三重県南部に位置する御浜町は、自然豊かで青く美しい海が広がる小さな町。柑橘栽培が盛んで『みかんの町』として知られるが、漁師を生業にしている人達もいる。
30~40代の若手が中心となって切り盛りする「阿田和大敷漁業生産組合(通称 阿田和大敷)」は、太平洋の熊野灘で定置網漁を営む漁業組合法人だ。地元出身者だけでなく、移住して漁師になった人もいるという。阿田和大敷で働くこと・ライフスタイルについて、漁師の山口さんに話を聞かせてもらった。
海好きには最高の仕事
山口真也さん、御浜町阿田和出身の47歳。25歳で阿田和大敷に就職し、現在副船長を務めている。
高校卒業後、愛知県で就職したが半年ほどで地元へUターン。いろいろな仕事を経て阿田和大敷での漁師の仕事に興味を持った。きっかけは、地元の会社なので子どもの時から知っていたこと、親方の一人が小さい頃から仲良くしてきた先輩だったこと。もともと海好きで、海に携わる仕事というだけでも楽しそうと思ったそうだ。
そして決め手は、「働きながら趣味のサーフィンができる」と思ったから。
「仕事が終わって昼から時間があるので、気分が乗った時に『海に遊びに行こう』ってサーフィンに出掛ける。22年やっていて、仕事もプライベートの趣味も満足してます。自分には向いている、ベストな仕事やなと思っています」と満足げに話した。
御浜町を含め、海あり山ありの大自然に囲まれたこの地方は、アウトドアを楽しむのにピッタリのロケーション。釣りやサイクリングに行ったり、川遊びしたり。山歩きや熊野古道も楽しめる。「時間があると本当に楽しめる所ですね」と山口さん。
サーフィンのスポットは尾鷲から和歌山県までいろいろ。御浜町近辺だけでも10か所ほどある。山口さんがよく行くのは車で5分の近場から30分くらいの所。時間さえあれば、行きたいと思ったらすぐに行ける。
「僕はサーフィンが趣味だけど、釣り好きの人は大敷で朝から漁に出て、終わった後自分の趣味で釣りをして、そこで釣った魚をさらに市場に出してお小遣いにしている人もいますよ。阿田和大敷は副業OKなので」と教えてくれた。
阿田和大敷とは?
阿田和大敷の「大敷(おおしき)」とは定置漁網の一種で、規模の大きいものを言う。小さいものは「小敷網(こしきあみ)」と呼ばれるそうだ。
阿田和大敷は昔からの親方たちが集まって立ち上げた会社組織で、定置網を仕掛けている漁場は御浜町海岸部の阿田和地区から約3キロの沖合。現在は隣町紀宝町の鵜殿港を拠点港とし、20代から60代まで13人のサラリーマン漁師がワイワイと楽しく漁をしている。個人の漁師との違いは、会社であり定置網漁だからこそ、安定して給与がもらえること。歩合給もあり、大漁の時には基本給以外の支払いがたっぷりあるそうだ。さらにはボーナスもある。
1日の仕事の流れは、おおむね日の出前に出航し、漁場で魚を引き揚げて帰港、陸(おか)で魚の水揚げと選別、船の清掃などを終えると朝の仕事は終了だ。
阿田和大敷では、この後おいしい朝ごはんをみんなで食べ、休憩。魚の量にもよるが、その後浜で網の修繕仕事などをして、大体昼の12時頃に1日の仕事は終わる。
その後、漁師たちは午後の時間を自分や家族のために有効に使い、充実した生活を送っているそうだ。
大漁の時は網の引き揚げ作業だけでなく選別にも時間がかかるが、漁師たちは歩合給やボーナスが増えるとあって気分も上々で頑張れるのだとか。
選別が終わった頃には競りが始まり、仲買人によって競り落とされた魚は各地に運ばれていく。
未経験でも始められる定置網漁師の仕事
仕事が早く終わる代わりに朝がとても早いことについて、山口さんは「慣れれば問題ないですね。魚が多い時期は4時半出航ですが、漁をしない時期になると5時半出勤。出航の時も合羽を着て船に乗り込むだけなので、準備の時間とかもありません」と語った。
会社の課題を尋ねると、「若い子から年配の人まで年齢関係なく、みんな楽しい雰囲気でやってますけど、一つ言うならもう少し人数がいたらな、とは思います。海好き・釣り好き・魚好きの人はもちろん向いてると思うけど、元気さえあれば大丈夫!元気のいい人が入ってくれたら嬉しい」と話した。
定置網漁は個人の漁師と違い未経験者も就職しやすい。阿田和大敷に入って最初に覚えることは、「5種類のロープの縛り方」、それだけだ。「それ以外は周りの人が教えてくれたり、やっているうちに自然に覚えていく。Iターン移住者の乗組員もいるし、条件があえば誰でも大丈夫。未経験者でも安心して働けますよ。」
やりがいを感じるのは大漁の時。引き揚げ作業中に良い値の付く魚が大漁だとわかると、「水揚げ額を考えてクワクしてテンションが上がる」と言う。
「漁師は獲れてなんぼ。大漁の時はやりがいも感じるし、一番楽しくて嬉しい。今後、年間の水揚げは更新したいですね」と意気込みを語った。
自然とともに働く
沖からの眺めについて聞いてみると、「漁師は朝が早いから、日の出を毎日見られます」と山口さんが言った。
「漁場に着くまでの間、夜空に流れ星が見えたり」
この地方の豊かな自然を日々当たり前に感じながら、時に美しく、時に過酷な海を相手に仕事に励む漁師たち。
彼らは今日も大漁を願って、沖へと船を進める。
(2022年7月・23年1月 取材)
山口さんの漁師ストーリーを動画でもお楽しみください↓
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