邑南町の景色
一つは、その始まりが、EC(オンラインショップ)だったということです。もちろん「ECをやってたんだけど…」というお話は伺っていたんですが、正直これほど力を入れて、しかも自らが手を動かされているとは存じ上げませんでした。インターネットの分野で長く働いてきた自分にとっては、これは一つ大きな衝撃でした。というのも、どこかで「ECを少し手がけたといっても、おそらくそれほどのレベルではないだろう。もし自分に相談してもらえれば、もう少しうまく行く可能性もあるのに…」くらいの奢った気持ちが無くはなかったからです。寺本さんも、少し気を使われたのか(笑)、あまり自分には、その話はされませんでした。でもこの本には、その長期間にわたる取組についての経緯や内容が、克明に綴られています。そして、それはどの切り口でも非常に本質的で、且つできることは全てトライされていました。しかも専門家ではないのに、一人で始めて…。模索しながら、協力してくれる人材を探しながら、ここまでされていたとは。自分を含めデジタルマーケティング業界の多くの人たちは「地域はデジタルが遅れている」と思い込んでいるといっていい。でも、やる人はやっているのです。(当然ですが。)ある意味、そうした自分の思い込みや奢りにも気付かされました。
著書にも登場する、邑南町立食の学校
もう一つの驚きは、この15年間、様々な活動に取り組まれてきた「姿勢」そのものです。寺本さんは、お会いするといつもニコニコしていて、穏やかな印象。でもどことなく、「曲者(くせもの)」感の漂う(笑)印象でした。しかし、この本に出てくる主人公は、むしろその真逆とも思えるような、猪突猛進のアグレッシブさ。思ったらすぐ行動し、しかも簡単に諦めない。ある意味「商社マン」かのようなその積極性や馬力の強さは、見た目のイメージとは大きく異なります。でも、おそらくは、この15年間、周囲でそれに関わってきた人達は、実はそんなに「ガツガツ」さや「押しの強さ」、ある意味の「鬱陶しさ」は、それほど感じられなかったのではないかと勝手に想像しました。それは、むしろ淡々と、周囲から見るとある意味冷静に、粛々となされてきたのではないかと。そうでなければ、これだけの多くの人達、特にその道を極められて、かなり著名な人達が、これでもかというくらい数多く巻き込まれていかないのではないかと思います。もちろん、所々でぶつかったり、軋轢もあったでしょうが…。ご自身の気持ちの内では、もちろん熱いものを常に維持していたことは疑いようもありません。でも、おそらく、その姿勢や気持ちは、むしろ誰に対しても押し付けがましくもなく、ましてや権威や立場を振りかざすこともなく、やるべきだと思ったことを、丁寧に行動に移されてきたのではと感じました。これはあくまで自分の想像ですが。
実は、これは大きなことを成し遂げる人に共通する特性だと最近気づいたことなのです。なぜなら、大きなことを成し遂げる人の多くは、逆に「何者かにならねばならない」「いつまでに、何をどのくらい成し遂げなければならない」というような、縛りから完全に解き放たれた、「自由さ」を持ち合わせているからです。著書の中にもありましたが、寺本さんには「公務員だからこうしなければならない」という発想も微塵もありません。要するに「自由」で、100%の主体性を維持して生きている人だからです。これは、ある意味、生まれ持った素質なのかもしれません。しかし、その姿勢は、本当は誰しもが持ちうることなのです。しかし、なかなかそうはできない、非常に深いところにある真実のようなものだと、自分は思いました。
「公務員」だから、成果を上げても給料が上がらない中で、こういう成果をあげたことがすごいのか。起業家になってベンチャー企業でやるからすごいのか。はたまた、独立する人は勇気があってすごいのか。大企業の中ではそれは困難なのか。この本を読むと、そうした「人が身を置く環境」には、ほとんど意味がないことを思い知らされます。大事なのは、心の持ち方そのものなんだと。どんな場所にいても、心の持ち方次第で、真の自由を獲得でき、どんな可能性も描くことができるのだなと。そうつくづく思い知らされるのです。
そういう意味で、この本には「地方創生」だけではなく、「働き方改革」「人生100年時代」「君はどう生きるか」「起業の本質」「人はなぜ働くのか」などなど、現代を生きる上で必ず突き当たる、様々なテーマのエッセンスが凝縮しています。文章は、まるで寺本さんが語り部になって眼の前で話してくれているかのように読みやすく、3〜4時間で一気読みできます。地方創生に関わる人のみならず、本当に全ての方にオススメしたい著書です。
最後にもう一つ。この本を原作にして、どこかのテレビ局が、ドラマ化してくれないかな・・・(笑)。本当に心からそう思いました。もちろんNHKでもいいし、民放でも。10話くらいには十分なると思います。あの美しい邑南町が舞台なら、間もなく始まる4K8K放送でもきっと素晴らしい絵になるはず。さらに、ドラマを見た人が刺激を受けて「地方創生業界」に飛び込んで、日本の各地で活躍するようになったら、本当に素晴らしいと思うのですが、TV局関係の皆様、いかがでしょうか?
文:ネイティブ倉重
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【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。