでは物事の本質や大事にすべきことは見えてこない。今というこの時間をちゃんと過ごすことが必要です。一瞬一瞬を光輝かせ、時間を大切にしてほしいという気持ちを社名にも込めました。」
情報だけを見聞きして頭で理解するだけではなく、五感を使って今という時間を深く体感し、生まれてくる感覚と向き合う。そうして初めて、創造性が育まれ、未来を描けるようになる、というのが彼らの考えだ。
今を生きることは、自分自身や社会にとっての本当の豊かさを、深く探求することでもある。自分たちのルーツをたどれば、今まで見過ごしてきた豊かさに出会えるかもしれない。一人ひとりが自身の心、足元の地域や社会に目を向けることから豊かさの探求を始めることが、ゆくゆくは社会全体の豊かさへとつながっていくのではないか。
「心を豊かにして、僕らがクリエイションしていかないといけない。このまま放っておくと、AIが代替できない人間らしさが失われたまま、テクノロジーに取り残されていく。そんな危機感を感じています。」
まずは”納得”するものを作りあげる。利益はそれから
本当の豊かさの探求という目的に向かった二人がたどり着いたひとつのかたちが、日本の伝統工芸とアート、日本酒を組み合わせた「時間と空間をデザインするギフトセット」だ。
日本酒は、酒匠(さかしょう)の齋藤さんが厳選し、全国の酒蔵から直接買い付けた希少銘柄。これを収める木箱は、侍が刀で斬ったように真っ二つに割れる刀箱で、飫肥杉や越後杉を職人さんが組み木で造りあげたものだ。開けると中に米ヌカ100%の和蝋燭が仕込まれている。行灯と風呂敷は、七人の侍というコンセプトのもと、新進気鋭のアーティスト七人とコラボレーションしてデザインした。日本酒に、伝統工芸品やアートをかけあわせたプロダクトデザインには、今を豊かに生きよう、というメッセージが込められている。
日本酒や蝋燭を収めた刀箱(左)を風呂敷に包んだ(右)GROUNDSTARのギフトセット
「夜になったら風呂敷をほどいて蝋燭に火をつけ、行灯に光を灯す。日本酒を嗜みながら今日1日を振り返ったり自分の心と向き合ったり、大切な仲間とじっくりと火のゆらぎを見ながら語らう。明日をどう心豊かに過ごすか、未来に思いを馳せながら自分の心にも明かりを灯していく。そんな時間を週に1度でもいいから過ごしてほしい。毎日ゆっくりお酒を飲む余裕がないからこそ、大切なその時間と空間に彩りを加えられたらと。また、お酒を飲まないときでも、行灯や風呂敷を、リラックスしたいときのインテリアアイテムとして使っていただくなど、使う方の想像力を刺激できるようなものをつくりたいと考えました。」
蝋燭に火を灯して行灯の明かりを楽しむ
国内での日本酒出荷量が年々落ち込んでいる中、海外への輸出量はここ10年で倍増している。(※1)
そこでGROUNDSTARは、まず海外のマーケットを攻めた。
同社のネットショップは英語をはじめ多言語対応しているほか、欧州のイタリア、フランス、ベルギー、東南アジアのバンコク、シンガポール、フィリピンなど、海外の展示会、アート音楽フェスなどに積極的に出展している。
「海外の人に認めてもらいどんどん認知度を高めることで日本人の方に知ってもらう。そうやって我々のプロジェクトと共に歩もうという同志を増やし、日本のものづくりのイノベーティブなモデルとなれれば、と思っています。」
そのために、目先の利益よりも、自分たちが本当に納得のいく商品を作りあげることに重きを置いている。
「自分たちが満足できて初めて、お客様が感動し、誰かに伝えたくなるような商品になると思うからです。当たり前のようでいて、一番難しいことですね。コラボレーションするアーティストをはじめ、関わる仲間と誇りを持って商品をつくる。そのとき、風呂敷をほどいて刀箱をパカッと開き、その蓋に仕込まれた和蝋燭に驚くお客様の姿を想像しています。そして、和蝋燭に火を灯し、行灯の明かりを見ながら日本酒を味わうという日本文化を体感した後、空気感も含めて誰かに伝えたくなっていただけるのではないか。僕らにとって一番のメディアは口コミと定義し、プロモーション戦略をプロダクトデザインに反映させています。」
プライベートブランド「7 Samurai Artist」シリーズ
しかし、妥協のない商品を作るためには費用と時間がかかってしまう。
その点について齊藤さんが答えてくれた。
「企業である以上、利益をうむことはもちろん、企てに関わってくださる全ての方が潤うようなビジネスフローにしていかなければなりません。関わる方、みんなが幸せになる。そのことも、商品価値の一部にしていきたいと考えています。例えば、伐採したけれど活用方法がない木材を積極的に活用することで、林業に貢献し、ひいてはその地域の経済がよりよくまわる。そんなものづくりプロジェクトにしていくためにも、まずは可能性を信じてやるべきことをやっていく。やってみた結果が悪くても、結果が出て初めて何が不足してたのかリサーチをし改善することができます。こうしたチャレンジングなやり方が、僕らのような”ストーリーを伝える”ものづくり企業としてのあり方だと思っています。」
※1:農林水産省 政策統括官 「日本酒をめぐる状況」より
オンリーワンを作るため、いばらの道を進み続ける
同社の事業戦略を練り運営をしているのは事実上橋本さんと齊藤さんの二人。
互いに本業を持ちながら走り続けて3年になる。
もともとデザインやプロモーションの仕事をしている橋本さんは総合プロデュース担当。デザイナーとのやりとりやデザインの考案、商品のプロデュースとプロモーションなどを担っている。
酒匠(さかしょう)の資格を持つ齊藤さんはお酒を保管する冷蔵施設などの管理、会社の経理や総務を担う。酒蔵の開拓、市販拡大などの営業は二人で行っている。
「中心メンバーは2名でも、協力してくださる人はたくさんいます。アーティストの七人の侍もそうですし、普段、お世話になっている方が企業や個人を紹介してくれることもあって。全て人と人とのつながりでここまで進んでくることができました。これからも、多くの方を巻き込む渦のような存在として、その渦を大きくしていきたいです。」
最後に、二人が描くこれからの事業展開を聞いてみた。
「プライベートブランドとOEMの2軸で展開します。プライベートブランドは、世界中のアーティストとコラボしたいですね。OEMでは、地方自治体のものづくりを請け負い、その地域の地酒と間伐材、グラフィックを活用したご当地モデルをつくっていきたいと考えています。また、日本酒だけでなく、ワインや焼酎を中心においた商品展開も考案中です。最終的には、個人のお客様向けに、パーソナルなオンリーワン商品を提供したい。例えば、新郎新婦が子供の頃に描いた絵をモチーフに、結婚式の引き出物をデザインするなど。」
新潟県焼山温泉とコラボしたOEMブランド「Yakeyama」は日本酒もオリジナルで製造した
オンリーワンのプロダクトブランドとしてさらなる成長を目指すため、2016年には特許を取得した。
「いつか誰かが僕らの真似をするときがくるかもしれない。特許は、さらなるチャレンジのための特権だと思っています。3ヶ月に1回くらいのペースで新作を出せたらベストですね。地域の工芸や細工に注目して、地域の方々とこの世に一つしかないものを作りたいです。」
「いばらの道ですが(笑)でもお互い創業者ですからそれは承知の上です。僕らは誰も通ったことのない道を突き進んでいます。一歩進んで二歩下がることがあっても、芯が通っていればおのずと道は拓けていく。そう信じています。」
●株式会社GROUNDSTAR 会社概要
- 所 在 地 : 宮崎県宮崎市生目台西三丁目4番地2
- E-mail : info@groundstarplus.com
- 電 話 : 0985-50-9191
- 営業時間:8:30 ~ 17:55
- ホームページ
文:松田藍