「デザインは、“伝える”ではなく、“届く”ことが大切だと思っています。」

そう語るのは、岡山県笠岡市を拠点に活動するグラフィックデザイナー・藤原麻由さん。チラシやポスター、地図、看板、パッケージ……。彼女が手がけるのは紙や文字のデザインだけではなく、「まちの声」そのものです。

彼女が大切にしているのは、「地域に根ざす人たちの想いを形にすること」。デザイナーという枠を超え、地域の未来をともに創ろうとする姿勢がそこにはあります。

地域の空気ごとデザインしたい

藤原さんが地域と深く関わるようになったきっかけは、3人の子どもたちとの日々の暮らしでした。発達障害のある子どもたちと外出できる場所を探すなかで、地元・笠岡の島々やまちの温かさに触れることが増えていったといいます。

その体験を通して、「笠岡の魅力をもっと多くの人に伝えたい」という気持ちが芽生えました。手描きの地図制作を皮切りに、笠岡ベイファームや観光協会、市役所といった地域の団体のデザインを手がけるようになります。

藤原さんが心がけているのは、「その場所の空気感ごと伝えること」。一つひとつの仕事に、地域の温度や匂いがにじむような丁寧な視点が息づいています。

「おしゃれ」よりも「わかりやすさ」

藤原さんのデザインは、いわゆる“かっこいい”や“華やか”といった見た目だけを重視するものではありません。彼女が大切にしているのは、“誰にとっても見やすく、伝わりやすい”こと。

「どんなに綺麗に仕上がっていても、情報が届かなければ意味がない。どの世代にも読める文字サイズか、導線がスムーズか。いつも“見る人の立場”で考えています。」

それは単なるビジュアルの整備ではなく、“やさしさの設計”。 子育て中の人、お年寄り、観光客――あらゆる人にやさしく届くことを意識しながら、藤原さんのデザインは細部まで配慮されています。

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ユーザー目線でありつつも温かみのあるデザイン

まちに恩返しがしたい

「私はデザインで“自分を表現する”というより、“誰かの想いを引き出す”のが好きなんです。」

現在は、笠岡市の行政や観光協会と連携しながら、地域活性化のためのデザインに取り組んでいます。ポスターや地図を通して、地域の魅力を“伝える”だけでなく“届く”ように整えることが彼女の役割です。

さらに藤原さんは、地域の文化や歴史を深く理解するために、図書館で文献を調べたり、昔話や伝承を追って現地に足を運んだりもしています。

「文献に出てきた場所を実際に歩いてみると、土地の空気感が感じられるんです。それがデザインのアイデアにもつながります。」

こうした取り組みの背景には、「支えてもらったこのまちに、何かを返したい」という真っすぐな気持ちがあります。藤原さんのデザインは、地域への感謝と愛情から生まれています。

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藤原さんがデザインした道の駅笠岡ベイファームの公式キャラクター 「ふぁーむん」
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実際に足を運び取材して作成している笠岡ji-n。行ってみたいなと思わせる工夫がちりばめられている。

地域を活性化させるのは、人の想い

藤原さんが考える地域活性化とは、派手なイベントや話題性ではなく、そこに暮らす人々が自分たちのまちに誇りを持ち、それを誰かと共有したくなる状態です。

「島の人たちは、“誰かが来てくれるかもしれない”と信じて草を刈ったり、整備を続けていたりします。そんな想いがすでに地域の宝物だと思うんです。」

彼女のデザインは、そうした日々の営みや、小さな努力に光を当てることを大切にしています。地域の声をすくい上げ、見える形にし、人と人をつないでいく。静かで確かな“活性化”が、そこにはあります。

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道の駅笠岡ベイファーム池田駅長とは深い信頼で結ばれている。

未来に残したい、“記憶の風景”をデザインする

藤原さんが目指すのは、「また行きたい」と思える場所をデザインすること。10年、20年経っても思い出に残り、誰かが誰かを連れて訪れたくなるような、そんな“記憶の風景”を生み出したいと語ります。

「小さいころ、おじいちゃんおばあちゃんに連れて行ってもらった島。その記憶が大人になっても残っていて、自分の子どもや大切な人とまた訪れたくなる――そんな体験の一部を、デザインで支えられたら嬉しいです。」

まちの未来を、少しずつ、ていねいに描いていく。藤原麻由さんのデザインは、今日も誰かの心にそっと灯りをともしています。