冬の終わりが近づくと保育園の入園結果通知の話題がSNSを飛び交うことが通例となってきている。小さな子どもがいる共働き世帯にとって「保育園に入園できるか」は働き方にも関わる大問題だからだ。保育園の整備や就学前人口の減少によって、こども家庭庁の「令和5年4月待機児童数調査」によると、保育園の整備や就学前人口の減少によって、全国の待機児童数は2017年の2万6081人をピークに2023年にはその10分の1まで減少してきた。
2024年春の北陸新幹線延伸で活気づく石川県小松市では長らく待機児童ゼロを維持している。ゆとりある環境ではどのような保育が行われているのか、犬丸こども園の嘉藤園長にお話をうかがった。
遊びを通して社会性を身につけていく
のどかな田園風景に囲まれた犬丸こども園には0歳児から5歳児まで約80名の園児が通う。年齢ごとのクラスはあるが、異なる年齢の子どもたちと同じグループで過ごす異年齢保育も行われているのが特徴だ。
近年は少子化が進む中で異なる年齢の子ども同士の関わりが減っているため、年齢で区切る横割りではなく、歳のちがう子どもたちが触れ合える縦割りが注目されている。
「年齢の枠組みを取り払って児童みんなの交流を図っています。運動会では異年齢で取り組めるプログラムを取り入れたり、教室の中にはほかの教室につながる扉を作っていて児童は自由に行き来できるんですよ」
子どもたちは自分の教室以外にも居場所を作れる。そのため担任以外の先生にもクラスごとの保育内容や園児全員のことが共有されているそう。園全体で子どもたち一人一人をケアしているのが感じられる。
犬丸こども園で行われている一時預かり保育にも園ならではのことが。
短期間であっても通園児と同じクラスで受け入れる一時“編入”のような形で行われているのだ。
「東京からお父さんの出張に同行したお子さんを一週間お預かりした時も、通常クラスで受け入れました。言葉のちがいや知らない遊びがお互いに刺激になったようで、一週間ですっかり打ち解けていましたね」
バックグラウンドが異なる子ども同士が関わることでお互いの興味や関心が広がっていく。遊びながらルールを学び、多くの交流によって幼い頃から協調性や社会性を自然と身につけられる環境がここにはあるようだ。
地域の中で育っていく子どもたち
園児同士の交流以外にも大切にしていることがある。子どもたちがこれからも暮らしていく地域との関わりだ。
敬老会では園児が高齢者福祉施設に出向いてお祝いをしたり、こども園の発表会に招いたりと地域の人とも盛んに交流を行っている。コロナ禍でもビデオレターを送るなど途切れずに続けてきた。
「交流を通して『地域の人に愛され、見守られている』ことを実感してほしい。人の優しさに触れることで思いやりの心が育って、自己肯定感も上がります。大人になっても自分の育ったふるさとを大切にしてもらえたら」と子どもたちの未来への想いを語る。
犬丸こども園を卒園した子どもたちの多くは園の向かいにある犬丸小学校へ入学する。
「ときどき小学校の校舎の窓から『先生!』って元園児が手を振ってくれるんですよ。こども園と小学校、中学校が近い距離にあるので、卒園した子どもたちの成長を見続けられるのもうれしいですね」
中学生が職場体験の授業でこども園を訪れたり、園児を連れて小中学校の運動会の応援に行ったりと相互交流の場ももたれている。
就学前の数年間だけでなく、その後も見守っていてくれる大人が近くにいることは子どもにとっても保護者にとっても頼もしい存在だろう。
希望の詰まった新園舎
犬丸こども園は現在の場所から程近い場所に2025年3月の完成を目指して新園舎を建設中だ。「子ども一人一人が自分らしく輝ける場所」をコンセプトに設計された模型を見せてもらった。
自然と人が集まりそうな、日当たりの良いランチルーム。
年に1度の運動会のためではない、毎日遊べる園庭。
園内からは小松駅に延伸する北陸新幹線が疾走する様子や、小松空港に離発着する飛行機も眺められるそう。新しい園舎でにぎやかに遊ぶ子どもたちが目に浮かぶ。
小松をホームにして育つ子どもは、たくさんの人と出会い、地域に見守られ、豊かな人間性や社会性が育まれることだろう。
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